第37話 王との謁見
しばらくすると足の裏に硬い何かを踏みしめる感覚があった。
「ついたぞ、もう目を開けて大丈夫だ」
ルザックに促され、目を開け、現状を確認する。土の中を進んでいたような気がしたが衣服は全く汚れておらず、地上にいた格好そのままだ。
けれど上から太陽の日差しはなく、洞穴に迷い込んだような暗く湿った細長い通路の中に自分達はいた。
「こっちだ。大丈夫、すぐそこだからな」
目を閉じていたおかげで目は暗闇に慣れていた。穴の中を進んで行くとルザックが言った通り、目的の場所はすぐそこにあった。見上げるほど天井が高く、山が一つ収まるのではないかというぐらいの岩の大空洞に。
「うっわぁぁ、すっごいねぇ……」
ピア達が天井を見上げ感嘆の声をもらす。大きい声を出したら反響すると思われる見事な空間は薄暗いはずなのに、魔法の力なのか全部を見渡すことができる。
大空洞の中心には石を積んで造り上げた城が存在し、それを見ても「うわぁぁ」と驚きの声がルザック以外の全員出てしまった。
「ははは、驚きすぎてあごを外すなよ。ここがランス王が住まう城だ。住んでいるのは最低限の警備兵と使用人のみ。まっ、こんな場所を襲う輩はいないからな」
「フィンは?」
「フィンはここにはいない。フィンが住むのは別の場所なんだ」
そう言われ、今さっきルザックが言っていたことを思い出す。父親であるランス王は実の息子であるフィンをうとましく思っている……なら、そばには置かないだろう。
(だからあの時、フィンの部屋にはほとんど家具がなくて、ヒトもルザック以外にいなかったのか……)
不憫すぎる、フィンだって被害者なようなものだ。ランス王家の者を苦しめる呪い。声すら出せないのに。フィンは何もしていないのに。
「王は魔法の間にいらっしゃるだろう。そこで民の様子を見たり、魔法を使って騒乱がないように見守っていらっしゃる」
ルザックは誰に呼び止められることもなく城内を進み、通路を抜けて城の中心部であろう広間にルディ達を案内した。
そこは広間でありながら王が鎮座する魔法の間と呼ばれる場所なのだろう。部屋の中心には大きな魔法陣が広がっており、その中央に置かれた立派な玉座には法衣をまとう人物が腰をかけていた。
「ルザック、よく来たな」
広間に他のヒトの姿はなく、法衣をまとった人物の落ち着きのある年相応の枯れ気味な声が響く。その人物は丈が短めの杖の先端にあごを乗せたまま、身動きをしなかった。
「ランス王、お身体はいかがでしょう」
ルザックは玉座から数歩離れた位置で床に膝をつき、頭を下げる。
「はははっ、身体の方は変わらずだ。常に身体の気怠さはあるが、これは致し方ないからな。地上は相変わらず栄えているかな」
「はい、王の御力のおかげです。ランス王、今日は城の補強に協力いただける客人をお連れしました」
ルザックに促され、ルディと子ウサギ達は彼の隣に並び、膝をつく。
ルディは頭を下げながらも間近で見るランス王の様子をチラッと観察してみた。
「それは助かる。城の強度は常に注意しておかなければならないからな……ずいぶんとたくさん来ているようだな」
王は声に抑揚をつけて話してはしているが。杖に顎を乗せた状態を崩さず、下を向いているから表情もよく伺えない、が……目を閉じているようだ。
「なるほど、魔法使いが三人、いずれもウサギの獣人達。ずいぶん小さな魔法使い達だな。エレメントは火に水に風か」
ランス王は顔を上げないままなのに、目の前にいる人物がわかっているように話している。
もしかして、王は目が見えないのでは。
「……だがもう一人は何者だ。ヒトのようでもあるが奥底に大きな力を感じる……この感じは、昔感じたことのある気だ、これは――」
王は顔を上げた。年は五十代後半だろうか。フィンと同じ栗色の髪をしっかりとなでつけた気品に満ちた容姿だ。
だが目を閉じているところを見るとやはり視力を失っているようだ。
ランス王は静かに呼吸をすると驚きの言葉を口にした。
「これは竜だな」
その言葉には全員が言葉を失った。
ランス王の表情にも驚きの色が見える。
「竜、なぜここに竜がいる。ルザック、どういうことだ」
「どう、と言われましても。ここにいるのは三人の子ウサギの魔法使いと一人の若い剣士です。見た目は一般のヒトと代わりありませんが」
ランス王は再度、大きく呼吸をする。ゆっくりと肩を落とすと見えてはいないだろうが、ルディの方へと顔を向けた。
「なるほど……お主は竜と深い関係のあるものだな。おもしろい。だがそなたの真実をここで暴くことはあるまい」
ルディはランス王の言動を固唾をのんで見聞きする。
「お主は……そうだな、とりあえずは竜の国から来た者だろう。竜の最長老達の気配がする。なつかしいことだ」
「最長老……!」
それは記憶の片隅にしかないが世界が生まれた時からの最初の対の竜達であり、最初に死んでしまった古き竜達のことだ。
ランス王はなぜ最長老のことを。
「なぁに、私は最長老達とは長い付き合いなのだよ。彼らとは竜とヒトといえ、親しく過ごさせてもらった。だが彼らを守ることはできなかったがな」
ランス王は表情を変えぬまま「くやしいことだ」と重い言葉を吐く。
もしやこの人物は竜のことを知っているのではないかと、ルディは思った。
「あの、ランス王――」
ならば聞いてみるしかない。
「最長老達が死んでしまった理由、それを王はわかるのですか。最長老だけでなく、その他の竜が、最後の一体を残して死んでしまった、その理由を」
「知っている」
王はうなずいた。
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