第7話 秘匿
「なんですか、その、ゲームみたいな話……。そのうち魔王でも出てくるんですか?」
「それはわからない。ただ、この前の福岡の事件があっただろう? なぜ我々がすぐに駆け付けたのか不思議に思わなかったかね?」
「それは、まあ……」
確かに、事前に場所が分かっていなければ説明がつかないほど対応が早かったよな。
「ところで多々良くんは”神”を信じるかね?」
「神、ですか? いえ全く」
子供の頃はクリスマスにプレゼントをもらい、年末には除夜の鐘を聞いて、年が明けると神社に初詣に行くような家庭だった。まあ、日本人は昔からそういう家庭が多かったみたいだし、俺が異常ということでもないだろう。
しかし、神か……。今から怪しい宗教勧誘でも受けるのだろうか?
「私達が事前にモンスターが出現する場所が分かっていた理由。それは自分を神と名乗る人物が教えてくれたからなんだよ」
「……へえ」
にわかには信じがたい話に、俺は適当な返事しかできなかった。もちろん俺の心境を読み取ったように、藤井さんは慌てだした。
「おい、多々良くん、私の話を信じていないよね? そんな可哀そうなものを見る目で私を見ないでくれよ……。そうだ、君にも少し実験台になってもらおうか」
「実験台……ですか?」
「そう、実際に神から『神託』を受けたことがあるのは、私を含めた魔法隊の隊員だけなんだ。そして、その『神託』を受けられるタイミングはすでに判明している。ダンジョンにおいて初めてのレベルアップを経験することなんだ」
「ダンジョン……?」
いきなり新しい情報を詰め込まれてしまい、俺の情報処理能力はすでに限界を迎えそうだった。
◇◇◇
「さあ、ここがダンジョンの入り口だ」
そうして俺が藤井さんに連れてこられたのは、一見飛行機などが収納してあるのではないかというほど大きな格納庫の前だった。
扉を開けると、地面に大きな穴が開いており、地下へと続く階段が見えた。
ちなみにレベルアップの条件は、魔法省のみが知っている情報らしい。先ほど藤井さんのステータスを見せてもらったが、レベルはすでに32と表示されていた。
魔法も火魔法のほかに火炎魔法という魔法が表示されていたので聞いてみると、レベルが上がって新たに取得した魔法らしい。正直、そんな情報を魔法省のみが独占してると知られたら日本中から非難の嵐にさらされるだろう。
「上の階層なら君の魔法具で一撃だと思うよ。まあ、ゲームを楽しむイメージでやってみるといい」
「ゲームって……本当に大丈夫なんですか?」
「ハハハ、多々良くんは慎重すぎるなあ。すでにこの場でレベリングを行っている私が保証するんだ。安心してほしい」
「それならいいんですけど」
右手に持ったリボルバー型の魔法具を手に自然と力が入る。
そうして俺は藤井さんと共にダンジョンへと続く階段をゆっくりと降りて行った。
階段を降り始めて一分ほど経っただろうか。俺の目の前にはどう考えてもありえない光景が広がっていた。
「なんで地下に草原が広がってるんだよ……」
それに加え、綺麗に澄んだ青空も広がっている。本来であれば、地下に降りてきたことになるので天井は土で覆われていないとおかしいのだが。
「どういう原理ですかこれ? 違う場所に転移したとか?」
「神が言うには、ダンジョンは一種の異空間らしい。ダンジョンに来るには先ほどの階段を降りてこないとたどり着けないんだ。地上から穴を掘っても、ここに来ることはできないらしい」
「それは……いかにもファンタジーみたいですね」
もう、どうでもよくなってきた。
俺は考えることをやめて、藤井さんと共にダンジョンを歩きだした。すると、すぐにゲームでもよく見るような粘液状のモンスターが目の前に現れた。
「スライム……?」
「お、多々良くんも意外とゲームなんかやるのかい?」
「ええ、まあ。やり込むほどまでではないですが……」
最近流行しているVRゲームにはこういうファンタジー世界を題材としたゲームも多く販売されているし、俺も何作かプレイしたことがある。
目の前に現れたのはまさにゲームで出てくるようなスライムそのものだったのだ。
「ほら、スライムの体の中に赤い石のようなものがあるだろう? 私たちはあれを魔核と言っているのだが、モンスターにとっての弱点はあの魔核らしい」
「そうなんですか……」
しかし、そんな弱点を隠すことのできない半透明の体なんて、ここを狙ってくださいとでも言っているようだな。さすが、ゲームでも最弱の地位に存在するスライムだ。
俺はすぐにリボルバーをスライムに向けて構え、引き金を引いた。
ドオオオンと、いつも通りの激しい銃撃音と共に弾が発射されると、スライムはベチャッという音と共に粉々になって消えてしまった。
「……いや、強すぎじゃない?」
「ハハハ……魔核なんて多々良くんの武器には関係ないようだね……」
これを万が一人に向けて撃ってしまった場合など、考えたくもない。
「とりあえず、レベリングを続けようか」
そうして俺たちは再びダンジョンを進み始めた。
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