第16話 攻略・後編
「立花さん! 沙織が魔力切れです! 俺もリボルバーに変えたんで、なるべく近づきます!」
「おう、分かった!」
そうして俺は物陰に隠れてながら、左脚が狙える位置まで移動した。
俺は立花さんとアイコンタクトを取り、左脚に向けて引き金を引いた。
ドガン、という銃声と共に放たれた弾は狙い通りの場所に着弾する。
「……これもあまり効かないのかよ」
かなりの威力があるはずのリボルバーでさえも、ドラゴンの鱗は弾き返す。どんな素材なんだよ!
「多々良! 撃ち続けろ! 所々鱗は剥がれ落ちている! そこに撃ち込めば間違いなくダメージが通るはずだ!」
「了解です!」
そこから俺はひたすら左脚を撃ち続けた。
立花さんや鈴石が射線に入らないように注意しつつ攻撃を続けるのはかなり難しかったが、二人もそのことを意識しているのか俺が攻撃しやすいような立ち回りをしてくれた。
そして、勝機が訪れるのにも時間はかからなかった。
『グギャアアアアアアアアァァァァァァ!!』
立花さんと沙織が執拗に左脚を攻め続けた甲斐があり、ようやく鱗が剝がれた部分に弾を撃ち込むことが出来た。
ドラゴンが体勢を崩し、その場に倒れ込むと同時に、俺たちは散開する。
ここで、とどめを刺すのはあなたしかいませんよ。
「隊長!」
今まで身を隠し、ひたすら攻撃のチャンスを待ち続けた我らが隊長。
彼女は1メートルをゆうに超える、巨大なライフルをドラゴンに向けて構えていた。
隊長が引き金を引くと、その周りは目を開けられないほどのまばゆい光に包まれる。
「終わりだ」
隊長のその一言と共に、ドオオオン、という爆発のような銃声が響き渡る。
その一撃は、今まで散々苦労した鱗をいとも簡単に撃ち抜き、俺たちの長い戦いはそこで幕を下ろしたのだった。
「か、勝った……」
すぐにドラゴンは塵となって消えてしまい、その場にはサッカーボールほどの大きさの魔石と、散々俺たちを苦しめた鱗が数枚落ちていた。
そして、俺を含め魔法隊全員の体が淡く光りだす。
「そりゃ、レベルも上がるよな」
正直、今まで戦ったモンスターと比べると雲泥の差だった。あんなギリギリの戦いなんて二度と経験したくない。
「とりあえず、帰りま……す……」
近くにいた立花さんに声を掛けようとした時、めまいのような感覚が遅い、その場に倒れ込んでしまった。
この感覚、身に覚えがある。
そんなことを考えながら、俺の意識はそこで途切れてしまった。
◇◇◇
「さすがだね!多々良くん!」
「その前に何か言うことはねえのかよがきんちょ!!!」
そう、なぜか俺は再び白い部屋へ訪れていた。最初にここに来た以来、2回目になる。
「い、一応ボクにはメアリっていう可愛い名前があるんだよ?」
「やかましい! 危うく俺たちは死ぬところだったんだぞ!?」
俺は胸倉をつかみ、事の顛末についての説明を求めた。
「いや、あれに負けるとは思っていなかったよ? 実際、きちんと倒したじゃないか?」
「心の準備ってものがあるだろうよ!? いきなりレベルが跳ね上がりすぎなんだよ!」
「そ、それは君たちの油断でしょ? そ、そう。ボクは君たちに緊張感を持ってほしかったんだよ」
「絶対お前のミスだろう!」
とってつけた言い訳をするなよ。これが神ってんだから世も末だな。
「と、とりあえず落ちついてよ……。君をこうして呼び出したのは理由があるんだから」
「理由……?」
俺は煮え切らない気持ちを何とか抑え、とりあえず話を聞くことにした。
「ほら、もうすぐ約束していた神託の日じゃない? ただ、全人類に神託を行うとなると、ボクもさすがに疲れちゃうんだよね。だから、君とこうして会えるのはしばらく先になるんだ」
「へえ、意外としょぼいなお前」
「余計なお世話だよ! まあ、その前に君に話しておきたいことがあってね。多々良くん、君は自分の魔法を気に入っているかい?」
突如真剣な眼差しでメアリは俺に問いかけた。
「何? 気に入っていないって言ったら変えてくれんの?」
「ハハハ、さすがにそれは出来ないんだよ。今、神託に向けて力を貯めているところだから。ただ、君自身がその魔法の可能性に気が付いていないようだったからさ」
「可能性? そりゃ、便利な魔法具を作れるようになったし、魔法隊でもうまく活用しているぞ?」
あのドラゴンを倒したのも、俺の魔法具から放たれた一撃からだったのだ。大活躍と言ってもいいだろう。
「ボクが言いたいのはそういうことじゃないんだよ。多々良くん、君はまだ魔法具を作るときにリミッターを掛けている。言ってしまえば中途半端な魔法具なんだよ」
「そうか? あれでも結構周りからは物騒だと言われてるんだよなあ」
「うーん、言い方を変えようか。本来用意できた強力な魔法具が無い状態で、さっきよりも強大なモンスターが現れたらどうする? 誰が君を、友人を助ける?」
メアリはにっこりと微笑んではいたが、その目の奥には悲しさが湧き出ているようだった。なんだか調子が狂ってしまうな……。
「強大な敵って……その頃には周りが何とかしてくれるだろう? 俺はしがないエンジニアなんだんだから」
「ほら、そんなこと言わないでさー。ね、頼むよ? もう周りがドン引きするほどの魔法具を作って楽しませてほしいなあー? 今度会った時には魔法でも何でもプレゼントするからさ? ね?」
「……ったく、分かったよ。常識外れの魔法具を作って、それで後から文句を言われる筋合いは無いからな?」
「やったあ! それじゃあ楽しみにしてるね!」
先ほどとは打って変わり両手をあげて大喜びするメアリだった。
あ? さっきのは演技か? ちょっと本気にしてしまった俺の純粋さを何だと思ってんの?
「君の活躍次第でご褒美のレベルは上下するからね? すごいものが欲しいなら全力を尽くしてね?」
「はいはい、分かった分かった」
「むう……なんか適当だな……。とりあえず、頑張ってね!」
メアリがそう言うと、部屋には黒い煙が充満し始めた。
そうして俺の意識は、再び暗闇へと沈んでいった。
◇◇◇
「多々良くん、ごめんね。君には、もっと頑張ってもらわないといけない。君がボク達の希望になるには、まだまだ足りない……」
多々良拓也がいなくなったあと、メアリはそんなことを呟いた。
しかし、その呟きを聞くものは誰一人いなかった。
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