令和式百物語

こなひじきβ

第1話 グループチャット

高校1年生の春、俺はクラスからハブられ気味だった。

学生はほんの些細なことでのけ者が生まれると聞いてはいた。

けれど、自分が対象になるとは思っていなかった。


クラスの連中から正面切って言われたのは、

「人の会話を勝手に盗み聞きするなよ」

「人のスマホの画面を勝手に見ないで」

というものだった。


あれだけ大声で話していたら嫌でも聞こえてくる。

その上内容が俺の悪口なのだから嫌な気分になっているのは俺の方だ。


そもそも校則でスマホの持ち込みは駄目なはずだ。

クラスでちゃんと校則を守っているのは俺だけという有り様である。

教室で堂々と触っているのが気になって見ていたのだから仕方がない。


正しいのは俺のはずなのに。

寧ろこんな奴等と馴れ合うなんて御免だ。

クラスが変わるまでは辛抱するしかないな、と希望を捨てて過ごしていた。



変わらず憂鬱な気分で過ごしていたある日、気になる情報を耳にした。

このクラスでグループチャットなるものが作られていたらしい。

・・・いつも俺の悪口を大声で言っている奴が、そう言っていたのである。

クラス全員が俺をハブにしている事が確定してしまった日だった。


俺からしてみれば、そんな嫌な連中と一緒になりたくなかったから別に関係ない。

そう思っていたのだが、とあるクラスメイトのスマホ画面が見えた時に疑問が浮かんだ。


グループ名は「1-B」とまあ普通だ。

それよりも、グループの人数が「クラスの人数と一致している」のだ。

「俺はグループに入っていないはず」なのに。


担任にグループチャットの事を聞いてみた。

先生はグループの存在を知らなかったようで、「後で俺もいれてもらおうかな、なんてな!」

などとほざいていた。

・・・俺がハブられている事は相談する気にならなかった。


もしかすると、別のクラスの奴だけど仲が良いやつも入れているのかもしれない。

ぶっちゃけそれ以上グループの事は考えたく無かった。



その日の夜、俺のスマホに着信があった。

いつも学校には持っていかないので、部屋で日中OFFにしているスマホの電源を入れる。

そこで初めて一日の着信を確認するのだ。


いつものようにあまり意味のない通知欄をスワイプでどかす。

スケジュール、スパムメール、通販セールのお知らせetc・・・・

そんな中で、一通の通知にふと指を止めた。


(ん?・・・チャットの通知?)


俺にチャットで連絡しあう様な相手はいない。

だからそもそもチャットのアプリをインストールすらしていないのだ。

なのに今日突然、例のアプリがいつのまにかインストールされていた。


恐る恐る開いてみると、所々文字化けしているのが見える。

加えて皆が使っているアプリより若干色彩が暗い様な気がする。


(しかもこれ・・・どうしてだ・・・?)


チャットリストには、忌々しい「1-B」のグループチャットがあった。

グループに招待されていないアカウントからは本来見えない仕様のはずだ。


・・・色々と怪しすぎる。

誰かの悪戯でグループに入れられていた?

俺はそもそもスマホを学校に持っていっていないし、アプリもいれていない。

俺の個人情報があいつらに知られるはずがない。


異常すぎる事態が起きているために俺は混乱していた。

これ以上触れるべきじゃないと頭では思っているのに、俺の指はグループチャットを開いた。

会話の内容は、本当に自然でごく普通なものだった。

俺抜きでここまで仲良く盛り上がっているのかと思うと苛立ちを覚える。


ポン・・・と画面の上部に一通の通知が来た。


アカウント名:[繝溘Η繝シ繝域耳螂ィ]

メッセージ:【僕ヲ 繝溘Η繝シ繝郁ァ」髯、 シテクレタラ

ミンナ 鮟吶i縺 テアゲル】


(な、なんだこれ?)


文字化けした名前に見覚えのない関係性のメッセージが届いた。

どうやらこのチャットアプリを通じて、俺個人宛に来たようだ。


(イタズラかな?通知消し・・・やべっ、返事しちまった!)


最近のチャットシステムには、いくつかの定型文が登録されている。

通知欄に2,3個の定型文が表示されていて、それをタップするだけで返信ができてしまうのだ。

俺はうっかり定型文の一つをタップして送信してしまった。


慌てて今送った相手とのチャット欄を確認する。

俺が送った文は・・・【繝溘Η繝シ繝郁ァ」髯、】?

どうやら定型文も文字化けしていたようだった。


送ってしまってから数分様子を見てみたが、その後チャットが動くことは無かった。

(何もない・・・ただのイタズラだったのか?)

軽く一息つくと、気が抜けたのか自室のベッドに寝転んでそのまま眠ってしまった。



そんな事があった次の日から、俺の憂鬱な日々は一変した。

あれだけ五月蝿くて鬱陶しかったクラスの連中全員が誰も一言も発さなくなったのだ。

全員が席に座ってうつむいたまま、顔に影を落として表情も見えなくなっていた。


俺が近づいても話しかけても微動だにしない。

いつも俺の悪口を言っていた奴は口は動いているが何も聞こえてこない。

授業が始まる前にも関わらず、スマホを取り出すやつもいなかった。


そんな状態のままチャイムが鳴り、俺は席につく。

入ってきた担任もクラスの連中と同じようにうつむいたまま教壇に立った。

そして口をパクパクと開くが、何も聞こえない。


(なんか・・・今日は平和だな・・・)


ふと、俺の鞄から振動音がなっていることに気づく。

スマホはいつも家に置いてくるはずなのだが、間違えて持ってきてしまったのだろうか。

鞄のチャックを開き、通知を確認する。


【コレデ 髱吶° 二 ナッタデショ】


そのメッセージを見た途端、俺は何故か安心感に包まれた。

自分に頼もしい味方がついたかのような安らぎを感じる。

俺は迷わず、通知欄に表示された定型文をタップした。



【繝溘Η繝シ繝域耳螂ィ ダネ】

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