魔法隊のエンジニア〜好き勝手に魔法具を作っていたら魔法隊にスカウトされた件〜

まぐな

第一章 ダンジョン編

第1話 はじまりの日

 21XX年、変わらない日常が過ぎていたある日、世界は一度暗転した。

 それも、ほんの一瞬の出来事だったので、少し立ち眩みしてしまったと感じた人がほとんどだった。

 

 人類が異変に気が付いたのはその直後、目の前に半透明の板のような、『ステータスボード』が出現してからだ。

 名前、レベル、魔法の3つしか表示されなかったが、VRゲームが大流行している現代において、そのシステムが受け入れられるのはかなり早かった。


 どういう原理か、現実世界で魔法が使えると判明し、1か月ほどはそのニュースで持ちきりだった。政府も不測の事態に対応するために、新たに魔法省を設立し、個人が所有する魔法の情報を管理した。犯罪、テロに魔法を悪用する輩が出てくるだろうと考えられたらしく、魔法省の設立までは半月もかからなかった。

 しかし、多くの人類に発現した魔法は、指先にマッチ程度の大きさの火を出したり、コップ一杯程度の水を出したりする程度だった。

 魔法が発現した当初は、多くの企業が未知のエネルギーに期待し研究を進めたらしいが、そのプロジェクトもすぐに中止された。


 レベルに関しても、全人類がレベル1だったが、レベルを上げる手段も解明されなかったのである。


 人々の暮らしは、ほとんど変わることなく、いつもの日常が訪れるのも遅くはなかった。




 ◇◇◇


「よし!できた!!」


 久しぶりの休日を前に、俺、多々良拓也は午前3時をまわる頃までリビングのこたつで作業をしていた。


「フフフ……。これで俺の白湯生活に革命が起きる……!」


 俺はそう言い、天井に向けてとあるマグカップを掲げた。

 一見普通のマグカップだが、聞いて驚くことなかれ。なんと魔力を込めることで白湯に適した60度まで飲み物を温めることができるという優れものだ。これでいちいち電子レンジで温める、なんていう面倒くさいことはしなくてよくなる。

 ペットボトルに入ったミネラルウォーターを置いておけば、こたつから一歩も出ずに生活を送ることができる。ビバ、こたつ生活である。


 早速、作成した『白湯専用マグカップ』に水を注ぎ魔力を込めると、瞬く間に白湯が出来上がった。


「温まるなあ……」


 仕事が終わってから足早に帰宅し、日課である魔法具作りを行っていた俺は、ようやく休憩することにした。


 まあ、この『白湯専用マグカップ』も何度か白湯を作りにキッチンに向かうのが面倒だ、という理由で作り始めたものだ。基本、自分の生活を楽にすることしか考えていないのだ。


 そうしてくつろぎながら、部屋の隅に積み上げられた魔法具に目をやった。無論、俺の失敗作、ガラクタである。

 魔法が発現した日、『はじまりの日』なんて世間では呼ばれているらしいが、それ以来、毎日魔法具を作り続けていた。元々、もの作りが好きな俺にとって、まさにピッタリな創造魔法だ。ネットで調べた限りだが、創造魔法を発現した人はあまりいないらしい。

 最初はウッキウキで電気のいらない魔力で動く卓上IHなどを作っていたが、同居している妹、千詠ちえに、「べつに電気を使えばいいじゃない」と一蹴され半日ほどへこんでしまった。

 大昔は節電が促されていた時代もあったらしいが、科学技術が飛躍的に進化し、電気代もほとんどかからない。

 そんな世の中なので、魔力で動く……いや、魔力でしか動かせない、という魔法具にはあまり価値を見出されなかったようだ。

 まあ、こうやってその場で気軽に使える、という点はメリットなのだが、俺のような面倒くさがり以外には必要とされないのも理解できる。うちの妹、几帳面だし。


 他にも、魔力を込めると金属よりも固くなる護身用の木刀なども作ったが、物騒すぎる、という点と魔力消費が大きすぎる、という点で妹からダメ出しを食らってしまった。

 『はじまりの日』から一か月間毎日魔法具を作っていたものだから、俺の部屋の一角は魔法具に埋め尽くされている、というわけだ。


「いい加減このガラクタも片付けないといけないなあ……」


 最近、千詠にも部屋を片付けるように厳しく言われてしまった。一応、使えないわけじゃないんだけどなあ。誰か買い取ってくれないかな?


 そんな考えに至った直後、すぐにそれを否定する。


「まあ、千詠にも言われた通り、欲しがる奴なんていないよなあ。骨董品集めるようなもの好きは買ってくれるかもしれないが」


 とりあえず、ネットオークションに捨て値で出しておくか。送料分が稼げればタダで処分できるようなものだし。

 

 千詠もまだ寝ているので、あまり物音も立てないようにしながら、魔法具の写真を撮り、ネットオークションに出品した。

 さすがに眠気が限界だったので俺は白湯を飲み干し、布団にもぐりこんだ。


 

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