第8話 神託

「ふう……レベルってなかなか上がらないものなんですね」


「まあな。多々良くんもすでにかなりの数を倒しているからもうすぐだと思うんだが……」


 すでに3時間はモンスターを倒し続けている。しかし、俺のレベルは一向に上がらずまだレベル1のままだ。


「なんか、モンスターを倒してるっていう実感があまりないんですよね」


「まあ……今までのモンスターはすべて一撃だからね。それが普通じゃないということは理解しておいてくれよ? 私が隊長で良いのか分からなくなってくる」


「分かってますよ」


 俺はそう言いつつ、目の前に出てきた狼型のモンスター、グレイウルフに向けてリボルバーの引き金を引いた。


 俺と藤井さんはすでに3階層まで降りてきている。ちなみに、訓練に向かった他の隊員はこのダンジョンの15階層の攻略に当たっているらしい。俺とはレベルが違いすぎるらしい。


 そうして、再びダンジョンを進もうとした際、俺の体が淡く光りだした。


「……は? なんだこれ?」


「おおっ! ようやく来たか! それがレベルアップした際の現象なんだ」


「そうなんですか」


 もうちょっと分かりやすいシステムは無かったのか? レベルアップした時にBGMが流れるとか。


 そんなことを考えていた時、突如めまいのような感覚が俺を襲い、目の前が真っ暗になってしまった。



  ◇◇◇



「……はっ?」


 俺が目を覚ますと、目の前には知らない天井、なんていうものは無かった。距離感が掴みづらい真っ白な部屋に横たわっていることに気が付くのには時間はかからなかった。


「どこだここは?」


 あたりを見回しても家具一つないし、驚くことにこの部屋に出入りするようなドアもない。どうやってこの場所に来たんだっけ?


「あ、そういえばレベルが上がって……」


「やあ、気分はどうだい?」


「うお!?」


 今まで誰もいなかったはずの背面から声を掛けられ、俺は心臓が飛び出るほど驚いてしまった。


「アハハ! 驚いた? いやあ、最近ボクに会いに来てくれる人がいなくて寂しかったんだよ?」


 振り返ると、見た目は12歳ほどに見えるかなり幼い子供が無邪気に笑っていた。少年にも少女にも見える中性的な見た目をしているこの子が、藤井さんが言っていた神という人物なんだろうか?


「ああ、すでにあの子から聞いたんだね? そう、僕は君の世界の神さ。といっても、みんなが信仰している神ではないよ? あれは君たち人間の理想が作り出した幻想の神だから」


「幻想?」

 

 というか、人の心を読むなよ。プライバシーもくそもあったもんじゃない。


「そうそう。だって君たちの世界って神様の数がすごいことになってるでしょう? そもそも本当の神はこうやって多少は世界に干渉することができるんだ」


「それは……聞く人が聞けば大暴動が起きそうだな」


「ところで多々良くん。君ってとっても面白い道具が作れるんだね? 君たちの世界で言う拳銃みたいなものも作れるなんて、創造魔法を君に与えたのは大成功だったよ」


「そりゃどうも」


 こうみると本当に無邪気な子供にしか見えない。神という人物がこんなのだと正直拍子抜けしてしまう。


「子供って失礼だな! 一応神様なんだからもうちょっと敬意を払うってことを覚えたらどうだい?」


「だから心を読むな! ったく、なんだか調子が狂う……」


「ところで多々良くん。君の世界にモンスターが出現したのはなぜだと思う?」


「なぜって……そりゃお前が出したんだろう? 世界に干渉してるって自分で言ったじゃないか」


 まあ、これが夢でもない限りこいつが神っていうのは本当なんだろう。藤井さんが言った通りのタイミングだし。


「惜しい! まあ半分は正解かな。君たちの世界は科学っていう技術が発展しているだろう? まあ、そういう世界も悪くは無いんだ。度が過ぎない限りは」


「……ということは、今のままだと度が過ぎる発展っていうことか?」


「そういうこと。もともと君たちの世界にも魔力は存在していたんだよ? 本来は魔素っていうんだけどね。科学っていう技術が発展していくにつれて自然が減り、その力はほとんどないに等しい世界に変わってしまったけどね」


「そりゃあ……俺に言われてもどうしようもないな」


 俺が生まれた頃にはすでにこういう世界だったし。


「というより、それが気に入らないならもっと早く手を打てばよかっただろう?」


「いやあ、ちょっとお昼寝と思って休んでいたら三千年くらい経ってたみたいで。気が付いたら世界がびっくりするくらい変わってたんだよね。うっかりうっかり」


 そういって自称神は頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。

 昼寝で三千年って……時間の感覚がおかしすぎるだろう。


「それで、藤井さんから聞いたが三か月後にモンスターが溢れるっていうのはどういうことなんだ? そうしなければならない理由も聞かせて欲しいんだが」


「そりゃあ、世界のバランスを整えるためだよ。上の神様に申請書を出して許可ももらってるから心配いらないよ?」


「上の神様って……」


 会社かよ。神様の世界にも上下関係があるなんて知りたくもなかったよ。


「君たちの世界は魔素が少なすぎる。科学っていう技術は他の世界にはあまりない技術なんだけど、その力は魔素を必要としない世界に変えてしまう。一応、管理する世界の評価基準は魔素の量で決まるから、このままだと怒られちゃうんだよね」


「あまりにも個人的な理由だな!? ほったらかしにしたお前のせいじゃねえかよ!」


「いやあ、耳が痛いね。まあ、原理を説明すると三か月後に地上に現れるモンスターを倒すと空気中に魔素が広がっていく。元に戻るには大体、百億体くらい倒してもらうことになるかな」


「ひゃ、百億!?」


 随分途方もない数字だな。何十年かかるんだよ……。


「まあ、今の技術なら海外の軍隊や自衛隊なんかも対応に当たるだろうし……」


「何言ってるの? 世界のバランスを整えるためだと言ったよね? 科学技術の塊がそのまま使えるわけないじゃん」


「え? それってどういう?」


「だから、言ってしまえばこれは今の科学技術を衰退させようっていうものなんだよ。三か月後にモンスターを出す時には電気も使えないし、重火器や爆弾なんて世界から消すつもりだよ」


「……まじで?」


 どうやらこの世界は超ハードモードに突入するようです。

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