下弦の月

月に魅了される事はこの事か

そう感じたのはつい2、3日前のことであった。

何十年ぶりにシャバの空気を吸ったがこんなに堕落的な匂いであっただろうか

「どうだ、久しぶりのシャバはよオ」

俺の後頭部に高級そうな銃を向けながらやつは言った。同僚が見ていない隙にただれた愛欲をという弱みを握っている俺を手にかけようと思っているのであろう。

月明かりが照らすそのざまは基督がみたらどんなものだろう

世界は終わっている、奇々怪々な誓いを合唱し基督に祈りを捧げている

そんな祈りを捧げても基督はこちらに慈悲は向けない、人間が犯罪者というならず者に向ける瞳で見下ろしている

そんなものにも気が付かないような人間共がしかいないシャバなんてどうでもいい

人生の幕を閉じるように瞳を閉じたその途端、けたたましい銃声が夜見に響き渡ると視覚の全てが赤黒く塗られた

「囚人番号5648、軍事利用させていただきます。」

赤黒く塗られた視界で向いた先にはかつての相棒が居た

幻覚を見せられているかのように美しいその姿に驚きを隠せない

「私はあなたのかつてのアイボウに似ているでしょうか」

大きな瞳で俺の顔を覗き込み問いたその顔は近くで見れば見るほど機械じみていて気分が悪くなる

「……お前は似てねぇよ。」

そう言ってチラリとアイボウの顔を見ると背筋が凍るほど冷たい瞳をしていた

「おかしいですね、そのようにカスタムしたのですが。

それとも5648の記憶の中にアイボウは居ないのでしょうか」

まぁどうでもいいので着いてきてください、と俺の手首に括っていた枷を力任せに引っ張り歩き始めた

着いたのは大きな倉庫のような場所だった

錆びれて埃っぽいそれに……いろんな意味でここには居たくないと思わせるほどの場所であり、こいつがここに俺を連れて来る意味が検討がつかない、いやあるか誰にも見られず、人間を屠るのであればこんなところが妥当である

「ハッ、俺を屠りてぇんならここじゃなくてもあそこで良かったじゃねェか!随分ご丁寧なようで。」

早く殺れと口に出そうとしたがアイボウに首枷を付けられるように締められた首から此の世の終わりを告げる音が脳内に鳴り響く

「貴方は口が減りませんね。あぁ、黙ってもらうために締めさせてもらっているので悪しからず。

これ以上貴方の首を絞めると貴方の命が終わってしまいますので手短に、貴方はこれからFBIの捜査官になってもらいます。

貴方のことは私がサポートさせていただきます、拒否権はございません。」

そこまで言い切るとこの機械は手を離したと同時に血と空気が同時に襲ってきた。

急激におそってきたそれに反応ができず倒れ込む。まるで空気を求める獣のようだった。

その後この言葉の通り、FBIとして人々を謎の生命体から護った。それこそならず者の犯罪者から女子供そして、大統領までも護ったが結局ならず者から生まれた俺は人なんて護れなかった、護る欲より狩る本能が勝ったからである。

謎の生命体の味方をした訳では無い、俺自身の欲を満たしただけだ睡眠以外の人間の三大欲求を全て満たした

「囚人番号5648……!」

そう呼ぶ機械のこめかみを何億もする最先端の武器でバラバラに砕いた

「俺は今は○○だ。その気持ち悪い名前で呼ぶな」

機能していない機械に向かって口角唾液を垂らしながらつぶやく、まさにそれは人間の所業ではない。

俺自身でもよくわかっている。

いつの間にか人と言う人が居なくなったその土地にひっそりと佇む廃墟に腰を掛け、溶けそうなほど見惚れる月に見下ろされながら肉を貪った。

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三十分 谷崎 めろる @melololo

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