第六話 承認されぬ黒子

 テスト開始から15分経過。

 協力者は八人。

 俺達は今、くうの『空間』で作戦会議をしている。

 人数が増えたため、『空間』内は長方形に変わった。

「まずは二人の能力が聞きたい」

「亜生の能力は俺が説明しといた」

「ありがとうございます」

 改空あらたかが話題を提示する。

「了解〜、私の能力は『透視』で名前の通り、『透かして見る』。景色はレントゲン写真に色がついた感じ」

「私は『カード』、私が持ってる『カードに私以外の人の能力を写す』事が出来て、使い道は……今の所分からない」

「そうか」

「そろそろ、外見てくる」

「ああ」

「居なかったら、壁を壊して隣の部屋に行きましょうか」

「はーい」

 あずまが『空間』を出た。

 俺達の問題は壁だ。

 自動で開くとかではなく、壊さないと行けない。

 もし、雷が居なかったら、ずっとあの部屋に居ることになる。

「そういえば、ゆきすかしはどうやって壁を通ったんだ?」

「ええと、世風よかぜさんに掴まったら通れた」

 どういう能力だよ。

「或人、来なさい」

「なんだよ」

 俺は雷に手を掴まれながら『空間』を出た。

「お、今度は或人も一緒だ」

「ホントだ」

 聞き馴染のある声が聞こえる。

雄介ゆうすけ! はじめ!」

 良かった。

 俺は安心して、二人を見た。

 俺は二人が誰かを担いでいることに気付く。

 二人が肩で担いでいる人は――認承もろつぐだった。

「お前ら、何してんだよ!」

「こいつのことか、倒れてたんだ」

「そうだろうな、けど助ける人は選べよ」

「学級委員だぞ、こいつ」

「そうだけどよぉ。とりま、協力者になろうぜ」

「おう」

「会えて嬉しいのは分かるけど……」

「簡単な方のじゃないぞ、難しい方のだ!」

 俺は雷の台詞を遮り、訂正を求める。

「……逢えて嬉しいのは分かるけど、あんたを呼んだのはこっちの事よ」

 雷は壁に触れる。

 そして、気付いた。

「ガラス?」

 おかしい、前はコンクリートとかアスファルトに似た手触りと材質だった。

 しかし、目の前にある壁は光を反射して、白く見える。

「変わってるの、壁が」

「改空に見てもらおう、てか紹介も兼ねて、皆呼ぶか」

「それで」

 俺は『空間』に通ずるドアノブを捻り押す。

「全員、来い」

「「りょーかい」」

「ぞろぞろと、石でも持ち上げちまったか?」

「俺達がダンゴムシって言いたいのか?」

 俺は創を睨む。

「いやいや、パって思い浮かんで」

「良い比喩だ、許してやる」

 改空はそう言いながら、変わった壁の前に立つ。

「ガラスだな、この質感」

「壊すか?」

「この先、こうした張本人が居るのにか?」

「うーん」

「中に居るのは、女の子二人かな? いやもう一人居る」

 透がスラスラと話した。

「そうか、『透視』!」

「私に任せなさい!」

「じゃあ、壊すか。三人なら同調圧力で説き伏せようぜ」

「では、温度差で壊しましょうか」

「「採用」」

「そ、そのぉ」

 門が手を挙げ、申し訳無さそうに言う。

「どうした、門」

「試したいことがあって、やってみていいですか?」

「良いよ」

「失敗しても、別の方法がある」

「分かりました。魔見まみさん、前に渡したカードありますか?」

「あるよー」

 積雪つみきよはカードを門に渡す。

 ちらっと見えたカードには表面にSNOWと書いてあった。

 門はそのカードをガラスの壁に押し当てた。

「あ」

 積雪は何か思いついたようで、門の隣に立ち、銃を構えるような体勢で、言った。

「魔法カード発動! 『花が如く降る雪よスノー・フォールズ・ライク・ザ・フラワー』」

 その瞬間、ガラスの壁はさらに白い光を反射はなつ。

「凍ちゃった。すごいね、二人だと。一人よりもずっと、まるでセッ」

「それ以上言ったら、二度と女に持てないぞ」

 俺は積雪の口を塞ぎ、耳元で脅すように囁いた。

「妹にこれやると喜ぶから」

「中三の妹が? つかどっちだ!」

 セックスの方か、セックスの方なのか!?

「『花が如く降る雪よスノー・フォールズ・ライク・ザ・フラワー』」

 そいつは中二病なだけだ。

「それより早くやりなよ」

「ああ」

 俺は勢いよく凍ったガラスを殴る。

 すると、ガラスは綺麗に崩れていき、重力に従い落ちていく。

 ガラスが全て床に落ちた後、俺はガラスの先に焦点を当てる。

 そこに居たのは……。

「ゲッ」

「あ」

「ん」

「おー!」

 視界の真ん中で、はだけている勝動かとうとその勝動の肌を触っているうつし

 端で壁に寄りかかっている足峰あしみね

 状況とか関係なく会いたくない奴らに会ってしまった……。

「足元気をつけて」

 改空の注意を聞き、ガラスを踏まぬよう大股で部屋に入る。

「とりあえず、男の前で、特に、俺の前では止めろ、レズ野郎」

「ななな、なに言ってるんですか! このおみ足と顔、止める訳無いでしょう!」

「空、見るな」

 改空が本で空の視界を覆い隠す。

「「ありがとうございます!」」

 創と積雪が頭を下げる。

「うるせ、創・積雪バカ共」

「やっぱり、男はこういうのが好きなんでしょ……」

 雷はやれやれと額に手を当て溜息を吐く。

 目の前にこれを好むバカ共がいるので否定はしない。

 いや、まあ俺も漫画だったら好きだが、リアルは無理だ。

「このレイシスト」

「俺は興味が無いだけだ」

「TPOを弁えろ」

「ひどい……そう思いますよね、砂溶」

「……恥ずかしい……よ」

 砂溶は顔を赤らめながら言う。

 表情が出にくいから分かりにくいが、前にハプニングで砂溶のパンチラを目撃した時は一週間は口を聞いてくれなかった、うちのクラス1の乙女だと思う。

「すいませんッッッ! 罰はいくらでも!」

 写はすぐに飛び退き、土下座をする、地面にめり込まんと言う勢いで。

「あれ?」

「どうしました?」

「その……ゴム印が無くなって」

「なあ、足峰、その……」

 俺は足峰に声を掛ける。

 最近サッカー部サボってたから気まずい。

「……」

「切れてんのか?」

 俺は足峰に歩み寄る。

「……」

「悪いと思ってるよ、サボったの」

「止まれ。それ以上近づくな」

「ッ!」

 直後背後で殺意が音を立てた。

「駄目でしょ、アドリブは」

 背後からの声、黒衣くろごか!

 俺が振り返ると、黒衣の姿は見えない。

「どこ行った!」

「見てない」

「見えなかった」

 皆、首を横に振る。誰も見てないのか!?

 なるほど、これが能力……!

 亜生が作った『贋作』のゴム印があるから……そういやさっき亜生がゴム印が無いって、こっそり押したのか。

「足峰! 黒衣の能力はなんだ!」

「……言わん」

「今なら俺を殺そうとした事は許してやる」

「殺そうとはしてない、気絶させようとした」

「それでも、俺を、友達を騙した……罪は重いぜ」

「………………く」

 足峰が言おうとした所でピシッとガラスの壁のヒビが入る音がする。

「「!!」」

 全員の視線がその壁の方に移る。だが、また誰も居ない。

 そう思い、俺は足峰から続きを聞こうと顔を足峰の方に向けようとした時……視界の端の端で黒衣のすがたを捉える。

「くろッ」

 横腹に硬い靴の衝撃が襲いかかる。

「ゴッ!!」

 蹴飛ばされ、軌道上に居た雄介が俺を受け止めようとするが、勢いに圧され、弾かれ、ヒビが入ったガラスの壁を壊し、隣の部屋で俺の勢いは止まる。

「名前通り、バスケ部なんだから、手でやれよ」

「演劇部です」

「そういや、そうか」

 声のする方に俺は相槌を打つ。

「なんで、こんなことをする」

「なんでって、こういうもんでしょ、このテストは」

「はあ?」

「確かに協力点を稼げば合格点には達するよ、けどさ、もし今後もこのテストが続くなら、協力するよりも戦った方が効率的だ! 君たちは運が良かっただけで次は分からない! 協力できるか分からないなら、戦った方が良いじゃないか!」

「バカ野郎! 戦って失う、歴史でやっただろうがっ! 努力の方向間違えんな!」

「戦争の後に来るのは革命という名の再構築だ! 僕はここで再構築するんだ」

「テメエ! それができねえからこんな世の中になったんだろうが!」

「うるさいうるさい!」

「枝切!」

「足峰……」

「そいつに何言ったって無駄だ。そいつはもうイカれてんだ……能力も暴走してる」

「!」

 そうか。

 俺は恵まれてた、いつも通りの雷が居たから落ち着いた。

 冷静な改空で居たから、冷静になれた。

 黒衣、お前はもう一つの俺なんだ、恵まれなかった。

 だから、今は駄目でも次はお前を救う。

「……お前ら!」

 俺はガラスの壁側に居る、皆に声を掛ける。

「俺はこいつを気絶させる! 手伝ってくれ!」

「「分かった!!」」

 皆、ありがとう。

 心の中で感謝する。

「積雪、床を雪で埋めろ!」

「了解」

 雄介、改空、雷は三方向に分かれて走り出す。

 雪に出来る足跡で位置を特定する。取り押さえる。雷の能力で感電させる。

 この状況ならこれが最適だ。

「あああああ!」

「くっ」

 黒衣の拳を防ぐ。

「足峰ェ! も一度聞くぞ! 黒衣の! 能力はなんだ!」

 俺は黒衣の攻撃を防ぎながら、足峰に聞く。

「……『黒子』だ! 内容は、『視認出来なくなる』!」

「ちゃんと言えたじゃねえか」

 俺は感覚で黒衣の位置に右の裏拳を繰り出す。当たった感覚は無い。

 なら――ここだ!

 裏拳の勢いで半回転し、左でストレートを放つ。

「或人、これを使え」

 創が俺に渡したのはスタンガンだった、気絶させるなら雷でいい、少し細工があるのか?

「うおお!」

「当たり

ません

よ」

 改空は『改行』で攻撃を躱す。雄介がそこに蹴りを入れる。

 黒衣は雪の上に倒れる。

 かなり雪も積もってきた。

「つぅめたい! なあもう!」

 黒衣は立ち上がる。部屋の真ん中に足跡が出来る。

 俺達四人は互いに目で合図をし、一斉に黒衣と距離を詰める。

 そこに積雪が追い打ちで雪を降らし、黒衣の周りを深くする。

 雷の右手は光を帯び始める。

「ん?」

 その寝起きの声が雷の拳から光を消した。

 雷の拳は黒衣に止められる。

 雷の蹴りや拳が強かったのは『雷』による高速の一撃だったからだ。速いから勢いが乗って止められない。

 はっきりと言おう、雷は『雷』が無ければ、何も怖くない。

 じゃあ、なんで急に無くなったのか、すぐに気づいた。

「何をしている」

 そう、認承の能力『承認』だ。しかも気絶してたからか、リセットされている様だ。

「今なにをしている」

 つまり、こいつの所為で能力が使えなくなった。

 いや、黒衣は発動している、これは暴走しているからか?

 この時、俺はスタンガンの細工に気付く。

「真ん中に誰か居るのか? 写紙門」

「はい」

「あれは私に『影響を与える』か?」

「そうですそうです、危ないです」

 門は力強く頷く。

「では、『承認』みとめない」

 認承がそう言うと黒衣の姿が視界に移る。

「なにを!」

 黒衣は認承の方を向き、俺に背を向ける。

 俺は走り出した、距離は大体三歩半、雪は溶け始め音は出ない、当てるなら首、2秒以上当てる。

「ッ!」

 黒衣が気配で気付く、俺は雪を巻き上げ、視界を塞ぐ。

 休め、黒衣。

 俺は認承印のスタンガンを黒衣の首筋に当てる。

「疲れたー」

 俺は雪に背中から倒れる。

「そうだ、お前らも協力者になろうぜ」

「良いの? 私もあと写さんも弱いし、能力も使えないよ?」

「言い過ぎじゃ、けど今回役に立てなかったですし……」

「別に気にしてねぇよ」

「歓迎します」

「女性は居るだけで元気が出るしね」

「おい、認承、お前も」

「断る、俺は一人でなんとかする」

 認承は去っていく。

「つれねーな」

 これで、十二人か、で今18分。

 残り22分で30点入るから……これ戦わなくても合格じゃん。

「疲れてる所悪いが、皆に話さないといけない事がある」

「なんだよ」

 見下ろしてくる改空に俺はそう返す。

「教師点について」

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