とりあえずアイスを買っておこう
「クッククク」
彗星の大群が空を支配し続けた日。
両手足を骨折して即入院して、退院。骨折も完治した探偵は今、見ていた。
同じく完治して職務に勤しむ警官を。
笛を吹きながら横断歩道を渡る小学生を見守る警官を。
「クッククク」
「ねえお巡りさん。怪しいやつがあそこにいるよ」
「あのお兄さんは俺の友達だから怪しくないよ」
「友達でも全部を知っているわけじゃないでしょ?怪しくないって言い切れないでしょ?」
「え?うーん。確かに」
「気をつけなよ、お巡りさん。お巡りさんの持っている情報を狙って近づいたのかもしれないよ」
「うん。ありがとう。気をつけて行くんだよ」
「じゃあねお巡りさん。またお昼にねー」
一緒に横断歩道を渡った一人の小学生にそう言っては見送った警官は、きょろきょろと辺りを見回した。
きっと探偵の仕事で来ているのだろう。何か手伝えることはないだろうか。
そう思いながらも、誰を、もしくはどこを探っているのかわからないので、本人に聞こうと車が来ていないことを確認して、笛を吹き手を上げながら横断歩道を渡り探偵の元へと向かおう。としては、身体の向きを変えて、探偵から遠ざかった。
警官である自分が傍に駆け寄っては仕事に支障をきたすかもしれないと思ったからだ。
今日の職務が終わったら電話しよう。
そう思って、交番へと戻ったのであった。
「おお。おまえの友達から差し入れをもらったぞ」
「え?」
引き戸を開いて戻りましたと言えば、先輩警官が机の上に置いてあったクーラーボックスの蓋を開いた。
中にはぎっしりと、袋入りの苺のかき氷が入っていた。
「いや~。今日は暑かったからな。休憩時間に有難く頂こう」
「はい」
「しかし、おまえの友達も律儀だよなあ。おまえに世話になっているからって、こうして頻繁に差し入れをくれて」
「はい。本当に律儀なやつで。俺もお返ししないといけません」
「お。なら今度、一緒に飲まないかって誘っておいてくれないか?俺も結構頂いちゃっているわけだしな」
「はい。伝えておきます。じゃあ、これは休憩室の冷凍庫に入れて置きますね」
「おう」
(う~ん。奢られる前に奢ろうと思ったのか?それにしてもこんなに。けどなあ)
想像していたのは。そう。部活帰り。いや、学校帰りでもいい。ふらりとコンビニかスーパーか、はたまた自動販売機でアイスを買って、そこら辺で食べながら、ぽつぽつ話す。みたいな感じで過ごしたかったのだが。
(う~ん。俺も探偵事務所に差し入れを持って行った方がいいのかな~)
『気をつけなよ、お巡りさん。お巡りさんの持っている情報を狙って近づいたのかもしれないよ』
(まあ、俺も探偵の情報を狙っているわけだから。俺も怪しいやつなのか?う~ん。いやいや。情報交換しているしな。うん)
よし帰りに探偵事務所を突撃しよう。
もちろん、制服を脱いで。
そして、実行しよう。
(2023.5.7)
とりあえずアイスを買って来てくれないか 藤泉都理 @fujitori
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