第8話【鍛冶場動乱】

 しばらく休養し体調が回復したところで橘屋探しは再開された。

 職人街は工房が雑多に建ち並び、職人はもちろん買い付けにきた商人や見物客で賑わっていた。

「ずいぶん活気のある町なのじゃな」

「ええ、職人街の大きさならこの大陸でも上位ですからね。それに大河を使った交易もありますから他の都市からの商人も来ているのでしょう」

 なるほどと光秀の解説に耳を傾けつつ町を見物しているとひときわ大きな館を発見した。

 赤いレンガ造りのその建物は、決して華美ではないが壮麗さのあるどっしりと重厚な趣があった。

「見事な商館じゃな。一体どこの建物じゃ?」

「会合衆の館でやんす」

「ほう、会合衆か、堺商人じゃな、って・・・・・・ん?」

 自然な会話にスルーしてしまいそうになったが、明らかに第三者の声がした。

 ヨシモト殿を見ると頭の上の雪斎殿ともども虚を突かれたような顔をしている。

 つまり声の主はヨシモト殿でも雪斎殿でもない。

「ここ、ここでやんす!」

「大殿。下です、下」

 光秀にいわれ足下を見ると、膝丈ほどの背丈しかない耳の大きな小人がいた。

「いまさらこの大陸の存在に驚きはせんが、今度はなんじゃ?小鬼か?」

「ドワーフでやんす!そこは間違えないでほしいでやんす!」といいながらぴょんぴょんと跳ねる。

 どうやら抗議の意を表しているようだ。

 いちいち身振りが大きいが、結局こやつは何者なんじゃ?

「ねぇあなたこの商館の人?」

 ヨシモト殿がたずねるとドワーフを名乗るその者は大きく頷いた。

「そうでやんす!それがし会合衆が一人、橘屋の又三郎ってもんでやんす!」

「橘屋じゃと!?するとお前があの鉄砲又か!」

「おおっ!その名をご存じとは隅に置けないでやんすな!」

 橘屋は嬉しそうにパアッと表情を明るくする。

「お二人は魔法少女とお見受けするでやんす!今日は武器をお探しでやんすか?」

「う、うむ。ワシの銃を見繕ってもらいに来たのじゃ」

「それは重畳でやんす。これでもワシは種子島で鉄砲の製作を学んだ身でやんす。完璧な鉄砲を用意させてもらうでやんす」

「うむ、かたじけない。任せたぞ橘屋」

「――といいたいところでやんすが・・・・・・」

 橘屋が気まずそうに言葉尻を濁した。

「なにかあったのですかな?」

 雪斎殿の言葉に小さく頷いて語り出す。

「実は、鉄砲の作製に必要な鉄鉱山が先日魔王の影響下に置かれてしまったのでやんす。このままでは鉄砲をつくる鉄がたらないのでやんす」

「なんじゃとぉ!?」

「声、声が大きいです!大殿」

「これが声を抑えられずにいられるか光秀!」

「でも困ったことになったわね。このままだとノッブの武器がなくなっちゃうわ」

 ヨシモト殿が渋い顔で顎に手を当てる。

「それはつまり、どういうことじゃ?」

 光秀に確認するとこちらも渋い顔で答える。

「つまり、大殿は魔法少女になったのに戦闘ができないということになりますね。大殿、焼かれ損じゃないですか」

「焼いたのはお前じゃろうが!」

 そのようなやりとりをしていると橘屋はあらたまって頭を垂れる。

「ここは魔法少女のお二人にお願いしたいのでやんす!どうか鉄鉱山を取り戻してくれないでやんすか?」

「しかし、ワシは魔法少女になったばかりの上、武器も持たぬ身じゃ。役に立てるとは思えんが・・・・・・」

「そこは大丈夫でやんす!うちの商会にある在庫をお貸しするでやんす!鉄鉱山はまだ魔王軍が入って間もないでやんす、攻め入るなら今の内でやんす!」

「そうはいってもねぇ」とヨシモト殿も渋った様子で口ごもる。

「じゃあ!じゃあ!」と橘屋は声を上げる。

「鉄鉱山を取り返してくれたらうちの鉄砲をプレゼントさせてもらうでやんす!これでどうでやんすか!」

「鉄砲とな?」

「そうでやんす!やってくれるでやんすか?」

 期待のこもった視線に良心が痛む。

 なにより鉄砲が手に入るというのは魅力的だ。

 むむむむむ・・・・・・!

「大殿、どうします?」

「・・・・・・引き受けよう」

「えっ?ノッブ、本気でいってるの?」

「ヨシモト殿、ワシは一度魔法少女としての戦いがしてみたいのじゃ。彼を知り我を知れば百戦あやうべからずともいうじゃろう。頼むヨシモト殿!ワシと鉄鉱山に行ってはくれぬか!?」

「え、ええっ!」

「それがしからも頼むでやんす!お願いでやんす!」

 ワシと橘屋の懇願にヨシモト殿は困惑しているようだったが、ひとつため息をつくと観念したように話した。

「分かったわ。ノッブもいずれは魔王と戦わなきゃいけないわけだしね。わたくしが面倒をみてあげるわ」

「かたじけない、ヨシモト殿」

「痛み入るでやんす!ではでは、まずは武器をお貸しするでやんす!ささ中へ!どうぞどうぞ!」

 上機嫌な橘屋はワシとヨシモト殿を商会の中へ案内した。

 大陸のあちこちから集められたと思しき荷物が広い空間のほとんどを埋めている。

 その大量の荷物の間にできた通路は京の都のようにい碁盤の目状になっていて商人と商会の人間が掛け売りやら取り付けやらを行っている。

「ここは武器以外の商品もあるみたいね」とヨシモト殿が珍しそうに辺りを見渡す。

「ずいぶん荷物が多いのじゃな。全て商品か?」

「そうでやんす。大陸のあらゆる地から取り寄せた奇妙奇天烈な珍品名品の数々がそろってるでやんす」

 奇妙奇天烈・・・・・・?

「さあ着いたでやんす」

 橘屋が立ち止まったそこは商館の奥側、決して目立たないような一角に工房を構えていた。

「ここが鉄砲鍛冶・橘屋でやんす」

「思ったより物々しくないのじゃな」

「ここで造る銃は全てハンドメイドでやんす。だからこそ一品一品こだわり抜いて造っているでやんす」

 そういって橘屋は工房の奥を漁ると火縄銃のように銃身の長い一挺の銃を取り出した。

「これをお貸しするでやんす」

「これはどういった品なのじゃ?」

「これはさるお方に造った特注の一級品でやんすが、結局受け取りに来られなくてここで眠っていたのでやんす」

「それノッブに渡しちゃっていいの?取りに来るかもしれないわよ?」

「大丈夫でやんす。もう保管期限は過ぎているでやんす。もし鉄鉱山を解放していただけた暁にはその銃をさしあげるでやんす」

「おおっ!よいのか?橘屋」

「二言はないでやんす」

「問題はこれを大殿が扱えるかどうかですが・・・・・・」

 光秀が懸念を示すと「それならば」と橘屋は腕輪のような装飾品を箱から取り出した。

「これを手首につけるといいでやんす」

「これをつけるのか?こんな感じか?」

 いわれたとおり手首にはめると、側面に装飾された石が白く光る。

「それは魔力安定補助装置でやんす。魔力の出力量は変えられないでやんすが、出力自体は安定するでやんす」

「なるほどね。初心者のノッブには丁度いいわね」

「これで最低限戦える準備はできたということじゃな?」

「では鉄鉱山に向かいますか、大殿」

「うむ。では行ってくるぞ橘屋、期待して待っておるがよい」

 その刹那、背後で大きな爆発音がした。

 爆風とともに木片やら商品やらがぱらぱらと地に落ちる。

「なっ、なに?」

 ヨシモト殿が目を細めながら見つめる先、白煙の中に黒い影が浮かび上がった。

「にゃはははは!愉快痛快にゃ!」

「何者じゃ!」

 晴れた白煙の中から、大きな猫の耳をした少女が現れた。

「お前、魔法少女か・・・・・・?」

「違うわ、ノッブ。こいつは――……魔王の手先よ」


【次回】『爆発猫娘・ヒーちゃん』

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魔法少女☆ノブナガ ワダツミ @Arnold_Ishida

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