第4話 スカウト
場所は変わって、我が家のリビングである。
なぜか千詠も同席して、藤井さんと3人で話し合うことになったのだった。
「いやあ、こんな可愛らしい妹さんと二人きりで生活なんて、羨ましいなあ」
「ああ、良ければお持ち帰りくださ……」
俺が冗談を交えてそんなことを言おうとすると、飲み物を出し終わった千詠はお盆で俺の脇を突いた。
「じょ、冗談だよ……」
「アッハッハ! どうやら妹さんの方が一枚上手のようだな!」
「笑い事じゃないですよ……。ところでさっきの話、詳しく説明してもらえますか?」
俺は話を戻すため、藤井さんに話を振った。
「ああ、その前に多々良くんに1つクイズを出そうか。現在日本には創造魔法の使い手が何人いると思う?」
「数がかなり少ないというのはネットの記事で見ましたけど……。500人とか?」
「いや、もっと少ないさ。127人だよ。まだ国民全員の魔法が判明してないとはいえ、9割ほどは確認済みだからね。いたとしてもあと数人だろう」
へえ、思ったよりもかなり少ないんだな。今、日本の人口が7千万人くらいだから、結構レアな魔法だ。
「その創造魔法についてなんだが……実は、実際に使える人はもっと少ないんだ」
「え?少ないってどういうことですか?」
「正確に言うと使いこなせる人がほとんどいないってことかな。金属製の小さな玉を作るだけで魔力を使い果たしてしまうんだよ」
「……まさかでしょう?」
じゃあ俺の創造魔法はなんだと言うんだ。頭にイメージできる物ならほとんど作れるし、魔力を使い果たしたことは数回程度しかない。
「自分がどれほど規格外か気がついたようだね?」
「まあ、一般的な創造魔法とは違うということは理解できました。でも、正直俺が作れるものなんて、この科学技術が発展している世の中ではあまり役に立ちませんよ?」
千詠にはガラクタ呼ばわりされているものばかりだしな。劣化版家電製品みたいなものだ。
「それでも、私は君が欲しいんだよ多々良くん。その理由は……君が入隊するまで伝えられない。国が管理する機密情報に関わるからね」
機密情報、ね。そりゃそうだろう。魔法隊について詳しく知るのは国の上層部だけだろうし、もちろんネットにもその情報は載っていない。
まあ、そこまで知りたいことでもないし、丁重にお断りしよう。
俺がそう考えて口を開こうとしたが、先に言葉を発したのは千詠だった。
「あの、お兄ちゃんが仮に魔法隊に入隊することになったら、どんな仕事に就くんですか?」
「簡単にいえばエンジニアだね。魔法隊員が使う武器や道具のメンテナンス、それに加えて新たな魔法具の開発なんかもやってもらうことになる。多々良くんが戦線に向かうなんていうことは、現状あまり考えていないかな」
「それならこの話受けても良いんじゃない?」
そう言って千詠はとびきりの笑顔をこちらに向けてきた。
おい、俺が断ろうとしていたのに何勝手なこと言い出してるんだよ。
「そんな簡単に言うなよ。そもそも、俺、魔法具って言ってもあまりろくなものは疲れませんよ?ほら、この『白湯専用マグカップ』とか」
「あ、お兄ちゃん。ちょうど良いものがあるじゃない。例のけんじゅ……」
「だああああああああああ!!!!!」
俺は慌てて千詠の口を塞いでリビングから連れ出した。
「おい、余計なこと言うなよ。あれがバレたら最悪俺の人生終わるんだぞ?」
「アハハ、ごめん……。でも、あの人になら言っても大丈夫じゃない?なんとかしてくれそうだし」
「なにを根拠に言ってるんだよ?」
魔法隊入隊から刑務所へ入所という最悪の事態をなんとか塞いだ俺は、背中にとんでもない量の冷や汗をかいていた。藤井さんが帰ったら覚えてやがれ千詠のやつ。
「いやあ、すみません。ちょっと千詠の口に虫がついてまして……」
「まあ、無事ならよかったよ。それでさっき妹さんが言いかけたけんじゅ、というのは?」
「え? そんなこと言いましたっけ? ああ、そう、あの、ケージ、ケージです。もし動物を飼った時に必要かなと思って」
俺の苦しい言い訳を聞くと、それは無いわ、とでも言いたげな表情で千詠は俺に冷たい視線を向けてきた。誰のせいだよ!
「そうかそうか。多々良くんは動物が好きなんだね」
「ハハハ、そうなんですー」
よし、何とか誤魔化せた。もう、今日はこの辺で帰ってもらおう。そのうちボロが出そうで心臓がいくつあっても足りない。
「藤井さん、魔法隊も設立したばかりで忙しいんじゃないんですか?」
「ん? まあ忙しくないといえば嘘になるね。じゃあ最後に一つ、私から質問して良いかな?」
「ええ、答えられる範囲であれば何なりと」
よし、適当に答えてさっさと帰ってもらおう。
「車から見えたんだが……裏にある大木の穴、あれはどうしたのかな?まるで何かで撃ち抜かれたような大穴だったけど?」
「チョットナニイッテルカワカラナイデス」
どうしよう。本当に刑務所に入ることになるかもしれない。
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