第14話 攻略・前編

「くそっ……! 強すぎんだろ、あいつ!」


「あんた、文句ばかり言ってないで何とかしなさいよ!」


「何とかって! 全然攻撃が効かないんだからどうしようもねえだろう……って、危ねえ!」


 鈴石と口喧嘩のような作戦会議をしていると、炎のブレスの予兆が見えたので近くにあった柱に身を隠す。


『グオオオオオオオオオオォォォォ!!!』


 ブレスを吐き終わり、威圧感を与えるほどの大きな咆哮をあげるモンスターに対し、俺は悪態をつくことしか出来なかった。


「……ドラゴンが出るなんて聞いてねえぞ!」


 絶対今の状況を見て笑っているに違いない神の顔を浮かべながら、俺は赤い鱗に身を包む巨大なドラゴンを倒す手立てを考えていた。



  ◇◇◇



 一時間前。



 俺たちは全人類への天啓を三日後に控えながらも、相変わらずにダンジョン攻略に勤しんでいた。

 俺のレベルも34まで上がっていたが、鈴石に追いつくことはまだ出来ていなかった。

 

「化け物だよあいつ……」


 下層に向かうにつれて強くなっていくモンスターでさえも、まるで赤子の手をひねるようにバッタバッタと倒していく鈴石を見て、俺はそう呟いた。


「それは私も同感だね。いつ私が追い抜かれてもおかしくない」


「いまだに抜かれていない隊長も十分化け物ですよ……」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 隊長はそう言ってにっこりと微笑んだ。

 こんな美人が、今のところ人類最強だと知っても信じる人はいるのだろうか?


「隊長、次の層への階段が見つかったよ」


「了解。やっぱり便利だね、王子の探知魔法は」


「僕はもっと輝けるような魔法が良かったんですけどね。まあ、みんなの役に立てているって実感できていますよ」


 そう言うと王子はいつも通りの眩しい笑顔を見せた。

 

 この一か月弱、魔法隊の隊員は順調にレベルを上げ、新たな魔法を手に入れていた。

 それぞれのステータスは以下の通りだ。



藤井 菊乃(隊長)

レベル:58

魔 法:火炎魔法 風魔法 迅雷魔法


鈴石 早紀

レベル:56

魔 法:爆炎魔法 身体強化魔法


凪 沙織

レベル:42

魔 法:水魔法 氷結魔法 回復魔法


永田 ヒカル(王子)

レベル:45

魔 法:土魔法 探知魔法


立花 武志

レベル:50

魔 法:身体強化魔法 転移魔法


 いくつか魔法を習得したり、元の魔法が派生したりすることが何度かあったが、その法則も未だに掴めていない。

 完全ランダムなのではないか、というのが隊長の推測らしい。


 そして、俺のステータスはというと。


多々良 拓也

レベル:34

魔 法:創造魔法 合成魔法


 これである。

 新たな魔法を習得できたのは、初めてレベルを上げたときだけだった。


「ん? 拓也、どうしたの? 何か考え事?」


「ああ、まあな。なんか新しい魔法でも習得できないかって考えてたんだよ」


「それはもう、神頼みってことくらいしかできないかもね」


 王子は苦笑いを浮かべながらそう言った。

 神頼みって……あいつに頼ってもどうにかしてくれるとは思えないんだよなあ。


「さあ、行こう。次の階層はどんな場所だろうね」


「なるべく過ごしやすいところが良いよな。この前の砂漠型ダンジョンは暑いし砂は服の中に入るし大変だったからな」


「1階層の草原型ダンジョンが一番心地いいよね」


「沙織はお菓子のフィールドが良い。お菓子、食べ放題」


 そんなことを話しながら次の階層へと続く階段を下りていると、先頭を切って歩いていた王子がピタリと足を止めた。


「どうしたのよ? 早く進みなさいよ?」


「いや、それが……」


 先ほどまで談笑していたとは思えないほど真面目な表情を浮かべる王子は、首を傾げた。

 

「どうしたんだ王子? 何か問題か?」


 隊長も王子の様子がおかしいことに気が付いたのか、心配そうに声を掛けた。


「いえ、今まで探知したことがない感じで……。モンスター、なのか……?」


「フン、モンスターなら心配いらないわよ。さっさと行くわよ」


 この状況で自信満々に階段を下っていく鈴石はさすがと言える。悪く言えば、無鉄砲だ。


「まあ、なにかあれば引き返せばいいだろう。私たちも早紀に続こう」


 隊長もそう言ったので、俺と王子も再び階段を下り始めた。

 すると、一足先に次の階層へと辿り着いていた鈴石が足を止めているのが見えた。


「どうしたん……だ……」


 俺はなぜか立ち尽くす鈴石に声を掛けた。しかし、鈴石が立ち尽くす理由は俺の目にも止まったのですぐに判明した。


「ドラゴン……?」


 まるで人の血を彷彿とさせる真っ赤な鱗に身を包んだモンスターは、ゲームでもよく見たことのある姿をしていた。

 10メートルはあろうかという巨体に、背中に生えた羽を折りたたんで地面に横たわっていた。


「寝ているようだな……」


 まるで世界遺産のような神殿を彷彿とさせる空間で、ドラゴンは地響きのようないびきをかいてぐっすりと眠っている。


「どうします? 一応倒しますよね……?」


「ああ、もちろん。向こうが寝ている間に準備を整えて先制攻撃を仕掛ける。まず私と早紀で魔法を打ち込む。やつが起きて体制を整える隙に立花くんは近づいて攻撃を加えてくれ」


「久しぶりに俺の筋肉が喜びそうな強敵だな。しっかりその首を仕留めて見せよう」


 立花さんはそう言うと、俺たちに筋肉を見せつけてくる。暑苦しいからやめて欲しい。


「他の三人は状況に合わせて、私たちのサポートだ。特に、立花くんが一番危険な立ち位置になると思うから、頼んだぞ」


「了解」


 そうして俺たちは着々と準備を進め、すぐに持ち場に着くことになった。

 

 隊長と鈴石が魔法を発動する。かなり強力な魔法を放とうとしているのか、二人の周りには視認できるほどの熱気が渦巻いていた。


 あの二人がいるのは心強いな。一人は性格を矯正してほしいところだが。

 準備が整ったのか、鈴石は隊長よりも早くドラゴンに向けて魔法を放った。鈴石の爆炎魔法は着弾と同時にドガアアアン、と大きな爆発が起こった。

 それに続くように隊長も魔法を放った。風魔法と火炎魔法を合わせて放つその魔法は、かなりの威力を持ちドラゴンへと襲い掛かる。


「立花くん!」


「わかってますよ、隊長っ!」


 立花さんもそんな爆風の合間を縫うようにドラゴンへと襲い掛かる。

 今回もあっという間に片付きそうだな。そう思っていた矢先、隣で待機していた王子が声を荒げた。


「立花さん! よけて!!」


「何!?」


 王子のその声に一瞬戸惑いを見せた立花さんに、立ち上がった煙の中から黒い影が近づいているのが見えた。


「グハッ……!」


 何かに薙ぎ払われるような攻撃を受けた立花さんは、すごい勢いで壁に叩きつけられた。


「立花さん……!」 


「……大丈夫だあ!! それより、気を付けろ! そいつ、相当強い!!」


 普通の人間なら間違いなく死んでいるような一撃を喰らったのに、なぜか立花さんはピンピンしていた。さすがの身体強化だ。


『グオオオオオオオオオオォォォォ!!』


 周りの空気をビリビリと震わせるほどの大きな咆哮と共に、その周辺に巻き上がっていた砂ぼこりが一瞬で搔き消えた。


「……おいおい、何の冗談だよ」


 魔法隊トップクラスの威力を持つ二人の魔法を受けたのにも関わらず、その体には一つも傷が付いていなかった。



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