メイド姿でお仕事

 今日は、早朝からメイドの格好に着替えている。北の砦の部屋付きメイドは、黒のドレスに白いエプロンとレースの帽子? みたいなヘアバンドを装着する。


「エマ様、カツラの取り付けのお手伝いをいたします」

「ありがとうございます」


 リリアにカツラを着けてもらう。髪の色が変わっただけで、ずいぶんと印象変わる。銀髪はどうやっても目立つ。この髪色は日本にいた時の色と似ている。なんだか懐かしい色合いだ。


「エマ様のお顔は派手ですので、化粧で地味にいたします」


 化粧を施した顔を鏡で確認する。これ……地味なのか? 確かに派手さ抑えているけど……これはまた大分清楚なお嬢さんになったな。

 鏡を見ながら大口で笑ってみる。


「ガハハ」

「エマ様? 何をされているのでしょうか?」


 リリアが困惑した表情で尋ねる。


「いや、随分と清楚になったのでちょっと下品に笑ってみたんですよ。これは、確かに私には見えないですね」

「エマ様は普段、フードを被っていらっしゃいますから、お顔自体を知らない者が多いですが…今後のためです」


 アイリスとシオンにメイドに変装した姿を見せる。


「どう思う?」

「エマ、かわいい!」

「悪くねぇんじゃねぇか?」


 二人には意外と高評価だ。


「じゃあ、お仕事行ってくるね!」

「「行ってらっしゃい!」」


 メイド姿でリリアと部屋を退室する。メイドの仕事部屋へ到着すると、今日の仕事内容について尋ねる。


「それで、北の砦のメイドの仕事が分からないのですが、私は何をすればよいでのしょうか?」

「エマ様には、別のメイドの後ろについてお茶のカートを押して頂きます。文官の鑑定は、その時にお願いします」


 その後、メリーという十七歳のメイドに紹介される。私は今日メリーの後ろでお茶のトレーを押すということだった。それなら問題なくできそう。

メリーはにレズリーが鑑定しているとの事だったが、一応メリーを鑑定、特におかしいところはない。メリーは、とても可愛らしい癒し系の女の子だ。メイドカフェで働いていたら人気者になっていたと思う。

 メリーには、私はロワーズの部下のエマだと説明されているらしい。


「二人の今日の仕事は、文官の仕事場の掃除と紅茶をお出しすることです。朝の時間は文官に紅茶の他、軽食も出していますので、よろしくお願いいたします」

「分かりました。メリーさん、よろしくお願いします」

「え? いえ、そんな頭を下げないでください」


 リリアを助けてとばかりに見るメリーは少し委縮していた。私はメリーもリリアも一般人として接しているけど、この国にははっきりとした身分差がある。ロワーズの部下だと紹介されたけど、愛人の件はメリーの耳にも入っていると思う。どうやら、リリアが私に様をつけるので、私も貴族だと思われているようだ。

 リリアが苦笑いしながら言う。


「メリー、業務の間は他の使用人と同様にエマ様を扱ってください」

「は、はい。リリア様。エマ様もよろしくお願いいたします」

「様はやめてください。ああ……エマって呼ぶのも変えたほうがいいですね。私のことはディアナと呼び捨てしてください」

「は、はい。ディアナ、よろしくお願いいたします」


 まだ表情が硬いけど、仕方ない。

 ディアナは母の名前だ。父の名前は次郎だからここで使うと目立ちそうだ。

 早速、調理場から準備したカートを押しながら文官の仕事部屋へと向かう。貴族や上級文官の部屋への配膳が先だそうなので、最初に向かったのは豪華なドアの前だ。

 メリーが豪華なドアを軽くノックしながら言う。


「誰だ?」


 中から聞こえたのは低く通る男性の声だった。


「メリーです。紅茶と軽食をお持ちしました」

「入れ」

「失礼します」

「し、失礼します」


 部屋が思ったより豪華な仕様に少し緊張しながらカートを押し部屋へと入る。

部屋には、三人の文官とそれぞれの従者がいた。

 壁には模様が彫ってあり、鑑定した机も結構な値段だ。机は金貨二十枚もする。それは、この国では四人家族の二ヶ月相当の生活費だ。

そういえば、商品鑑定の価格は大金貨二枚とは出ない。金貨二十も大金貨二枚も同じだけど、なんでだろう? 何かの仕様なのかな?

 先ほどの応答の声の主で、明らかにこの部屋で一番立場が高いだろう男性が私を真っ直ぐ見ながら尋ねる。


「初めて見るメイドだな」

「キンケイド様、こちらは本日私の手伝いをしていますメイドのディアナです」

「そうか。これからよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いいたします」


 メリーのおかげでボロは出なかった。キンケイドと呼ばれたその男性は軽く笑顔を見せると、執務に戻った。彼から鑑定するか。


アーモス フォン キンケイド

年齢:43

種族:人族

職業:黒騎士団文官北の砦 副代官

状態:寝不足

魔力4

体力4

スキル: 言語、長剣、短剣、統率、戦闘、快速、殺気、防御、毒耐性、房中術、算術、精神耐性社交、 作法、ダンス

魔法属性:水

魔法:生活魔法、詠唱破棄、水魔法4

称号:紳士の鑑


 物腰柔らかいのに、香色の髪は綺麗に整えられており清潔感がある。この人、きっとモテるんだろうな……地球でもこういう人が人気だったと思う。称号に関しては、相変わらず誰目線か分からないけど。

 紅茶の準備ができると、メリーが最初にキンケイドの元へと配膳する。


「キンケイド様、紅茶をどうぞ」

「ありがとう。メリー」

「メリーちゃん、僕もお願いね」


 一番ドアに近い執務席から、髪を一つ結びした男性が軽い感じに声を掛けた。

 この人も鑑定をする。


ヤーヒム フォン ドゥボア

年齢:27

種族:人族

職業:黒騎士団北の砦文官

状態:寝不足

魔力4

体力4

スキル: 言語、長剣、短剣、統率、 快速、防御、房中術、 算術、精神耐性、社交、作法、ダンス

魔法属性:風

魔法:生活魔法、詠唱破棄、風魔法


 やっぱり貴族は平民より魔力が高い。そして、二人とも寝不足……文官の仕事は忙しいのだろう。

ふと視線を落とすと、メリーの太もも辺りをヤーヒムが触っているように見えた。ん? 何? 

 メリーが、驚きながら身体を揺らすと紅茶が零れてしまう。

 メリーが頭を下げ謝罪する。


「ドゥボア様……申し訳ありません」

「メリー、いいんだよ。誰にでも失敗はあるんだよ」


 ヤーヒムがニヤつきながら、頭を下げるメリーの胸元を見る。

 朝からセクハラって……寝不足の癖に下のほうはお元気なんですね。

誰にでも失敗はあるって……お前がメリーの太ももを触ってびっくりさせるから、お茶をこぼしたんでしょ? いまだにメリーの肩に手を置いて撫でながらニヤつくヤーヒムに内心呆れる。

 メリーの表情は難い。キンケイドに注意してもらいたいが、執務席が遠くメリーも背中を向けているので表情までは見えないのだろう。ヤーヒムの従者はセクハラに気付きながらも目を逸らしているので、これはヤーヒムの普通運航なんだろう。他には分からないようにセクハラしているのが変態上級者の極みだね。

 ちょっと触りすぎじゃない?

 軽食を差したメリーの手を握るヤーヒムの股間に、無詠唱で出した水を誰にも覚られないように投げつける。

 ちょうどいい感じに股間に命中した水は、ヤーヒムの股をジワッと濡らした。

 少し大きな声で言う。


「まあまあ、ドゥボア様! 朝からお元気ですね」


 私の声が届いたキンケイドは立ち上がると、ヤーヒムの股間を確認するなり眉間に皺を寄せた。


「ヤーヒム、なんだそれは! 朝からけしからん」

「え? いや キンケイド様、これは誤解でございます!」


 自分の股間が濡れていることに驚きながら抑えたヤーヒムに、キンケイドがため息を吐く。


「言い訳はよい。早く着替えてこい」

「は、はい……」


 恥ずかしそうに股間を隠しながら退出するヤーヒムを後ろから口角を上げ見送る。

 ヤーヒムを追う従者と目が合うと、軽く笑ったような気がしたのでそちらの鑑定も済ませる。


トーマス

年齢:35

種族:人族

職業:ドゥボア家従者

魔力5

体力4

スキル:言語、長剣、短剣、統率、戦闘、快速、精神耐性、(殺気)(毒耐性) (暗殺)(暗器)

魔法属性:水(闇)

魔法:生活魔法 、詠唱破棄 、水魔法(闇魔法)


 恐ろしい従者がいたんだけど……これって密偵? でも、職業がドゥボア家従者になっているので違うかもしれない。カッコに入っている項目があるってことは、アイテムで隠しているのかな? とりあえず頭の中でメモを取り、後でロワーズに報告しよう。


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ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。 トロ猫 @ToroNeko0101

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