第5話 情けは人の為ならず
「私は領主様の代理の者だ。この街に、手伝いをして料金を徴収している者が居るそうだな? 我等の領主様の領内で許可していない商売など許さん! 誰だ!?」
街の広場でいきなり大声をあげてそう言い出したのは、この街を取り仕切っている領主様の代理の人だった。隣町に視察に来た時にこの街の話を聞いたらしい。
隣の街の住人はそんな事してくれる人がいるなんて、羨ましいという気持ちで話をしたのかもしれない。領主様代理の感じ方は違ったようだ。
「隠すとろくなことにならんぞ!?」
住民達は、恐らくユートのことだと気付いた。分かってはいるが答えない。
しばしの沈黙が訪れた。
「すみません。それ、多分僕のことかと……」
僕は自分で名乗り出ることにした。
住民の人達に責任を負わせるわけにはいかないもの。
「……ユート!?」
誰かが叫んだ。
名乗り出るとは思ってなかったのかな。
「貴様が勝手に商売をしていた輩か!?」
「助っ人をしていました。それで、お金を貰っていたのは事実です」
「ふんっ! 助っ人だと? そんなので住民に金銭を要求していたのか? 反吐が出るな」
汚い言葉を吐かれて僕は下を向いた。
そうだよね。助っ人のようなお手伝いでお金を貰うなんてやっぱりダメだったんだ。そう思ってしまった。
「あんた何も知らないくせに! わたしゃ、ユートには助かってるんだよ!? 荷物もってもらって。この歳になって重いものを持つのは大変なんだ。それを持ちますかって持ってくれるんだよ! だから、お金を貰ったらいいって私が言ったよ! 何か文句があるのかい!?」
声を上げて抗議してくれたのは、最初に荷物を持って手伝ったおばちゃんだった。たしかあのおばちゃんは、ギルドマスターの奥さんだ。
領主様代理の男はその言葉にワナワナと口を震わせ、頭を真っ赤にして怒っていた。権限がある私にそんな言葉を放っていいのか。そう思っていたのかもしれない。
「私も! 用事でどうしても店を留守にしなきゃ行けない時、ユートくんに留守番をして貰っています! 算術も出来るし、人当たりが良くて私が店番をしている時より売上が良いくらいです。それに、鞄も壊れたのを直してくれました! 隣町まで行かなきゃいけないところを、しばらくいかなくても大丈夫です。凄く有難いのに、それがダメなんですか!?」
次に声を上げてくれたのはパン屋のエミリさんだ。僕が店番をしている時の方が売上がいいってホントかな? 少し役に立てていて良かった。エミリさんの旦那さんも冒険者だったよね。
「おれぁ、道具屋をやってるもんだ。人手が足りない時にユートには世話になっている。手伝いをして金銭を貰う。俺の求めていた手助けをしてくれるユートになんの文句がある!? 俺は自分が金を出したいから出してるだけだ! 金を要求されたことは一度もねぇぞ!?」
道具屋のゲールさん。そういえば本人から名前は聞いたことがなかった。他の人が呼んでるのを聞いて覚えたんだよね。普段穏やかなゲールさんがそんなに声を荒らげるなんて珍しい。
領主様代理の顔は今にも噴火しそうなくらいに真っ赤になっている。
「何を騒いでるかと思ったら、領主様の代理だとか? 俺の娘の命の恩人にいったい何の言い掛かりをつけているんだ? 領主様の依頼を受けていたが、今度から断るぞ?」
アンナちゃんのお父さんが現れ、領主様代理に文句を言ってくれている。盗賊が来た時にアンナちゃんは人質に取られてしまったからね。助けられて本当によかった。
「それは困るな。領主の方には俺がこの事は報告をしておく。代理とやら、ユートを罰するという事なら、この街全員が敵になると思うことだな。そして、今回この様な事態が起きた事もワシは領主に報告する」
ギルドマスターのゲンさんも駆けつけてくれたみたい。ギルドの方からも掛け合ってくれるなら僕は罰せられないのかな。皆に迷惑はかけたくない。
領主様代理は今度は顔を青くして、プルプルと震え出した。流石にギルドマスターの発言ともなれば効果はあったみたい。
「ふ、ふんっ! 領主様には報告させてもらう!」
そう一言述べるとクルリと回れ右をして街の外へ帰って行った。
「皆さん、僕のことを助けてくれてありがとうございます! このまま何も無ければいいけど」
「心配するでない。ワシがしっかりと報告しておくわい。領主はちゃんと分かってくれるはずだ」
「ありがとうございます」
ゲンさんがそういうのなら大丈夫なのかな。
数日後。
大丈夫だった事がわかった。
何故かと言うと。
「ユートに領主から勲章を授与するそうだ」
ゲンさんにそれを聞いた時は耳を疑った。
なんでも、領主様がいたく感動したとの事で。
そんな素晴らしい人が居るとは、もっと早くに聞きたかったと。
僕はただ困っていた人を助けていたただけなのに、こんな事になるなんて。
「僕にはなんだか勿体ない気がしますね」
「何が勿体ないんだ? ユート、君のしていることは素晴らしい人助けだ。そして、それに感謝している者が沢山いるのはこの前分かっただろう? 『情けは人の為ならず』こんな言葉があるそうだぞ」
ゲンさんは優しく僕にそう言葉をくれた。
僕は優しさだけが取り柄の人間。
でも、優しくするのって心の持ちようだけで誰もができること。
優しさ極振りには誰だってなれる。
助っ人のユート~優しさ極振りなただの人間が異世界に行ったら~ ゆる弥 @yuruya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます