第13話 鍛錬

 さて、場所は変わってダンジョンの中である。

 本来戦闘員でない俺がダンジョンにいるのか。それは俺の目の前で陽気に大剣を振り回す大男のせいである。


 作成した大剣は大層気に入ってもらえたようなのだが、自分の身は自分で守れるようにならなければ、などと言い、嫌がる俺を無理やりダンジョンに連れてきたというわけだ。

 もちろん、隊長を含め魔法隊全員がダンジョンにやってきている。


「多々良! こりゃあすげえもんを作ってくれたもんだ! 切れ味も抜群だし、何といっても軽い!」


「それは良かったですけど……魔石式の魔道具なんですから魔力の残量には気を付けてくださいよ」


 そういう俺も、ライフル型の魔法具を装備している。

 非戦闘員の俺がいるから上層の方でレベリングをすると思っていたのだが、いきなり他の隊員と共にダンジョン攻略の最前線に連れてこられた。


「さて、多々良。この先はお前のレベリングが優先だ」


 周りにいたモンスターをスパスパ切り刻み、殲滅し終わったタイミングで立花さんはそんなことを言い始めた。


「……あまり気が乗らないんですが」


「そう言うな多々良くん。まあ、立花くんのやり方は少々粗削りなところもあるが、多々良くんにも戦闘に参加してほしいのは我々の総意だよ。何分、人手不足は否めない」


「隊長もエンジニアとして俺を引き入れたんですから、少しは立花さんを止めてくださいよ」


「ハッハッハ、そう言われると耳が痛いね。まあ、そこは諦めてくれ。戦える人材を野放しにしておくほど、私も馬鹿じゃない」


 確かに戦えるってのは嘘じゃないけど……。皆みたいに攻撃魔法が使えるわけじゃないんだぞ。


「グチグチうるさいのよあんた。男ならもっとドシっと構えていなさいよ」


「うるせえ、余計なお世話だ」


「はあ……これだから口先だけの男って嫌なのよね」


 なかなか気が乗らない俺の様子を見て、鈴石は呆れるようにそう言った。

 こいつ、人をイラつかせる天才なの? プロ? プロのイラつかせ屋さんなの?


「おうおう、言ってくれるじゃねえかちんちくりん。俺が本気を出せばお前が倒す分のモンスターも全部殲滅してやれるんだぞ?」


「ち、ちんちくりんですって!? そういうところが口先だけって言ってるのよ! 文句があるなら私よりもレベルを上げてから言いなさいよね!」


 鈴石はそう言うと、自分のステータスボードを見せてきた。驚くことに彼女のレベルはすでに31まで上がっていた。

 くそ、まじでこいつ強いじゃねえかよ……。


「二人とも、怒りすぎ。お菓子食べる?」


 俺らが口論していると、沙織がそう言ってマカロンを差し出してきた。

 凪沙織。普段から何を考えているのか掴みづらいのだが、一つ言えることは大の甘党であるということだ。

 見た目がかなり幼いので年下と思っていたが同い年だと知った時にはかなり驚いた。


「なんでダンジョンまでお菓子持ってきてるんだよ……。ていうか、いらねえよ!」


「そうやって怒るの、糖分足りていない証拠」


「やかましいわ!」


 こいつはこいつでマイペースすぎるし、鈴石のやつは俺に対する当たりが強い。


「ほら、早く準備しなさいよ」


 沙織からもらったマカロンをほおばりながら、鈴石はパンパンと手を叩いて急かしてきた。


「わかったよ! すぐに抜いて見せるから今に見てろよ」


 こうして、俺は半ば鈴石に尻を叩かれるようにダンジョン攻略に勤しむことになったのだった。



  ◇◇◇



「……くそ、全然レベルが上がらねえじゃねえか」


 6時間前の俺に会えるとしたら、その頭をひっぱたいてやりたい。

 あれから休憩も取らずにひたすらモンスターを討伐していた。隊長曰く、殲滅スピードは他の隊員よりもかなり早い方らしい。しかし、そういわれる俺でも、この6時間でようやくレベルが2つ上がっただけだった。

 一応、このダンジョンの最前線でレベリングを行っているわけだから、出現するモンスターも上層のやつよりは大きいし強い。

 もっと簡単にレベルが上がっていくと思っていたが、現実はそう甘くないらしい。

 

「ほら、拓也。少し休憩したほうが良いよ?」


 俺の討伐が一段落したところで、王子が飲み物を差し出してきた。

 それを受け取り、俺は言われた通り休憩を取ることにした。


「頑張りすぎだよ。朝までの拓也はどこに行ったのさ?」


「……負けるのが嫌だったんだよ。実際、鈴石にレベルが劣っているのは確かだからな」


 このペースだと、鈴石に追いつくには到底先のことである。


「そもそも、あいつがあんなに強いって聞いていないぞ?」


「正直、鈴石ちゃんの戦闘センスはこの魔法隊で一番だと思うよ? よくあんな啖呵を切ったよねー」


「知らなかったんだよ!」


 鈴石は必要最低限の魔法で、効率よくモンスターを討伐していた。驚くことに、魔法隊で俺の次に入隊が遅かったらしいが、その戦闘センスでみるみるレベルを上げていったらしい。

 正直、かませ犬キャラだと思っていたが、その腕は超一流らしい。


「全然差が埋まる気がしないんだけど……」


「そりゃあそうさ。拓也がモンスターを倒している間、鈴石ちゃんも同様にモンスターを倒しているんだから。もっと気楽にやりなよ?」


「……くそ」


 超悔しいんだけど! ていうか、あいつに勝てると思っていた俺が恥ずかしいわ。


「今日はこの辺にして帰ろうか。ほら、早紀! 戻るぞ!」


 休憩を終え、もうひと頑張りしようと立ち上がったタイミングで、隊長がそう言って引き返す準備を始めた。


 たしかに、引き返すのにも時間がかかるし、この辺が潮時か。

 そうして、俺も隊長の後を追うようにして歩き始めると、鈴石とたまたま目が合った。


 すると彼女は勝ち誇ったような表情を浮かべ、鼻で笑った。

 いちいち人をイラつかせるなよちんちくりん!


「絶対負けねえ……!」


 こうして、俺は鈴石という高すぎる目標に追いつくため、積極的に訓練に参加することを決意した。

 

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