第3話 冒険者の為に

 助っ人稼業が少し軌道に乗り始めた頃。


 街に危機が訪れていた。

 街を駆け回る冒険者達。


「何人集めれる!?」


「今出てない奴はかき集めたけど、三パーティしかいねぇ! 総勢十六人!」


「そんなので足りるかよ!?」


「しかたねぇよ! Aランクパーティが一組いる! どうにかなるだろ」


「……なら……けど。下手したら俺達死ぬぞ!?」


「じゃあ、逃げんのか? 街の人達を見捨てられるのかよ!?」


「逃げねぇよ! 行くぞ!」


 冒険者は命を張ってどこかに立ち向かいに行くようだ。

 一体なんの騒ぎだろうか。


「なんだか、Sランクの魔物が街の近くに出たみたいだぜ? 物騒だよな。始末できればいいがよぉ」


 そう言って教えてくれたのは道具屋のゲールさん。

 たびたび商品整理の依頼をくれる。

 助っ人稼業の常連さんになってくれていた。


「へぇ。この辺って、そんなに強い魔物が出たりするんですね?」


「いや、聞いたことはねぇな。だから、Sランクの冒険者なんて滅多に来ねぇんだよ」


「あー。なるほど」


 強い魔物が居るところに強い冒険者は集まるものだろう。

 それは納得だ。

 けど、Aランクの冒険者は居るみたいだからね。


「Aランクのパーティで、太刀打ち出来ますかね?」


「そうだなぁ。Aランクっていやぁ、暁の太刀だろ? アイツらまだわけぇからなぁ。微妙な所だわな。Sランクを経験してりゃいいが……」


 ふーん。若いんだ。

 この前の子供の親も若かったもん。

 ……まさかね。


 少し遠くでざわめきが大きくなった。

 どうしたんだろう。

 少し気になってそちらの様子を伺いに行く。


「打って出るのか!? 大丈夫なのか!?」


「ここでじっとしていても、事態が良くなるわけではありません! 様子を見て隙を突いた方が、勝てる見込みがあると思います!」


 見ると、話しているのはこの前の迷子の子の父親だった。


「Aランクパーティの言葉を信じるぞ! 打って出るぞ!」


「よっしゃ! 行くぞ!」


「やってやる!」


 嫌な予感は当たってた。

 Aランクパーティの冒険者ってのはあの父親だったんだ。

 子供を残して命を懸けて戦わないといけないなんて。


 なにか手伝いたいけど。

 僕はこんな時に弱い。

 力では何もすることが出来ない。


 魔力も無ければ、チートな能力もないし、剣術も何も出来ない。

 けど、何か出来るはず。


 打って出る冒険者達は街を出る準備を始めた。

 回復薬を買い出しに行ったりしなければいけない。


 道具屋に走り、必要なものを用意する。

 体力回復薬、魔力回復薬、毒消し等、想定できる限りの薬を持ち出す。


「ゲールさん、これ僕の支払いで冒険者に配ります」


「おいおい。そんな事してユートは大丈夫なのか!?」


「大丈夫。また稼げばいいですもの」


 薬を冒険者の元に届けに行った。


「これ、使ってください!」


「あれ? あなたは……娘を助けてくれた……どうしたんですか? この回復薬は?」


「僕にも何かさせてください! あなた達だけに街を背負わせる訳には行きませんから!」


 僕はめいいっぱいの気持ちをぶつけた。


「ありがとよ!」


「あんた、助っ人のユートだろ? 助かるぜ!」


「あぁ、聞いたことある! 討伐に参加するのか?」


 みんなに注目される中、暗い気持ちになる。


「僕は、魔力も無ければ剣を振るう筋力も何もありません。ただ、皆さんのためにできる限りの事をする。それしかできません」


 僕の言葉に、しばし沈黙する。


「それで、充分ですよ。俺達は戦うことが仕事だ。そうやって生きてきた。街の為に出来ることが、命を懸けて戦う事なだけ」


 あの子の父親がリーダーなのだろう。

 その言葉に、周りの冒険者もウンウンと頷いている。


「よっしゃ行くぞ!」


「「「おう!」」」


 討伐に動く冒険者の裏で不穏な影が蠢いていた。

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