クラスメイトEPISODE.邪魔者の消失
時間は少し前に遡る。
凱亜とシルヴァが古城の中でゲリュオンとの激戦を繰り広げていた中。
王宮内、召喚者達に与えられた部屋の内の一室で召喚者達は集まっていた。
召喚者の内の一人である「不知火凱亜」が、この王宮から追放され、勇者としての地位を剥奪されてからもう数日の時間が流れていた。
勿論の事ではあるが、クラスメイトの内の一人が何か事情があった訳もなく早々と離脱してしまった事で、誰かが愕然とする事も失意を見せる事はなかった。
誰もクラスメイトの一人が消えた事で、心が折れる様な事も、致命的な障害が身に起こると言う事もなかった。
他の誰かが勇者一行にケアが必要なんて思いもしない。
全ては彼、不知火凱亜の自業自得だと。
最初はあの現場を見ていない誰もが、彼の追放に対して最初こそもう一人減ってしまった事に多少なりとも驚きを見せたが…。
それが役立たずで価値もない様な不知火である事が分かれば安堵の息を漏らしていた。
そして部屋の中で、勇者の内数人が集まり会合を行う様にして会話を行っている。
「何故王は、不知火を追放したのにそれを公にしないんだ?」
天野が思わず疑問の声を漏らす。
あの現場を見た者は、たとえ誰であろうとましてや召喚者一行であっても、公にはせず口を慎む様にと王から命令を受けていたのだ。
この命令は、召喚者だけではなくあの現場を目撃していた貴族達全員に向けられていた。
現場を知る者は、知る者同士で物陰でこそこそと世間話をする様な感じで話したり、知っている者だけを集めて話す等していた。
しかし内容等聞くに絶えない。やれ追放されたのが奴で良かっただの、然程使えもしない奴がいなくなって嬉しいだの、それはもう無法地帯の如く好き放題に言い散らかしていた。
これでは、完全に死人に鞭打ち。オーバーキルも甚だしいぐらいの言い様であった。
「本当だよな、天野。あんな奴、社会的にも殺しちまえば良いのによ!」
天野の言葉に、坂見は強い同感を見せた。普段の彼なら、間違いなくしない様な行いだろうと思える。
王は不知火が追放された事実を隠蔽している。追放はしたが、それを街の者等には教えていない。
知るのは、あの現場を直接見ていた者だけだった。
「まぁ、俺達のイメージを損なわせない様にする為の計らいだろうな…」
岩下が椅子に座り、腕を組みながら渋めの声でそう答える。
岩下の言葉に間違いは存在しないだろうと、この場にいる皆は思った。
それぐらい、高校生でありそれなりにちゃんとした知識を持つ彼らなら簡単に理解出来る事であった。
もし仮に、王が不知火を追放しその事を世間一般的に公に、この召喚者は犯罪を犯した、と公開してしまえばどうなるだろうか。
結論は簡単だ。
不知火を嫌っていた奴らは、不知火が社会的にも迫害される立場になっていい気味だと、嬉しくなれるかもしれない。
しかし、この事を公にすれば召喚者達の評価はどうなるだろうか。
残念な事に、人間と言うのは罰されない限りは他者の事を、他人の気持ち関係なく好き放題言う性質がある。
そうなれば、どうなるかは明白だ。
追放されたと言う事実が公となれば、天野達勇者一行にもヘイトが向く事となる。
他の召喚者達も、追放された不知火凱亜の様に同じ事をするのではないか?……と。
そうなれば、召喚者達のイメージがダウンしてしまうのは定石だ。
だからこそ、国の連中は不知火を追放したことを秘匿しているのだろう。
「そうだとしても……やはり罰を犯した者にはしっかりとした制裁を…!」
謎に正義感を見せ、不知火を正しく罰しようとする天野。
傍から見たら、それは至極真っ当であり決して間違っている事には見えないかもしれない。
実際、この場に集まっている多くの者は天野の言葉に賛成していた。
ただ一人を除いては……。
「あれ、悠介は?」
座って、天野達の話を聞いている中。河下が突然として疑問の声を上げる。
『河下比奈田』ボーイッシュで活発な女子と言ったら、彼女が真っ先に名前が上がる。
クラスの女子の中で唯一、髪が短いショートカットで中性的で美しくもカッコイイ見た目から男子よりも女子からの人気が高い女性だ。
また、かなりの確率で行方を眩ませる悠介の存在を感知出来る数少ない人物だ。
(実際は誰も気が付いていないだけ)
「あれ?さっきまで、いた……よな?」
「またか、ちょっと探してくる」
そう言うと、皆が座っているにも関わらず河下は席を立ち部屋から先に1人立ち去ってしまった。
天野が思わず引き留めようとしたが、そんな静止の声を聞く事もなく河下は部屋から去っていってしまった。
The Evil~たとえ世界が敵になっても~ 神無月 @Bastion
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