既成事実を作りたい男
第1話
深夜2時。僕は花束を抱えて、古びたアパートの廊下を歩いていた。202号室の前に着くと、僕は胸ポケットからスマホを取り出し、録音モードにした。そしてチャイムを鳴らした。しかし誰も出ない。またチャイムを鳴らす。それを10回程くり返していると、ドアが開いた。そこには、黒髪でショートカットの女性が眠たげに目を擦っていた。
「こんな時間にどうしたの?」と女性は不思議そうに首を傾げた。
「実は、古谷さんに渡したいものがあって……」
僕はそう言うと、古谷さんに花束を手渡した。
「わぁ、ありがとう。チューリップとってもきれい」
「いや、チューリップじゃなくてバラです」
古谷さんは完全に寝ぼけていた。これはイケる。そう確信し、僕は古谷さんに告白した。
「古谷さん。僕と結婚して下さい」
「ごめん無理」と古谷さんは即答した。
「でも、お花ありがとう。それじゃ、おやすみ」
そう言って古谷さんがドアを閉めようとした瞬間、僕は突然声を上げた。
「実はあの……僕、親と喧嘩しちゃって。今晩だけ泊めてくれませんか?」
僕は明らかな嘘をついた。しかし古谷さんは疑う素振りも見せずに「いいよ」と言った。
「じゃ、上がって」
そう言って、古谷さんは僕を部屋に入れた。古谷さんの部屋には、ベッドが1つしかなかった。
「ごめんね、ベッド1つしかないんだ」
僕は内心歓喜していたが、表情を変えず「そうなんですね」と答えた。
「じゃあ、どうします?」
「ん〜、どうしよっか……」
古谷さんは胸に抱えていた花束をテーブルの上に置くと、10秒ほど黙り込んだ。そして突然「あっ!」と閃いたような声を上げた。
「私、風呂場で寝ることにするね。それじゃ、おやすみ〜」
古谷さんはそう言い、ベッドから枕を取ると風呂場に向かって歩き出した。
既成事実を作りたい男 @hanashiro_himeka
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