第2話 異変
俺がぐっすり寝ていたところ、部屋のドアをドンドンと激しくたたきつける音で目が覚めた。
無論、この家唯一の同居人である千詠である。
「ちょっと、お兄ちゃん!起きてよ!」
「休日の朝からうるさいなあ……」
俺が部屋の時計に目をやるとまだ7時にもなっていない。俺の睡眠時間は3時間も取れていないということだ。
布団から這い出るように出てドアを開けると、千詠が俺の胸ぐらをつかんできた。
「なにしてたの!早く来て!」
「お、おい。こっちは寝起きなんだぞ……」
千詠に半ば引きずられるようにリビングに向かうと、テレビにはニュース番組が流れていた。
しかし、どうも様子がおかしい。緊急速報と見出しにも出ている。
「なんか、変な生き物が町中に溢れているんだって……。どうしようお兄ちゃん、もう外なんか出歩けないよ」
「フェ、フェイクニュースか新作ゲームの広告じゃねえの?こんなの普通はありえ……」
あり得ない、そう言おうとしたところで俺は思い出す。
そうだ。あり得ない事象なんてすでに起きている。現実世界で魔法が使えるなんて、一か月以上前の人類は全く考えたことも無かっただろう。
「いや、でも大丈夫じゃないか?すぐに警察やら自衛隊やらがささっと退治してくれるだろ。俺たち一般人は優雅に待っていればいい」
俺は千詠を励ますように、なんとか笑顔を取り繕ってそう言った。
千詠も今日は友達と遊ぶ予定だったらしいが、当然予定はキャンセルである。
二人とも食欲はあまり湧かなかったが、流れてくるニュースを眺めながら、なんとか朝食を胃に詰め込んだ。
「とりあえず、護身用の武器みたいなの作っておくか」
「え?お兄ちゃん、あんなのと戦うつもりなの?」
「念のためだよ、念のため!だからその変なものを見るような目をやめろ!」
頭おかしいんじゃないの?とでも言いたげな視線を向けてきた千詠に俺はそう言った。
まあ、さっき俺が千詠に言った通り、警察や自衛隊が何とかしてくれるだろうが、この近くにあのモンスターが現れるか分からないしな。保険みたいなものだ。
できれば飛び道具が良いよな。返り血とか浴びたくないし。
「拳銃みたいなものにするか」
「お兄ちゃんそれ大丈夫?ほら、銃刀法違反とか」
「こんな世の中になったんだ。少しは大目に見てくれるだろう。いいか千詠。世の中にはこんな言葉がある。バレなきゃ犯罪じゃない」
「それ、完全に犯罪者が使うセリフだよ!?」
そんな風に言わなくても良いじゃねえか。お兄ちゃん、悲しいよ?
「ああ、そういえば昔の失敗作にも拳銃みたいなものがあったんだよ」
昨日、ネットオークションに商品を出品する際、あまりにも物騒すぎるので出品を取りやめたのだ。
「……失敗作って大丈夫なの?」
失敗作と聞いて、千詠は少し不安そうな表情を浮かべた。
「失敗作って言っても、威力の調整を間違えたものなんだよ。ちょっとだけ威力が強すぎたんだよ」
俺はそう言いつつ、自分の部屋にその武器を取りに向かった。
手に取ったのは、リボルバーのような見た目をした拳銃型の魔法具だ。普通の拳銃と違うのは弾を込める部分が見た目だけの飾りである点だ。
俺は再びリビングに戻り、千詠に武器を見せる。
「うわぁ……本当にお兄ちゃん捕まるよ……?」
千詠はリボルバー型の魔法具を見て、ドン引きだった。
「一応秘密だぞ?ほら、それより失敗作っていう理由を教えてやるよ」
そうして俺は、モンスターが近くにいないか用心しながら、家の裏にある雑木林にやってきた。
徒歩10秒、ド田舎の証である。
「あそこの木に撃ってみるぞ。耳を塞いでおけ」
俺は近くにあった幹が直径50センチはあろうかという大木に向けて引き金を引く。体から何かが少し吸われるような感覚の後、リボルバーの銃身が少し光る。
直後、ドオオオン!!という激しい音と共に、魔力製の弾が大木に向けて飛んでいき、直径20センチほどの大穴を開けた。
「……な?失敗作だろ?」
「お兄ちゃん!なんていうものを作ってるの!」
「ほら、この威力にしては反動も意外と少ないし、次に活かせるだろう?失敗は成功の元ってよく言うし」
「そんなこと聞いてないよ!」
俺のリボルバーの威力を見た千詠はかなり怒りながら家に戻っていった。
失敗作だからってそんなに怒らなくてもよくない?
すぐに俺もリビングに向かうと、千詠は椅子に掛けて頭を抱えていた。
「ところでお兄ちゃん。その武器のこと、誰にも言っていないよね?」
「言うわけないだろ。捕まりたくないもん」
「もんって……自分の年考えたら?」
冷たい視線を送りながらそんなことを言う千詠。やめて!お兄ちゃんのヒットポイントは一撃でゼロになっちゃうから!
「まあ、その武器はその武器で良いんじゃない?威力には注意しなきゃいけないけど、強い分には安心だし」
「そう言ってもらえたなら良かったよ」
「一応私にも作って欲しいんだけど、もっと威力の低いもので良いからね?多分、さっきのやつだと一発撃っただけで魔力無くなるし」
「……嘘でしょ?」
え?千詠って魔力が少ない人なのか?
俺が不思議に思っていることが千詠にも伝わったのか、呆れたようにため息をつかれた。
「お兄ちゃん。よくゲームなんかだと魔法を使うにつれて威力が上がったり消費する魔力が減ったり、なんてシステムがあるでしょう?多分、それと似たようなシステムなんだと思う。魔法を使い続けると、徐々に使える魔力が増える、とかね」
「そういうものなのか?それにしてもなんで千詠がそんなこと知ってるんだ?」
「あくまでも仮定の話。それに、これって魔法を研究している企業ならもう気が付いていると思うんだよね」
「でも、そんな話聞いたことないぞ?」
魔力が増える仕組みが判明しているなら、それこそ一大ニュースとして報道されていてもおかしくない。しかし、この一か月の間のニュースは日が経つにつれて魔法のことを報道することが少なくなっていた。
そこで俺は気が付いてしまった。
「まさか……」
「うん。多分、気が付いている人たちは隠しているんだと思う。なんのためかまでは分からないけどね」
「金儲けとか、その辺だろうな」
未知のエネルギー技術を世の中に広める前に、とことん研究してしまおうって魂胆か。まあ、気持ちは分からなくもないけどな。
「ほら、お兄ちゃんのガラク……魔法具って私、結構試したでしょう?」
おい、ガラクタって言っただろう。今更取り繕わなくてもいいよ!
「色々試しているうちに、私の魔力がかなり増えていることに気が付いたの。今ならかなり長い時間火を出し続けることができるし、使える魔法も少し増えたの」
「じゃあ、千詠の魔力が少ないんじゃなくて……」
「お兄ちゃんの魔力が多すぎるんだよ。それも異常なほどに」
そう言う千詠は、呆れたような表情を浮かべていた。
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