第2話 助っ人稼業

「あっ! ユート、また会ったわね。今日も荷物もってちょうだいな」


「はい! お持ちします!」


 荷物を持っておばちゃんの家まで行く。

 すると、銅貨一枚を渡された。


「これは?」


「手間賃だよ。タダでやるなんて勿体ないよ!? 商売にしな!」


 なるほど。

 助っ人稼業か。

 それはいいかも。


「はい! やってみます!」


「そうだ! パン屋のエミリが留守番を誰か代わりにやって欲しいって、人を探してたよ!」


「行ってみます!」


 パン屋さんに行くと用事の間に店をお願いしたいという。

 二つ返事で承諾したが、計算ができるか心配だったみたい。


「肉パンと白パンで銅貨一枚だと?」


「肉パンが鉄貨二枚、白パンが鉄貨一枚なので、鉄貨七枚のお釣りです」


「わぁお。ユートくん、答え出すの早い! すごーい! 安心して任せられる!」


「あぁ。いえ。それ程でも」


 褒められて少し頬が熱い。

 こんな事で褒められることなんて、久しくなかったからね。


 この世界では算術などは商人の技として知られていて、普通の人はあまりできないらしい。

 そんなこんなでパン屋の留守番をする事になったのだ。


 仕事は滞りなく終わった。

 手間賃を貰った後にパン屋を後にしようとすると、エミリさんの鞄から硬貨袋やらハンカチやらが落ちてきた。


「きゃ! なんで!?」


 エミリさんが慌てて鞄を見ると紐が切れて鞄のそこが穴が空いた状態になってしまっていた。


「どうしよう。隣街に行かないと」


「直せる人、隣街に行かないと居ないんですか?」


「えぇ。それには冒険者を雇って魔物から守って貰いながら行かないと……。はぁ。お金がかかるわ」


 街の外って魔物いるの?

 僕はたまたま会わなかっただけ?

 背筋がゾッとした。


 何も出来ない僕が会ってたらすぐに殺されていたことだろう。

 なんて恐い世界なんだ。


 でも、革細工なら。


「あのー。僕がやってみましょうか? 趣味で革細工やってたので、直せるかも」


「ホントに!?」


 これなら動画見ながらやった事がある。

 出来るかもしれない。

 趣味も役に立つことがあるんだな。


 少し苦戦したが応急で直すことができた。


「一応直りました。でも、本当は紐を全部新しいものに変えた方がいいと思います」


「有難う御座います! すごーい!」


 少し不格好だけど仕方ないよね。


「はい! これっ」


 掌には銅貨が一枚。

 そうだ。

 これも商売か。


「はい。有難う御座います。またなにかあったら声掛けてください!」


「はい! そうだ! 道具屋さんが商品を運ぶのに人手が欲しいって言ってたよ!」


 パン屋を後にして向かうのは道具屋。

 

 次の日、道具屋へ。

 中に入ると物があちこちに散乱している状態であった。


「こんにちはー。人手が欲しいと聞いたので、お手伝いに来ましたー!」


「おぉっ! それはそれは助かるぜ! 整理したいんだけど人手が足らなくてな」


「はい! お手伝いします!」


 それからは商品の位置を動かしたいということで、いったん外に商品を出して棚に並べ直す作業に追われた。


 二人で運ばないといけない物もあり、非常に有り難がられた。

 一日かかってなんとか並び終えたのであった。


「いやー。整理出来て良かったぜ。これで綺麗な状態で店を見て貰える。ありがとな。これは礼だ」


 差し出されたのは銀貨だった。


「これは多すぎますよ!?」


「そんな事ねぇよ。受け取ってくれ。これは正当な報酬だ」


「有難う御座います。何かあった時は、助けになります!」


「あぁ。そんときゃ頼む」


 道具屋を後にしてその日は休むことにした。


 明くる日。


「今日は休みにしようかな。休みも大事だ」


 まだちゃんと街を見て回ってなかったんだ。

 

 この街は賑わってる。

 メインストリートには所狭しと屋台が出ている。一本外れれば道具屋、武器屋、防具屋など冒険者に必要とされる店が並んでいる。


 屋台を見て買い食いしながら歩いていると。

 キョロキョロしている女の子がいた。

 あれは、迷子かな?


「こんにちは。助けが必要かな?」


「……うん。ママとパパがいなくなっちゃった」


 こりゃ完全に迷子だな。

 探そう。


「よしっ。じゃあ、僕と探そっか?」


「でも、人いっぱいだよ?」


 僕には考えがある。

 こういう時は。


「よいっしょっ」


 女の子を肩車すると、人混みを歩き出した。


「よーし。呼んでご覧?」


「パパーー! ママーー! アンナだよー!」


 呼びかけながらメインストリートを歩いていく。すると、周りの人がなんだなんだ?と騒ぎ出した。


「迷子じゃねぇか?」


「おーい! 迷子だとよぉ! アンナちゃんだってよぉ!」


「とーちゃん、かーちゃんいねぇーかぁ?」


 しばらく練り歩いていると一組の冒険者のカップルが走ってきた。


「アンナ!?」


 女性が走りよってきてアンナに抱きついた。

 そこに男性が覆い被さる。


「よかった……よかった…………攫われたかと思った」


 父親は本当に安堵したように二人をギュッと抱き締めた。


 若いなぁ。

 僕よりは上だろうけど。


 父親がハッとしたように立ち上がり僕に頭を下げた。


「娘を助けていただいて有難う御座います!」


「いえいえ。たまたま見かけたら放っておけなくて……」


「本当に有難う御座います!」


 礼を言うと手を振って去っていった。

 子供か……可愛いよなぁ。

 なんだか、休みが休みじゃなかったけど。


 まぁ、楽しかったからいいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る