第36話 地下へ
食べている間は本当に“仕事の話”は一切出ず、ルザックは出された料理を堪能しながら世間話を挟んでいた。主に食べ物の話ばかりだったが、彼は非番の日はとにかく食べ歩いているらしい。甘いモノ、辛いモノ、異国の食べ物。色々な話を子ウサギ達……だけでなく、自分も「へぇ〜」と感心しながら聞いてしまった。
この世界にはまだまだ知らないものがたくさんある。そういうものを、もっとこれからも知ることができたらいいな、とルディは心の中で思った。
食事が終わり、店を出てみんなで「ごちそうさまでした」と礼を言うと。ルザックは「子供がたくさんいる親みたいだな」と言って笑っていた。
「今日は久々にたくさん話せて楽しかったぜ。俺はもっぱらフィンのそばにいることが多くてな。話したくても話せねぇからな」
ルザックは何事もなかったかのように「じゃあ」と手を上げ、去ろうとしていた。
「ま、待って!」
そこで声を上げたのはニータだった。
「あ、あの! さっきの話……ボク達、魔石が欲しいんです。風か火の魔石……それをもし、くれるなら、ボク、魔法のお手伝いをしても、いいです……」
ニータの決断。きっとかなりの勇気を振り絞って口にしたに違いない。ピアとディアは兄として弟を嬉しそうな眼差しで見つめている。
「おぉっ、ホントか? そりゃあ助かる。もし良いなら早速――って俺、非番なんだよな……まぁいいか。じゃあ、頼めるか?」
ニータは「うんっ」と力強くうなずいた。
「ありがとうな。風魔法を使えるヤツを探していたんだがこんな早く見つかるなんて思わなかった。あ、魔石もあるから心配すんな。確か風の魔石だったら保管してあるはずだ。火は品切れなんだ、悪いな」
これでもう一つの魔石を手に入れることができる。
一同は一安心な気持ちで街の中を進むルザックに続いていくが、ルディは疑問を口にする。
「でも地下にある城なんて一体どこから入るんですか」
今までランスのあちこちを歩いたことはあるが地下への階段なんて見たこともないし、人々からそんな話も聞いたことがない。
そういえば……それを不思議がる声も聞いたことがない気がする。城なんて普通は地上にありそうなものなのに。ランスではなぜ地下で、そしてみんななぜそれを疑問に思わないのだろう。
「色々聞きたそうな顔をしているな、ルディ」
ルザックに指摘され、ルディが慌てて表情を変えると彼は「わかってるさ」と察したようだ。
「お前は勘が良さそうだから隠しごとはできないな。いや隠すつもりもないけど。別にいいさ、俺はお前達なら全部を話してもいいかなと思ってるんだ」
予想もしないルザックの言葉にルディが「なんで」と問うと。
ルザックは「なんとなくさ」と言っただけで歩を進め、とある建物と建物の間に入った。
「全員、いるな。ちょっと目を閉じていろ。開けてると大変だぞ」
「ルザック、何を――」
ルディが声をかけようとした瞬間、周囲の空気がひんやりとし出した。とっさに目を閉じると後ろにいた子ウサギ達も「わわっ」と驚いていた。身体が急に何かに覆われたのだ。
「城へ通じる道はこの街のどこにでもある。ただ鍵がないと入れないからな。まぁ、魔法みたいなもんだ」
全身が布のようなやわらかなものに包まれると、どこかへと移動しているような微風を感じる。目を開けてみたかったが開けたら大変なことになるのではという恐怖心がしっかりと目を閉じさせていた。
これは転移魔法? リカルドと同じ?
いや、アイツとは違うかも。アイツのは光に包まれ、あたたかい感覚があった。
これはどちらかというと土の中にゴボゴボと引きずり込まれているような、ちょっと湿った感覚だ。
「移動にもうしばらくかかる。だから今のうちに言っておこう。目は開けるなよ」
ルザックの声はすぐ近くで聞こえていた。
「まずランス王は土魔法の使い手だ。だからこうして土の中を移動する転移魔法が使える。これがお前の疑問一つ目って感じだろ?」
さすがルザック、察しがいい。
「次に城がなぜ地下にあるか。実はランス王は病を患っている。日光に当たれない病気……いや呪いの方が正しいかな。それが原因でランス王の血筋は日差しを浴びれない、浴びたら焼け死ぬ」
「焼け、死ぬって……でもフィン王子は?」
彼は前に外で出会ったことがある。
あの日も太陽は出ていたはずだ。
「フィンは息子であるためか、その呪いが薄れた。それでも長時間はいられない、あいつ肌が白かっただろ。日光を遠ざけないと火傷しちまうからだ。だがフィンはその代わり声が出せない。それも病気というよりは呪いなんじゃないかと思う」
「呪いって、一体誰に……」
ランス王家を呪うもの。そんなことができるなら相当な力の持ち主だ。
まさかリカルドやハロルドが関与しているのか。
「そこについては俺は知らない。ただそれによってフィンは父から、うとまれているのさ」
「なっ、どうして」
「王は太陽に当たれない、けれど息子は少しでも当たることができる、日の下の世界を見ることができる。それはうらやましく、妬ましい。しかし唯一の王位継承権のある王子はしゃべれないんじゃ国を治めることはできない。魔法が使えないんじゃ、このランスは治められないんだよ。民の感情を操れないからな。そんな息子のことなど王としてはいらないのさ」
……なんだな色々大変なことになっている気がする。フィンのこと、父親のこと。
さらに感情を操るって。
「お前もさっき感じていたじゃないか。なぜこんな王政でみんな疑問を抱かないのか。なぜランスは賢王が統治していると思っているのか。それも魔法なんだよ、ルディ。魔法がそうさせているのさ」
魔法。
それは人の心、記憶も操ることができるのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます