金髪の少女の夢


フェンネルは知らない場所で目を覚ます。


うつろだったフェンネルの目が覚醒に伴いはっきりしていく。


そして思い出す。

自信を持って打ち込んだ拳がかわされ、相手の拳で気絶したこと。

おそらく相手に手加減されていたこと。

それらすべてがフェンネルに負けを認めさせた。


いや殺す気があれば気絶した時点でとどめを刺されもう目覚めることは無かっただろう。


目を上げると金髪の少女が心配気にこちらを見ているのが見えた。


その時フェンネルの心の中から昔聞こえていた声が聞こえた

「この人に…ついて行く…」



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マリーがフェンネルの様子を見ているとどうやら目が覚めたようだ。


見たところたいした怪我はなさそうだ、手加減したとはいえさすがはS級である。


そしてこちらを見つめてくるフェンネルの目は王都での目と明らかに違っていた。

何か観念したようなすっきりとした表情である。


その時フェンネルの体に変化が訪れる、胸の辺りが淡く白く光りだす、欠片の出現の前兆である。


フェンネルの胸から浮き出た白く光る欠片は迷わずマリーの胸に吸い込まれる。


その時にマリーが感じたこと、小さな欠片、それでも強く真っ直ぐな意志を感じる欠片。

それは欠片の持ち主がその心を持っていることの証。


けれどこの大きさなら本人の心への影響は小さいだろう。

そう判断し「ありがとう」とだけフェンネルに声をかけ立ち去ろうとするマリー。


フェンネルにとっては分からない事だらけだ。

今のが何なのか、なぜお礼を言われたのか、果てはここがどこかまで。


しかし一番聞きたいことは最後に聞こえた声のこと、幼いころから聞きなれた声。

直感的に今自分から出て行ったものがその声の主だとわかる。

なので思わず声に出してしまう。

「わたしの心の中でささやいていたのはそれなの?その声は私には使えるべき人がいるって言ってたの」

「わたしは王こそがその人だと思って使えてきた、それは間違いだったの?」と


フェンネルの言葉を聞きマリーは思う。

欠片は心、同じ心を持つものにしか宿らない、つまりはフェンネルが感じた事をマリーも感じるということ。

しかしマリーはあえて詳細は伝えず必要なことのみを伝える。


「あなたが仕えるべきはこの国の王ではない、そしてその声もあなた自身の心の声ではない。」

「だから自由に生きなさい、私が言えることはそれだけよ」


冷たいようだがそうとしかいえない、ハイド様も言っていた「連れて行っても危険な目にあわせるだけだし、その先に希望も無い」と

確かにそうだ、この先に希望は…



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マリーは欠片を宿した状態であの場所に行く。

そこは限られた者しか入れない秘密の部屋。

その場所で待っているのは3人の『マリー』、私と同じ姿の少女が3人、いやもう1人。


最後の1人は私と同じ姿で眠りにつく金髪の少女、名前も知らないその少女。

私たちと同じ姿なのに密度が、解像度が違う圧倒的な存在感を持つ物言わぬ少女。


その前に立つと欠片はマリーの胸からその眠っている少女のもとへ移る。

まるで本当の家を見つけた迷子の犬のようにすんなりと帰っていく。


その結果一瞬少女の体が薄く光るがそれだけだ、まだまだ足りない、そういうことだ。

残念なようなほっとしたような…



欠片を渡した後、私は他の3人のマリーの誰かと交代する、それが役目。

他のマリーが欠片を持ってくるまでまたこの部屋で過ごす、そしてこの場所を守るそれが役目。

話などしない、この部屋に入った途端、記憶はみんなのもの。

4人のマリーは同じモノ。

眠りについている少女はマリーじゃない、同じ姿の別のモノ。

その隣に眠るアイそっくりの黒髪の少女の名前ももちろん知らない、しらないモノ。



けれど同じマリーになる前に、ハイド様とのひと時を…私だけへのご褒美を…



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金髪の少女は夢を見る


ハイドの隣で夢を見る


はたしてそれは夢なのか、欠片が見せる記憶なのか



夢の中で私はきれいに手入れされた庭園が見える部屋で装備を整えている。

日の光が差し込むきれいな部屋で金髪を結び、鎧を身につける。


夢の中で私は緊張しているようだ、いや緊張と興奮、そして喜び。

今日はあの方と仕事だ、尊敬するあの方と。


創世の神の指示による世界の修正、神の指示に逆らう者の粛清。

それが私とクロノス様の仕事だ。…クロノス様?誰?


場面は変わり

打って変わってどんよりとした空の下、眼下には翼の生えた使徒たち。

それと戦う人の姿の者、獣のような者、様々な者たちが協力して使徒に立ち向かっている。


「愚かな…」金髪の少女の口から憎憎しげな言葉が漏れる。私だ…


「愚かか…どちらが本当に愚かなのだろうな…」使途を率いて戦うクロノスは金髪の少女に聞こえぬようにつぶやく。


眼下の戦場では漆黒の魔王とその副官が現れ使途の群れを一掃するのが見えていた。


マリーはその副官を見ながら「あれ?アイちゃん?」と思ったところで目が覚めた。

その瞬間の夢の中の自分の感情が『敵意』以外の何物でもなかったことに驚きながら。



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偽・神・殺 灰色時計 @GrayClock

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