最後の人類

藍埜佑(あいのたすく)

最後に残ったわたし(SFショートストーリー一話完結形式)

 いつものように起床し、コーヒーを淹れ、ニュースのヘッドラインをチェックする。変わらぬルーティーンだ。しかし、その日、何かがおかしいと感じた。 ニュースヘッドラインがない。インターネットの接続が切れている。テレビも画面には砂嵐が表示されるだけ。


 最初は、何か技術的な問題が発生したのだろうと思った。しかし、やがて現実が明らかになった。わたしは突然、世界に一人きりになったのだった。


 家の外に出てみると、通りには不気味なほど誰もいない。車も人も一台もいない。鳥のさえずりは、黙示録的な光景に気づかず、楽しげに聞こえてくる。


 閑静な住宅街を歩いていると、圧倒的な絶望と孤独に襲われた。かつては平凡で取るに足らないように思えた日常生活の細部が、突然、重大な意味を持つようになった。わたしは、自分が知っている人類の文明の終焉を目の当たりにしたのだ。


 わたしの心は疑問でいっぱいになった。ここで何が起こったのか? 全員が同時に滅びたのか?それとも、一人ずつゆっくりと消えていったのだろうか? いったい何が原因で? それともこれはただの悪夢、わたしが目覚めればきれいさっぱり消えるのか? ……わたしが本当に地球上の最後の人間なのだろうか? わたしは、この未曾有の事態の異常さと、その中での自分の無意味さに麻痺しているような気がした。


 数日間、絶望に打ちひしがれた後、わたしの生存本能が目覚めた。食料、水、身を守るための武器、そして長期的なシェルターを探す必要があった。わたしは、近くの家や店からできる限りのものを調達し、缶詰や小さな火で調理して生活した。


 そうしているうちに、環境が少しずつ良くなっていることに気がつきました。害虫が少なくなり、森が歩道を再生し、原野からさまざまな動物が現れるようになった。やがて、近くの庭に野生の鹿が目撃されているのを見かけるようになった。


 わたしは、知らず知らずのうちに再野生化する世界の管理人になったのだと実感した。


 しかし、それは慰めにはならない。孤独と悲しみに耐えられないこともあった。人類の残骸はまだ残っているのだろうか、自分は本当に人類の長い歴史の終わりに立っているのだろうかと、涙が止まらなくなることもあった。


 そうして何カ月も経ち、深い憂鬱な絶望が、徐々に鈍いだけの痛みへと変わっていった。わたしは孤独のありがたさを知ったが、それでもなお、仲間を欲していた。自分にも社会というものを取り戻すことができるのではないかと考えたが、それは無駄なことだと思いとどまった。


 ある日、シェルターの窓から外を眺めていると、驚くべき光景が目に飛び込んできた。誰もいない道を何気なく歩いている若い女性がいたのだ。彼女は人間だった。一瞬、わたしの心は喜びと希望で高鳴った。わたしは慌ててシェルターを出ると、彼女のもとへ駆け寄った。


「やあ、こんにちは! 会えてうれしいよ! きみはどこから来たの? おなかは空いてない? 良かったらわたしのシェル……」


 わたしは息を吞んだ。彼女がわたしの方に向き直り、その瞳を見たのだ。彼女は人間ではなかった。彼女はあきらかにだった。


THE END

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最後の人類 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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