第4話 冒険者のいぬ間に

 結成された討伐隊は今旅立って行った。

 Sランクともなれば命の危険がある。


 見送った人達は覚悟のもと見送ったのだ。

 その覚悟を踏みにじる者が現れた。


「ハッハッハッ! おうおう。みんな暗い顔」


「そりゃそうだ。Sランクの魔物の討伐に冒険者はかり出されちゃったんだからなぁ」


「あとに残ったのは使えない男共か、女子供とジジババってわけだ」


「俺達は好き放題できるなぁ」


 粗悪な格好をした男達が街に入ってきた。

 門番の人はどうしたんだろうか。


 僕は戦う術がない。

 こんな事なら少しでも学んでおくんだった。


「おっ! 姉ちゃん可愛いじゃん? こっち来いよ」


 目に泊まったのは冒険者の夫の見送りをしていたパン屋のエミリさんだ。

 なんて事だ。


 腕を掴まれて引っ張られる。

 咄嗟に駆け寄った。

 男の親指を全力で掴み捻る。


 前に動画で見たことかある。

 これで手を解けるんだとか。


「痛てぇなごらぁ!」


 手を引っ込めて後ずさる男。

 動画みててよかった。

 役に立った。


「この人たちに手を出すのは止めて。僕の事は好きにしてもいい」


「はぁぁぁ? お前みてぇな坊主に興味はねぇんだよ!」


 エミリさんの前にたちはだかる。

 両手、両足を広いて男を見据える。


「おい。はやくやっちまえよ。後は好きにしようぜ?」


 別の男が目の前の男にそう言い放った。

 男は剣を構えて振り上げた。

 僕は男を睨みつけたまま振り下ろされる剣を見ていた。


ギィィィンッッ


 横から大きな剣が現れて男が振り下ろした剣を受け止めた。

 横を見ると壮年の男性。

 見たことがないが。


「君は、助っ人のユートくんだね?」


「はい。そうですが……」


「いつも妻が荷物を持ってもらって助かっていると話していたよ」


 あのおばちゃんの旦那さん?


「なんだコイツ!? なんで冒険者が残ってる!?」


 狼狽え出した男たちに壮年の男性は言い放った。


「お前達のような輩に街を好き勝手させん! ギルドの存在を忘れるとは愚かな! ワシはギルドマスターのゲンだ! 耄碌したとはいえ、もとAランク冒険者! お前達になど遅れは取らんぞ!」


「こんな爺さんやっちまえ!」


 数人で襲いかかるがゲンさんの一振は凄まじく、一気に数人が吹き飛ばされて倒れた。


 分が悪いと思ったのだろう。

 男達は卑劣な行動に出た。


「おい! 動くな!」


 一人の男が人質を取った。

 捕まったのはアンナちゃんだ。


 どうする?

 助け出さないと。


 ゲンさんも剣を置いた。


「ははっ。最初からこうすりゃ良かった」


 男を見ていたら違和感があった。


「あんた達、どうしてこんな事するんだ?」


 僕は話しかけてみることにした。


「お前に関係ねぇだろ?」


「こんな事されてるんだ。関係あるんじゃないか? なんで子供を人質に取ったのに。ナイフを持つ手が震えてるの?」


「べ、べつに震えてねぇ!」


「子供に何か思い入れがあるの? だったら、そんなことしたら悲しむ人が居るんじゃない?」


「うるせぇ! もういねぇんだよ! ……もう……もうメリルは戻ってこねぇ!」


「何かあったんだね?」


「冒険者の奴らが自分達より、盗賊が強いからって街を守らなかったから! だから……俺の妻と子供は……」


 盗賊にやられてしまったんだね。

 でもこれでは……。


「でも、これではその盗賊と同じじゃない?」


「っ! …………俺は冒険者に復讐したくて」


 男はナイフを下げて地面に膝を着いて俯いた。


「俺は……くっ!」


 突如としてナイフで首を────。

 甲高い音を立てて大剣がナイフを弾き飛ばした。


「それは許さん。ちゃんと罪を償え」


「……はぃ」


 こうして意気消沈した盗賊達は捕縛された。


「助っ人のユート、見事だったぞ!」


「いえいえ。僕は何も……それより、あの人達はどうなるんですか?」


「謙遜するでない。優しいとは聞いていたが、底抜けに優しいのだな。さっきの盗賊達も死罪かもしれん。それは嫌か?」


「はい。あの人達も被害者だったみたいなので」


「うむ。よく検討するように言っておく。ユートには世話になっているからな」


「お願いします」


 こうして、冒険者達の居ぬ間に起きた出来事は無事に終わりを迎えた。

 そうそう。

 Sランクの魔物が出たという情報は嘘情報で現場に行っても何も居なかったそうだ。

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