S級冒険者フェンネル


聖王国冒険者組合


隣国のハイランド王国の冒険者組合と相互交流を行い登録証も共通化されている。


しかしそれもA級までに限られる。


S級はそれぞれの国が管理し国内での自由度は上がり仕事が無い時でも国から給金が出る。

騎士並みの待遇を受けられ、国民からの人気も高い。

ただし国からの特別指令の場合は拒否すると罰金、場合によっては資格剥奪となることも。


それらのデメリット考えてなおメリットが上回ると考える冒険者も多い。


しかしそれらを考えず国のために尽くすことを考えS級まで上り詰めた女傑もいる。


フェンネルがそれである。


彼女は小さいころから心の声にしたがって生きてきた。

心のおくから聞こえる小さいが力強い「私には仕えるべき人が守りたい人がいる」という声。


フェンネルは思う、この国に生まれたからには仕えるべきは王なのでは?と。


聖王国は女性兵士を採用してはいないし騎士も同様だ。


女性が採用されるのは神官職、魔法職であるが彼女はそのどちらの能力も持ち合わせていなかった。

剣術も苦手だった。


ただ魔力を筋力に転換するスキルが人並みはずれていた。

いやそれしか出来なかったと言っていい。


その結果村娘然とした容貌で大型モンスターを素手で殴り倒す少女が誕生したのだった。


聖王国S級冒険者『拳姫』フェンネル、仕えるべきと信じ、あったこともない王のため今日も王都の守りにつく。



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王都に向け栗色の髪、黒髪、金髪の順で3人の少女が歩く。

サチ、アイ、マリーである。


今回は冒険者証は付けていない、元々偽造の品で彼女たちは冒険者登録はしていない。

冒険者の多い街に馴染むようにと付けてみたが実力に見合わないクラスの登録証のせいで逆に目立ってしまった。


そんなわけで今回は潜入することにした。

入り口は完全認識阻害で通過し、街中では認識阻害で行動する。


ちなみに完全認識阻害はそこに誰かいることすら認識できない。

対して認識阻害はそこに誰かいることは認識されるし会話も当たり障りの無いことは出来る。

店での買い物などはできるが本人を特定されるような会話をすると解けるときがあるから注意が必要だ。


今回は王都で欠片の候補が見つかったとの事で回収にむかっているのである。



「残念だけど、今回のは大物じゃないよ」とサチが残念そうに言う。


サチの仕事は欠片の探索、見極めまで。

回収、運搬は出来ないから”あのこのいる場所”に入ることは出来ない。


サチが見つけた小さな欠片はアイか私マリーが回収する。


小さな欠片はハイド様がいなくても回収できるので今回はハイド様の同行は無い。


大きな欠片を見つけたらハイド様がほめてくれる、一緒にお出かけできる、が彼女のモチベーションである。


それが今回サチが少々不機嫌な理由だ。


まあ私たちもハイド様と一緒がいいのはもちろんだが、なるべく危険な目にあわせたくは無い。

危険の少ない家から出ないにこしたことは無い。


その事がサチには不満なのだろう、ただ「大きな欠片かも」と嘘をつかないのは可愛いところなのだが。


サチは見た目以上に子供だ。

感情の起伏が激しく私たちの中で一番ハイド様依存が激しい、などと考えていると


それを見透かしたのかちょっといじわるそうな顔で

「こんどの相手は多分マリーちゃんだよ、力任せの怪力少女だってさ」とサチが笑い気味に言った。


その言い草に引っかかるものがありながらも言い返さない。


私は『鉄壁のマリー』ハイド様の金色の盾



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王都にいるS級冒険者は定期的に王城の冒険者詰所での待機任務が義務付けられている。


ほとんどの場合何事も無く時が過ぎ交代時間が来るのでいい小遣い稼ぎと一部では歓迎されている。

さすがに酒を飲むわけにはいかないが、かなり自由に過ごすことが出来るし軽食なども出される。


今日はフェンネル含め5名のS級冒険者が待機任務を受けていた。


生真面目なフェンネルはちゃんと装備を着けて待機しているが、残りの面々は鎧などは脱いで談笑している。

まあフェンネルの場合は装備とは言っても動きやすさ第一の軽い装備、それと自慢の拳を守り攻撃力をあげるマジックグローブだけであるが。


もしフェンネルが重装備のジョブだったとしてもやはりきっちり装備して待機するだろうが。


いつもはその生真面目さを仲間に笑われていたフェンネルだが今日はそれが良いほうに出る。


王都の守備兵から詰所に「南門に設置されていた魔法検知のアイテムが何かに反応した」と一報が入ったのだ。


王城への門は厳格な検査がされる、対して王都への入る者への審査はゆるい、他の都市に比べればもちろん厳しいが。

それが守備隊による検査に加え魔法検知アイテムがあるという部分だ。


今回は守備隊の検査では気づかれずに魔法検知アイテムのみが反応した。

つまり何者かが魔法で身を隠し王都に入ったと言うこと。


王城への侵入は騎士隊などの兵隊が対応するが、今回のような場合待機中の冒険者が対応する。


フェンネルは準備している他の冒険者を待たず南門にむけ飛び出していく。


「お役に立つ機会が来た…」と拳を握り締めた。



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サチの事前調査により門にマジックアイテムがあるのはわかっていた。

そのアイテムは完全認識阻害にさえも反応する、ただ”何かしらの魔法が使われている”と反応をするだけだが。


前回のように偽装冒険者でも良かったのだが、アイテムの事を聞いたハイド様が「今回はあっちから来てもらおう」と提案した。

つまり姿を隠して進入できるレベルの者がいた場合S級が対応するだろうと。



その作戦を実行するためにサチが冒険者待機のローテーションを調べ今日の決行となったのだ。


「じゃあちょっと見つけやすくしないとね」とサチ達は完全認識阻害から認識阻害に切り替える。


一般人には見つからず、自分たちを探しているS級冒険者からは逆に目立つ。

絶妙の匙加減である。


その時王城方向から金髪を後ろに束ね、肘、膝、拳にマジックアイテムをつけた少女が全力で走ってくるのが見えた。


サチがマリーの後ろに回りこみ背中を押す。

「マリーちゃんよろしくね」と楽しそうにつぶやいた。


マリーが後ろを見るとサチはニヤニヤ、アイはわれ関せず。


マリーはため息をつきつつ迎え撃つ準備を始めた。



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フェンネルが大通りを南門方向に進んでいく途中ある集団が目に付く。


3人の華やかな少女の集団だ、しかし目に付いたの見た目の美しさではない。

何かの魔術、おそらく認識阻害を発動している反応がある。


持たされたアイテムのおかげでそれが分かったフェンネルは排除に向かう。


スピードを緩めず彼女たちに近づく、すると金髪で純白の服を着たどこか神官か巫女のように見える少女が前に出る。

一瞬迷うが侵入者には違いないので容赦なく右拳の一撃を見舞う。


カン!!と高い音を立ててフェンネルの拳が透明な壁に阻まれる。

しかしそれで動じないのはさすがS級、攻撃を連打に切り替える

フェンネルの魔力乗せたマジックアイテム付の拳。その連打を受けて無傷だったものは今までいない。


しかし相手の少女は涼しげな顔でそれを捌いていく。

透明な盾のような物でずらす様にそらすように受け流していく。


なるほど彼女が盾役で時間を稼ぎ後ろから攻撃が…とフェンネル意識を一瞬そらした瞬間だった。


ゆるふわな金髪、やさしげな笑顔のまま一瞬で間合いをつめてくる彼女。


フェンネルのボディを狙った一撃、かわせないと判断し両手でクロスガードした。


フェンネルの記憶はそこで途切れる。

誰かの「あーあ…」と言う声が聞こえた気がした。



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マリーは自分のことを盾だと自負している。

守るのが自分の役割であると。


しかし今回ばかりはこうやってねじ伏せる必要が合った。

フィリアと打ち合ってみて分かる。

あなたの中の『欠片』は負けを認めないとおそらく出てきてはくれないだろう。

それも魔法や剣ではなくあなたが鍛え続けてきた拳での勝負で。


しかし、やりすぎたかもしれない、大丈夫…だよね?


サチは「あーあ…死んでないよね」となぜか笑顔。

アイは後ろを向いて肩を震わせている、くそー


だが時間が無い、気絶したフェンネルを抱えて転移魔法を唱える。

魔方陣が浮かび上がり姿を消す4人。


転移阻害がかかってるはずの王都であっさり消えた4人を後から来た同僚が見て驚きの声をあげるのだった。


















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