第22話 接待

 無事に白銀の騎士団の救出活動が終わり、俺たち魔法隊は基地に戻る途中だった。

 さすがに夜も遅いこともあり、全員に疲れが見える。


「……死亡者が出るの、初めてですか?」


「ああ……。自分の身の丈に合うダンジョンに潜っていればそんな心配は無いんだがな。この先、ダンジョンではレベルによって入場制限を行うそうだ」


「それが安全でしょうね……」


 さすがにこんな悲惨な事件を放っておくほど財閥も馬鹿ではないようだ。

 

 俺たちも順調とは言わないが、なるべく安全マージンを取りつつダンジョンの攻略に当たっている。しかし、この事件がきっかけで、俺たち魔法隊もより気を引き締めて攻略を進めることにした。



  ◇◇◇



 騎士団の救出作戦から三日後。

 俺はあることに頭を悩ませていた。


「……隊長、あれ、どうにかならないんですか……?」


 移送車の小窓から外を確認すると、多くの民衆が俺たちが降りるのを今か今かと待ち構えている。


「あの騎士団を助け出した、って世間から称賛されているからな。ま、人のうわさもなんとやらってやつだ。気にするな」


「いや、俺、こういうの苦手なんですよ……」


 昔から誰かに注目される、なんていうことはほとんどなかった。

 特に、俺が一番面倒と思っている点は魔法具についてだ。


 あの一件から、当然俺たちが身に着けている装備にも注目が集まる。重火器がいずれ使えなくなるのに、なぜ魔法隊は重火器を使い続けているのか、と魔法省では連日取材の申し込みが絶えないそうだ。


 ありがたいことに隊長がすべて断ってくれているので、俺たちはダンジョン攻略に集中することが出来ていた。


「さて、行くぞ……」


 しかし、そんな俺たちが向かうのはダンジョン、というわけではない。

 俺たちを乗せる移送車は、神宮司財閥の幹部たちが住むというタワーマンションの前に停まっていた。


 魔法省は、天下の神宮司財閥からのお呼び立ては無視できなかったようだ。一体いつまでやつらの手の中に収まっているつもりだと呆れてしまう。


 移送車を降りると、民衆から大きな歓声が沸き上がる。

 一応、財閥の警備員が制しているので俺たちに近づいてくることは無いが、中には俺たちを何とか取材しようとその警備を今にも突破しそうな記者も見えた。


「急ごう。一応、人を待たせているしな」


 隊長はそう言いマンションのエントランスに向かっていった。俺たちもその後に続くよう足早に移動する。


 中に入ると、そこはまるで一流ホテルのロビーのような場所だった。 

 俺たちを待ち受けるように、二人の男が立っていた。周りには、警備員と思わしき屈強そうな男たちが待機している。


「これはこれは、ご足労いただきありがとうございます」


 黒いスーツに身を包んだ男がそう言い軽く頭を下げた。日本人なら知らない人はいないだろう。神宮司財閥会長、神宮司和夫。世界でもトップクラスの資産を誇る大富豪だ。


 そして、その横に立つ若い男が神宮司財閥御曹司、神宮司勇也。かなり容姿が整っており、バラエティ番組に出ていることも珍しくない。


「いえ、お待たせして申し訳ございません」


「いやいや、魔法隊の皆様は大層お忙しい事でしょう。さ、時間も勿体ないですしご案内しますよ」


 そう言うと会長は俺たちを引き連れてエレベーターに移動した。

 話を聞くと最上階にあるラウンジが目的地のようだ。


 エレベーターはガラス張りになっており、東京中の景色が一望できた。

 さすが、金を使うところが違うな……。


 最上階のラウンジに着くと、会長は俺たちを大きな丸いテーブルに案内した。

 テーブルの上には、ケーキやクッキーなどの軽食が用意されていた。


「おお……! 美味しそう……!」


 当然、甘いものに目がない沙織は目の前のスイーツを食い入るように見つめていた。


「どうぞ、召し上がってください。今日は、皆様とお話ししたかっただけなんですよ」


「……なにかお聞きになりたいことが?」


 隊長は微笑みながら会長にそう尋ねる。しかし、その目は相手の本心を見抜こうと全く油断していないようだった。


「まずはお礼を言わせてください。先日、うちの直属の探索者を助けていただいたそうで……本当に助かりました。ありがとうございます」


「いえ、礼には及びません。助けられなかった方もいますし……」


「謙遜なさらないでください。皆様がいなければ助からなかった命もあるとお聞きしています」


 会長はそう言って深々と頭を下げた。

 二人の間に入るように、財閥御曹司、神宮司勇也が話を続けた。


「やはり、魔法隊の皆さんの強さは例の武器が関係しているのでしょうか? 今日はお持ちにならなかったのですね?」


「いえいえ、個々で磨き上げた技術のおかげですよ。武器も牽制くらいにしか使えませんから……」


 隊長は魔法具についてそう説明した。その後ものらりくらりと魔法具については詳細を伏せつつ話し込んだ。


「ところで……聞きましたよ?魔法省もご予算が限られているそうではないですか? 日本の危機だと言うのに、国も渋いものだ」


「……新設の部署にいきなりお金を回すというのも難しいのでしょう」


 そうして、会長は一気に仕掛けてきた。財閥のせいで予算が少なくなっているのも分かっていそうだが。


「そこで一つ、ご提案がございまして……魔法隊の公式スポンサーとして神宮司財閥に応援させていただけませんか? 資金面はもちろん、ダンジョン関係も優遇措置を取りますよ?」


「他の探索者も苦労している中、我々だけが優遇されるのは不平等ですから遠慮させていただきます。現状、何も困っておりませんから」


 隊長は会長の話を切り捨てるようにそう言った。

 その目からは、絶対に相手の思惑通りにさせないという強い意志が感じられるようだった。

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