恐怖転じて因果応報

@hitofumi

第1話

 「暗い部屋って怖いですよね。何がいるのか分からないんですよ。怖い怖いと思って嫌っているものが、もしかしたら目と鼻の先にいるのかも知れないのに、自分たちはそれを認識できないんですから」

 「でもね、それって少し妙じゃないですか?」 

 「暗いから私たちには見えない。これはわかります。でも、なんで私たちは無意識に向こうからも見られてると考えてしまうんでしょうか」

 「考えてもみてくださいよ」

 「仮に暗い空間にいるのがお化けだとして、なんで死んだだけで、暗いところでも見えるようになるんです?」

 「死なんて言ってしまえばただの状態の変化です。暗い部屋の反対が明るい部屋なら、生きてる人の反対が死んでることなんです」

 「でも、そうやって考えると納得できるんですよ。私たちにはできることが、反対の存在である彼らには出来ない」

 「私たちには明るい部屋でものを見ることができるけど、彼らには明るい部屋でものを見ることは出来ない」

 「死ぬことで反対の存在になるならあり得そうな話ですよね」

 「本題に入りましょうか」

 「あなたにとって恐怖ってなんです?」

 「なんでもいいんですよ」

 「虫でも、親でも、友達かもしれませんし、あるいは狭いところ?それとも高いところ?」

 「もちもん、おばけだって構いません」

 「何が言いたいかというとですね、怖いものそれ自体に意味はないということなんです」

 「あなたが怖いと感じたものはきっと、過去の経験を元にしたものですよね?」

 「これから先に起こることを不安に思うことはあるかもしれませんが、恐怖することは稀でしょう。」

 「つまりです。恐怖とは過去なんです」

 「先ほど、怖いものそれ自体には意味はないと言いましたよね?」

 「より正確にいうとですね、恐怖を感じた時点で、感じた対象ではなく恐怖という感情の方が重要になるんです」

 「恐怖を感じる対象というのはあくまでトリガーなんです」

 「あなたがそれに対して恐怖を抱いた時点でその役目を終えているんです」

 「恐怖というものはとても大雑把です」

 「しっかり見つめなければ一体なにを恐れているのかすら分からない」

 「恐怖を経験し、何が怖いのかを考えるたびに、その恐怖に自らディテールを追加していく」

 「きっとあなたの恐怖は他人に理解されない」

 「あなたの恐怖はあなたが作り上げたものだからです」

 「生きる上で感じた不快を自分で飾りつけたものが、あなたの感じる恐怖なのです」

 「暗い部屋から感じる視線も、ベッドの下に感じる不安感も、毛布からはみ出た足をなぞる冷たさも、きっと聞こえた名を呼ぶ声や軋む家の音ですらあなたの恐怖なのです」

 「あなたの恐怖なのだから他人からは気の所為で当然でしょう」

 「他人に理解されなくても、ましてやあなた自身が理解できていなくとも」

 「あなたの恐怖は確かにそこにあるのです」

 「あなたの恐怖はあなたに憑いているのです」

 「あなたは恐怖から」

 「逃げられない」

 

 「そんなに怖がらないでくださいよ」

 「足音だって、視線だって、孤独だって、沈黙だって、騒音だって、暗闇だって」

 「恐怖だって」


 「気のせいですよ」

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