第3話 魔法隊

 モンスターが発生してから一日が経った。

 朝の報道番組では相変わらず、モンスターについて報道、かと思いきや全く別の話題で持ちきりだった。


 魔法省管轄、対モンスター特殊部隊の魔法隊である。

 

 昨日、モンスターが現れた際、その対応に当たるのは警察や自衛隊だと思い込んでいた。しかし、現れたのは臙脂色のマントに身を包んだ謎の集団である。

 まるでゲームのような攻撃魔法でモンスターとの戦闘を始めると、あっという間に殲滅してしまった。


 突如現れた救世主、というような特集が組まれ、その集団が新たに設立された魔法省の特殊部隊であると発表された。


「魔法隊、ね」


 昨日、魔力が増える仕組みのことを千詠と話したが、企業どころか国を挙げた一大事業が秘密裏に進められていたことになる。


 しかし、俺は一つの疑問を浮かべていた。


「なんでモンスターが出現するのが分かってたんだろうな」


「そこだよね。ネットでも、一部の人が国の陰謀だって騒いでるよ」


 そう、あまりにも魔法隊の到着が早かったのである。

 俺らが魔法具の試し打ちをしている間、すでに事態は収束していた。

 魔法省が設立されているのはもちろん東京都だ。しかし、モンスターが出現したのは福岡県。東京から福岡まで、早くても一時間半だ。時間的に考えても、事前に場所が分かっていた以外の理由が見つからないのである。


「ちょっと気になるよなあ」


「そんなお兄ちゃんにご案内でーす」


 そう言うと千詠は、情報番組が映っていたモニターにPCの画面を映した。

 そこには魔法隊員募集、と書かれ、先ほども見た臙脂色のマントを着た隊員の写真が載っていた。

 

「え?俺にも魔法隊に入れっていうの?」


「なんか面白そうじゃない?意外とモンスターも弱いみたいだし」


「そもそも俺の魔法は戦闘向きじゃないって」


「いや、あんな武器が作れるだけでも十分戦力じゃない?それに、魔法隊員って給料も高いみたいだし」


「俺は毎日魔法具を作ってるだけの生活で間に合ってるんだよ。千詠を養っていくには十分の金は稼いでるし」


 そう言って俺は話を切り上げた。千詠は不満そうにこちらを睨んでいたが、気にしないことにする。千詠は多分、魔法隊の内部情報が気になっているだけだろうし。


 ソファにドカッと座り込み、携帯を見ると一件の通知が届いていることに気が付いた。


「お、魔法具が落札されたのか」


 珍しさで落札する物好きもいたんだな。

 落札されたのは魔力式のIHコンロだった。落札額は2千円だったので、送料を含めると雀の涙ほどの利益しかない。まあ、処分するにも金がかかるし、むしろ落札されたことに驚いた。


 すぐに梱包して、宅配便の集荷サービスに連絡すると、15分ほどで自動配達ロボットが家の前にやってきた。


「オマタセイタシマシタ。ニモツヲオアズカリイタシマス」


「はいはいご苦労さん」


 荷物を渡すとキュイーンというモーター音をあげながらものすごいスピードで去っていった。


 

  ◇◇◇


 数日後。


 家の前には杖と月をモチーフにしたようなマークが描かれている一台の大きな車が停まっていた。

 

 普段見かけない車だったので、俺は道に迷ったものだと考えて声をかけることにした。

 俺が玄関を出ると、運転手も俺に気がついたのかぺこりと頭を下げてきた。


 すると、助手席から俺と同年代か、それより幼く見える女性が降りてきた。しかし、その女性の服装には見覚えがあった。情報番組で放送されていた、魔法隊員が羽織っていた臙脂色のマントをその女性も身につけていたのだった。


 なぜ魔法隊が……? そんな考えが頭をよぎる中、俺の顔を見るなりその女性が足早にこちらに向かってきた。


「なあ君、このあたりに多々良拓也という人物は住んでいないかな?」


「え……? いや、俺が多々良拓也ですけど……」


「そうか君が! 初めまして多々良くん! 私は魔法省、魔法隊で隊長を務めている藤井だ。よろしく!」


 そう言って藤井さんは俺の手を取ってぶんぶんと振り回す。

 しかし、俺は状況を上手く飲み込めていなかった。なぜ魔法隊が俺に会いに来ているのか思い当たる節が無かったからである。


「あの、なんで魔法隊の隊長が俺に会いに?」


「ああ、すまない。少しはしゃいでしまった。多々良くん、創造魔法で魔法具を作ることができるんだろう?」


「ええ、まあ。でも、なんでその事を?」


「君が作った魔力式のIHコンロ。あれにとても可能性を感じたんだ」


 そう言われて、俺はまさかと思いオークションサイトで落札者の情報を確認した。


 ハンドルネームは『ふじりん』と記載されており、目の前にいるのは藤井という女性である。


「この『ふじりん』というのが、藤井さんのアカウントなんですか?」


「ま、まあ名前は気にしないでくれ」


 少し頬を赤く染め、頭をかきながら藤井さんはそう言った。恥ずかしいならそんな名前付けるなよ、とつっこみたくなったが我慢しておく。


「単刀直入に言おう。多々良くん、君を魔法隊のエンジニアとして迎え入れたいと考えているんだ」


「……は?」


 藤井さんのとんでもない爆弾発言に、俺は開いた口が塞がらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る