黒髪の少女と夢
黒髪の少女アイがハイドから『欠片』を受け取る。
その欠片はふわふわと彼女の手の上でたゆたってから、帰る家を見つけたかのように彼女の胸に吸い込まれていく。
アイは自分に欠片がすっとなじむのを感じる。
それは自分の一部だったものが戻ってきたような感覚。
自分ではない経験をした自分と自分が混ざる感覚。
何度もやっていることではあるが大きな欠片であるほど心がざわざわするのも感じる。
ただそれも少しの時間だけ、私はただの橋渡し役なのだから。
これからある秘密の場所にいく、それはごく一部のものしか知らない。
部外者はもちろん身内でも、例えばサチすら知らない。
そのことを考えればいかに大事なものがあるか分かるだろう。
正直そこに行くのはあまり好きではない。
なぜならそこにいるのは…私と同じ顔をしたあの子。
そこに行き欠片を渡す、それが私の仕事、私の役目。
今回の欠片はあたしに合った。
それがマリーに合う欠片だったったら彼女がここに来るはずだ。
彼女も同じような感覚を味わっているのだろうか?
欠片を渡した後は周囲から隔絶されたこの空間で、自分と同じ顔の少女と交代の時が来るまで待たなければならない。
彼女の名前もアイ。私はアイ…
もう一人の名前は…知らない。
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だけどその前に少しだけご褒美、ハイド様を一晩独り占めできる事それが欠片を運んだものの権利。
みんなそのためにがんばっている。
役目は違うけどサチもそのはずだ。
誰にも邪魔されない2人だけの時間、幸せな時間。
そしてアイは眠りに落ちる、幸せを感じながら。
その夜、アイが眠った後に見たものはなんだったのだろうか。
それは夢?それとも欠片に残る記憶?
遠い昔の事なのだろうか、目の前には小さなハイド様。
練習用の剣を持ち、小さな体をボロボロにしたその姿。
自分の手にも同様の剣、おそらく自分がやったのであろう。
その時の自分の気持ちが流れ込んでくる、自分ではない自分の気持ちが。
憎しみ?嫉妬?少しの希望、今では考えられないその激しい感情。
今すぐに癒してあげたい、守ってあげたい、今ならそう思うはずだ。
癒しの魔法を持たない自分ならすぐにでもマリーを呼んで癒させるだろう。
夢の中の自分と今の自分のギャップに驚いていると小さなハイド様の向こうからマリーがやってくるのが見える。
その時にわきあがる感情にまた戸惑う。
明確な『敵意』、今の私たちからは考えられないほどの敵意。
ハイド様をめぐり嫉妬することはあっても感じたことの無い感情。
夢の中ではマリーと目もあわせないアイ、マリーは小さなハイド様に癒しの魔法をかけると「続けて…」とアイに声をかけ離れていく。
そして剣を構え向き合う2人…、そこで目が覚める。
隣で寝ているハイド様を見て負のの感情が自分の中に一切無いことにほっとして再び眠りにつくアイなのであった。
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