第七話 煙を払う切り札

「教師点?」

 名前は聞いてたが、内容については知らない。

「ああ、まだ話してないだろ」

「そうだな」

 俺は手で皆を集める。

「では」

「では、話しましょうか」

「「!!」」

 俺の背後から穏やかな声、ろう先生だ。

「こんにちは」

「はいこんにちは。いやー派手に壊しましたね」

 狼先生は後ろの壁や左右の壁に目をやりながら話す。

「なぜここに」

「それはですね」

「狼せんせーい」

「おっと」

 狼先生の笑顔に苦笑いが加わる。

追方ついかたさん、落ち着いて、というかなぜここに」

「えへへ、運命?」

「嫌な運命ですね」

 狼先生は片手で四位よつみを抑えながら言う。

ゆき、四位の能力調べてくれ」

「う、うん」

 門は四位の背後に回り込みカードを押す。

「見せてくれ」

 俺は門の方に体を寄せ、カードを覗く。

「『追跡』……か」

 なるほど、右手に持ってる方位磁石で相手の位置が分かるって感じか。

「もういいか……皆さん、教師点というのは」

 狼先生は片手で四位を抑えながら話し始める。

「あなた達の行動から私達教師が付けた点のことです」

 狼先生は右手に付けたスマートウォッチに目線を落とす。

「……皆さんはもう合格点に達していますが」

「合格点って、私達はまだ」

 改空あらたかが反論する。

「教師点を含めればですよ。さて、このままやり過ごせば、あなた達は合格、ですが、私と会ってしまった。……戦いますか?」

 いつもと違う、鋭い目つきが俺達に向けられる。

 俺達は何も返せず、その場に立ち尽くしていた。

「ハァァ〜」

 白い煙が狼先生の口から漏れ出る。

 煙がゆっくりと視界を埋めていく。

「黙ってても何も分かりませんよ」

 ドッと鈍い音が右から聞こえる。左で何かが光る、あずまか。その光は四方八方に動き回る。

「なにが起きてる」

「枝切!」

 煙の中からゴツい手が伸びてくる。

「雄介!」

 その手を掴む。途端に部屋が傾いたような力が加わり俺は吹き飛ぶ。壁に当たり俺はズルズルと背を擦りながら落ちる。制服がボロボロだ。

 俺の隣で雄介が倒れている。息はある。

 なんでだ? なんで先生は俺達を襲う?

 馬鹿げてる、こんなの。

 俺が前を向いた時、目の前の煙が裂かれ、足が現れた。

 これ死ぬな。と思ったが、その足は思わぬ方向へ飛んでいく。 

「そこに居るのは誰だ!?」

「改空か!」

「おう!」

「俺は狼先生抑えてる」

 ゆっくりと立ち上がり、声の方へと近づく。

「狼先生! なんで俺達と戦うなんて!」

「まだ先生と呼んでくれるか」

「?」

「はぁ」

 煙が漏れながら話し続ける。

「先生失格だ……いや、元からか……」

「なんでっ! なんでですか」

「ちゃんとやらないと」

「グッ!」

 改空が弾き飛ばされ、後ろに居た俺も改空に巻き込まれ飛ばされる。俺は手から着地する。

 ……あまり使いたくないが、『切り札』を使うしかないか。何が起こるか分からないが……。

 俺は心の中で能力発動と念じてみる。

 頭に何かが当たった感触が来る。振り払うと、ヒラヒラと紙が落ちる。俺は床に落ちた紙を拾う。

 『LINE BLACK』、『AIRSPACE』……!

 これは門のカード!

 なるほど、正に切り札だな。カードは十二枚、全部ある。

 ゴム印をカードから取り出し、『俺に影響を与える』煙を無効化し、『透視』で全体を見渡す。黒衣の時と同じ様に地面を雪で埋め尽くす。地面に混ざった砂鉄でガラスを作る。『雷』で皆を回収し、『空間』に入れる、ついでに黒衣のカードを作った。これで邪魔は無い。

 心は決まった――先生を倒す。

「……行きますよ!」

 『黒子』を発動する。そして狼先生の背後に回る。ガラスを背中目掛けて振り下ろ……!

「ガッ! アア!」

 脇腹に左足がねじ込まれる。

「気流でバレバレですよ」

「そうですよね、よぉく考えればそうだ」

 左手で狼先生の足を掴み、左手で『合体』を発動、『ガラス』と『峰』で逆刃刀を創る。ガラスの刃、一発で壊れるだろう、だから一発で終わらせる。

「先生」

 両手に力が入る。

「ん」

「行きますよ」

 逆刃刀は『雷』を纏い、真っ直ぐ、逆刃刀を振り上げ、真っ直ぐ、振り下ろす。ガラスの逆刃刀は砕け散り、俺と狼先生に破片が突き刺さる。

 雪が鮮血に染まる。

「くっ」

 狼先生は俺の手を振り払い、スマートウォッチを操作する。何かある……思い付くは一つ――脱出。

「させるか!」

 『雪』のカードを地面に押し当てる。直で当てれば、雪が積もるのは早くなる!

 そして……!

「オラァ!!」

 狼先生の腕を掴み、電気を流す。

「チッ」

 弾かれ、地面に背中を強く打つ。

「はぁ……はぁ、退きますか」

 動けねえ、動こうとすると身体が軋む。

「待て、待って!」

「待たない。……それではテスト明けにまた」

 狼先生はいつもの口調で別れを告げる。

 ぼやけた視界にもう狼先生は居ない。

 クソ! 不完全燃焼だコノヤロー!

 全身が痛い、呼吸するだけでも筋肉が悲鳴を上げる。

 俺は残りの時間、呆然と天井を見つめて過ごした。

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