第八話 四天王
「ん〜」
テスト明けの休日は実に気持ちいい。
何となくだが、肩が軽い気がするし、絶好調だ。
よし、まずは朝食を食べるか。
俺が威勢よくリビングのドアを開けると、ソファに人が座っていた。
「おはよう」
俺は軽く挨拶し、冷蔵庫に向かう。
「って、誰だ!?」
コントのようなノリツッコミが口から飛び出る。
普通、創や積雪とかならここから小気味いい掛け合いが始まる所だが、眼の前の男は仏頂面で続ける。
「忘れたのか?」
「……」
顔はフードで見えないし、声も……あ。頭の中で電球が光る。
あの時、病室で俺を治してきた奴。
あいつか!?
「あの人か」
まずは様子を伺う。
「ああ」
「なんでここに」
浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「我の役目はここでお前と話すことだからだ」
我? 役目?
何を言ってるのか訳が分からない。
「そこに座れよ」
なんでお前が命令するんだ……と思いながら、俺は男の隣に座る。
近くで見ると、男が着ているコートが繊維に沿って少し青く光っているのに気付く。
こんな服、どこで手に入れたんだ?
「なにから話そうか。まずはお前が忘れた一日を思い出させてやろう」
「忘れた一日?」
俺が何かを忘れている?
昨日はテストをやって、帰って寝ただけだ。なにもおかしいことは起こってないし、してもいない。
「そこから間違えてるんだ、お前は。確かに昨日はテストだったが……では、そのテストの内容は?」
「そりゃ、社会から始まって――ん?」
テストをやったのは覚えてる……のに、テストに出た問題が一個も思いだせない。なんだなんだ気持ち悪い。
「どうした、早く教えてくれよ。ハハッ」
男は嘲笑し、俺を煽ってくる。
「……何も出ない」
「では、答え合わせだ」
男が言い終わるとほぼ同時に玄関のチャイムが鳴る。
俺はドアを開ける。
「よ」
「えっと……お邪魔します」
「どうも」
「ッッ!」
突然、腹が痛くなる。古傷が開いた感覚だ。
「入れよ」
三人をテーブルに座らせ、俺はさりげなく門の隣に座る。
少しだけ、いい気分になったあと、俺は男の方に視線を送る。
男は変わらずソファに座っている。
俺の視線に気づいたのか、男は姿勢を正して、口を開いた。
「さて、まずは虹星高校に在籍する数多の生徒の中からなぜお前らを選び、ここに集めたのかを説明しなければな」
男は立ち上がり、ソファの前に置かれたテレビ、その背面にあるケーブルを弄りだす。
「お前らはこっちに座れ、見にくいだろう」
どういう意図で言ったのか分からなかったが、とりあえず俺達はソファに移動する。
「よし、これでいい。では始めよう」
「その前に良いか」
俺はスッと調味料を取るぐらいの高さで手を挙げた。
「どうした」
「あんたのことを教えてくれ」
「……良いだろう。そうだな、我はお前らを導く者、今はそこまでしか言えないな」
「…………ありがとう」
もう少し問い詰めてやりたいが、まあ悪いやつじゃなさそうだし、今は信じるとしよう。
「話を戻すぞ。お前らが一年二組テスト順位トップ4だからだ」
「「!」」
俺が?
どんなテストだったんだ?
「そんなトップ4に頼みたい事がある。……この男だ」
男はテレビに人の、いわゆる証明写真を映し出した。
「生徒会長……?」
門の呟きで電流が走った様に思い出す。
チラッと見えたが、隣の二人も同じ様な顔になっていた。
テレビに映し出された人は
虹星高校の現生徒会長だ。
「詳しい事は省くが、この男は最近起きた蒼星洞窟での事件と繋がっている」
俺達が巻き込まれたあの事件と繋がってる……もしかしたら、あの三人組とも。
「この男から蒼星洞窟の事件の目的と理由を聞き出す。それが我の目的だ」
男の話が終わった。
「良いですか?」
黒衣が口を開いた。
「僕、というか、僕達一年は生徒会長と接触する機会がほぼ無いんだけど」
「期末テスト」
「「?」」
「期末テストは一年全員と三年の代表生数名で行われる」
どういうテストなんだ?
「生徒会長はそこに来るってことね、分かった」
「分かったなら、もう帰って良いぞ。それとこの話は他クラスにも話してある」
俺達と同じくトップ4の奴らにか。
「じゃあ、帰るね」
黒衣はカバンを持ち上げ、スタスタと家を出た。
「えっと……私も、塾があるから」
門はそそくさと家を出ていった。
「おっと、お前らには話がある」
圧がのしかかる。
「なんだ」
「この男とは別で話があるのだ」
「俺達にだけ?」
「ああ、蒼星洞窟から現れた、三人組」
「「!」」
「夏にあいつらが動き出す」
「そうか」
雄介……とんでもない剣幕で男を見る。
「お前らには三人組の討伐を頼みたい」
「そうか」
雄介は納得したように小さく頷き、家を出た。
「なあ」
「なんだ?」
「俺、昨日のテストのこと、覚えてないんだ」
答え合わせとか言ってたけどなにも分からなかったし。
「そうか、では、ほれ」
男は俺の頭に手を置いた。
「!!」
この世界で私が出来ること、私一人が出来ること。
生徒たちに授けることが出来ることは限られてる。
「ハァ」
あれで良かったのか?
私は間違えた、いやそもそもが間違っていた。
あの状況がおかしかった。
この立場が良くなかった。
とても異常で不気味で。
「気持ち悪い」
だから――反抗する。
もう二度と間違えないために…………。
Unreals 第一章 交差する未来達 完
Unreals 奇想しらす @ShirasuKISOU
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