第15話 攻略・中編

 それからは一方的な戦いになってしまった。

 元々考えていた配置なんかすでにぐちゃぐちゃである。


「隊長! いったん引きましょう!」


 俺は瞬時に分が悪いと判断し、隊長に退却を求める。

 

「……それはできない!」


「なんで!? また体制を立て直してからでもいいでしょう!?」


「退却は不可能なんだ! 入口・・が、無くなった……!」


「え!?」


 隊長の言葉を理解できず、俺は入口に目を向けた。いや、向けようとした、という表現が正しいかもしれない。


「……なんで無くなってるんだよ!!」


 そこにあるはずの入口は忽然と消えていた。どこに目を向けても、入口らしきものは見当たらない。


「王子! どうなってる!?」


「ドラゴンが目を覚ました瞬間、この空間が閉ざされたんだと思う! 探知魔法でも外につながるようなものは見つけられない!」


「なんだよそれ……!」


 ゲームのボス戦じゃねえんだから! あのガキ! ぜってえ許さん!


「多々良くん! 今は目の前の敵に集中しろ! 退路は断たれた!」


「わかってますよ!」


 そうして俺はライフル型魔法具の引き金を引いた。

 ドラゴンの体に吸い込まれるように着弾していき、爆発を引き起こす。だが、まるで効いている様子が見られなかった。


 俺の攻撃が煩わしかったのか、ドラゴンは俺の方に目を向け大きく口を開いた。

 丸見えになった喉の奥には、メラメラと炎が燃えているのが見えた。


「……まずい!」


 俺はドラゴンが何をしようとしているかを理解し、大きく横に飛び込んだ。

 その後、俺が先ほどまで立っていた場所は巨大な炎に包まれてしまった。


「手が付けられねえよ、こんなの!」


 明らかに難易度調整ミスってるだろうが! 何やってんだよあいつは!


「あんた! 何かパパっと片付けられるような魔法具でも作りなさいよ!」


「そんな簡単な話じゃねえんだよ! 弱点も分からないのに何を作れって言うんだよ!」


「それを考えるのがあんたの仕事でしょう!」


「無茶苦茶言うなよ!」


 鈴石はこの状況を打破しようと俺に無理を言う。文句を言う暇があるならなにかアイデアを出してほしい。


「隊長! 迅雷魔法は!?」


「火炎魔法よりは効いている……気がする! ただ、相変わらずピンピンしているぞ!」


 やはり、魔法ごとによってダメージの通りやすさが違うようだ。

 こればかりは、色々試していくしかないだろう。


「鈴石! 雷属性の魔石は!?」

 

「言われなくても今付け替えたわよ!」


 そう言って、鈴石はとある魔法具を構える。今まで鈴石の魔法が通用しないことが無かったので、実戦に使うのは今回が初めてになる。


 ショットガンを基にしたその魔法具は、魔石を交換できるように作成してある。

 敵の攻撃を搔い潜ることが出来る鈴石の身体強化魔法と相性は抜群だ。


「私だって、やられっぱなしは嫌いなのよ!」


 鈴石はそう言って飛び出していった。

 人間とは思えないような機敏な動きでドラゴンに肉薄し、近距離で魔法具をぶっ放していく。


「沙織! そっちは!?」


 俺は鈴石が隙を作っているうちに、物陰に隠れながらなんとか立花さんのサポートをしている沙織に近づいた。


「氷結魔法がかなり効くみたい……! 水魔法も試してみたけど、全然ダメ」


「氷結かよ……。そんな魔石、見たことねえぞ……」


 ここで氷結の効果がある魔石があるならば間違いなく選択していた。しかし、現実はそう甘くない。


「多々良くん! とりあえず今は雷属性で攻撃していこう! 王子はブレスが来るタイミングで早紀と立花くんの前に壁を作ってサポートだ!」


「「了解!」」


 そうして、20分が経った頃だろうか。

 ドラゴンの体にも傷が増え、一方的だった戦況を五分まで押し返すことが出来ていた。


「多々良! 土属性の魔石を寄越せ! ストックが無くなった!」


「はあ!? 消費が早すぎますよ!?」


「仕方ねえだろ!? こいつの鱗が固すぎて大剣にかかる負荷が大きい! 多分、補修に魔力が持っていかれてるんだよ!」


「じゃあ一旦引いて取りに来てください! こっちも手一杯です!」


 俺はそう言いつつ、心の中ではかなり焦っていた。

 あの大剣でさえ通じないってどんだけ固いんだよ! 切れ味を魔力で補う仕組みだが、今まで立花さんが持つ魔石がなくなるようなことは一度たりともなかった。

 自分が作成した魔法具があまり通用しないことになんだか腹が立ってくる。


「凪! あいつの左脚を狙え! とりあえず、あいつの体勢を崩さないと埒が明かん!」


「分かった……!」


 魔石を取りに戻った立花さんは、沙織に向けて指示を出した。

 俺もそんな立花さんを援護するため、物陰から魔法具を撃ち続け注意を引く。


「多々良くん! 私も残りの魔力が少ない! 魔法具に切り替える!」


「魔石はありますか!?」


「心配ない! ストックは十分ある!」


 そう言って隊長は魔法具を取り出して準備を始めた。

 ここで隊長の戦力が一時的に無くなるのか……。厳しいな。


「隊長! こいつの体勢が崩れた時が勝機です! 頼みますよ!」


 立花さんが執拗にドラゴンの左脚を狙いつつ、隊長に声をかけた。

 あの人、頭の後ろに目でも付いてんのか? 状況判断が的確過ぎる。


「拓也! 僕は前衛の二人をサポートしつつ隊長の方に向かう!」


「おう!」


 王子も今からやろうとしている作戦が分かったのか、沙織から離れて場所を移動する。


「沙織! 持ちこたえられるか!?」


「大丈夫……! 多分、あと少し……!」


 険しい表情を浮かべながらも、沙織は物陰に隠れながら魔法を撃ち続けている。

 沙織も残り魔力が厳しいかもしれないな……。


 そんなことを考えていた矢先、ドラゴンがこちらに向けて尻尾を振りかぶった。


「まずい!!」


 俺は沙織に覆い被さるように飛び込んだ。

 今まで身を隠していた柱は粉々に砕け散り、俺の体に小さな破片がいくつか当たってしまった。


「痛ってえ!」


 ただ、その場で悠長に痛がっている暇などあるわけもない。

 俺は自分の体に鞭を打ち、沙織を引き連れて近くの物陰へと隠れることにした。


「大丈夫……?」


「心配するなら早く回復魔法をかけてくれ」


 そうして俺は沙織に回復魔法をかけてもらう。先ほどの痛みが嘘のように消え去り、俺は一旦深呼吸した。


「ふう……あまり戦況が芳しくないな……」


 やはり、氷結魔法があいつの弱点なんだろうが、その弱点を突く沙織は目を付けられやすい。


「わたし、もう限界」


「だろうな。ひたすら魔法を打ち続けているし」


 未だに魔法を使い続けている立花さんと鈴石がおかしいだけだ。


「じゃあ、これを使え」


 そう言って俺は今まで使っていたライフル型魔法具を沙織に渡した。


「ありがと。でも、あなたは?」


「心配いらねえよ。俺にはこれがあるからな」


 俺は腰からリボルバーを取り出してそう言った。


 



 



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