御月合い

TMTacos

第1話 不思議な人

「朝だぞ起きろ。」


自分より低く渋い声が私に呼びかける。

多分父親だ。


俺は今日から中学2年生になる。

正直かなり億劫だ。


俺がどんな人か、声か、性格か知っている人は学校ではかなり少ない。

どんな先天性の疾患を持っているかも。


-十三年前-


「夜間性呼吸急迫症候群ですね。世界的にも稀な病気です。」


「それは一体どんな病気なんですか?」


「夜間に過剰なまでにパニックを起こし、呼吸困難に陥る病気です。」


「一晩中起きていれば、最悪の場合死に至るでしょう。」


「そんな。」


「しかし、息子さんが生き延びる方法はあります。」


「夜、しっかり寝ることです!」


-現在-


俺は夜が怖い。


起きていれば死がまってる。


こんな疾患を持つせいで、何もかもうまくいかない。


「お前がいるとろくなことがないんだよ!」


「あんたなんか私の息子じゃない!」


父と母は俺が十歳のときに離婚した。


母は俺の体質に嫌気が差してとうとう鬱になった。


全部俺がいるせいだ。


4月の朝はまだ肌寒い。

遠くに見える山は太陽の光によって白く光っていた。


学校にはチャリで通っている。

十五分とは言えかなり疲れる。

いつも通りの道を走っていると、背後から声をかけられた。


「ねーねーきみー!これ落としたよー!」


俺はズボンのポケットに入れていた財布を走行中に落としていたようだ。

チャリを停め、後ろを振り向く。そこには同じ制服姿の女子がいた。


「ありがとう」


俺はいつも他人と話すときの低い声でそういった。

人と関わりたくない俺はまたチャリを走らせようとする。


「ちょっと待ってよー!君2年生でしょ?」

「ネクタイの色黄色じゃん!」


俺の通う中学は学年ごとにネクタイの色が違う。

俺の世代は黄色だ。


「私も黄色!2年生なんだ!」

「よかったらここから一緒に登校しない?」

「もうすぐそこだし!クラス同じかもしれないし!」

「ね?いいでしょ?」


正直微塵も関わりたくなかったが、

財布を拾ってくれたのもあって同行することにした。


「まずはおはよう!」


「お、おはよう」

同様して変な声で返事してしまった。

まずはおはようって何だ?あれだけ話しかけておいて今更おはよう?


「卯月はいかがおすごしですか?」


「卯月ってなんだっけ?」


「あ!ごめん4月のことね!」

「もう9日でしょ!どうしてるかなー?っておもって!」


日常会話で4月を卯月って言っている人は初めてだ。

「まあ普通」


「そっか!普通か!」

「あ!名前言ってなかったね!」

「私の名前は月島姫!よろしく!」


「竹市聖也」


「知ってるよ!1年のときから」

「竹市って名字珍しくって!」


俺のことを知っている人がいた!?

しかも1年のときから!?


「私の趣味は月を観察することなの!」

「月って不思議じゃない?」

「月そのものは丸いのに、日によって見え方が違うし!」

「毎晩寝る前に観察するんd、、」


「俺!月見たことない。」

とっさに相手の話を遮ってしまった。月島にとっては楽しい趣味かもしれない。

でも俺にとっては綺麗であろう月や星は見たこともないものだった。

知っている前提で話が進むのは辛かった。

それに病気のことを思い出したくもなかった。


それから俺は覚悟を決めて目の前の月島に病気のことをすべて打ち明けた。


また一人、俺を軽蔑する人間が増える。

話をしながら俺はそう確信していた。

今までもそうだった。

病気のこと、家族のこと、これまでの生活のこと、

打ち明ければ絶対に人は離れていく。

寄り添って考えてくれる人も、理解してくれる人もいなかった。

それを聞いた月島もどうせ離れていく。

離れていったっていい。嫌われ者は慣れてる。


だが俺の予想とは裏腹に、彼女はそっと一言つぶやいた。


「竹市くんって不思議だね。」

「私もそうなんだ。私も不思議な子ってよく言われるの。」

「喋り方とか、人との距離の詰め方が不思議って。」

「似てるね!私たち!」


「軽蔑しないの?」


「なんで?世界には、宇宙には色んな人がいるもん!」

「竹市くんも色んな人の一人だし。」


桜が舞う通学路、私は初めて人に人として認められた気がした。

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