21日目「看病してくれる人」

 同時刻 遠野家――


「はぁ……僕とした事が……げほっ、げほっ……」


 黒と白で揃ったシンプルな部屋のベッドで、僕は横になっていた。平日にも関わらずパジャマ姿にマスクをつけ、額には熱さまシートを貼り付けている今この状態――そう、僕は高熱で学校を欠席しているのだ。


「皆勤賞は潰えたな……」


 密かに狙っていた、唯一の皆勤賞の未来も潰え、一層ショックで身体が重く感じる。もう今はだるさで何もしたくない。


「はぁ……父さんも母さんもこんな時くらい帰ってきてほしいんだけどな」


 いくら仕事が忙しいとはいえ、自分の子供が熱出して倒れてるのだから、そこは仕事を休んで看病を優先してほしいものだ。


 まぁ両親は忙しいだけでなく、共に当直勤務がある仕事に就いてる以上、帰ってくるのが夜遅く或いは1日ずっと帰ってこない時なんて日常茶飯事だ。

無論、両親が共に家にいる日なんて1年間でも指で数えられる程しか無い。


 だからなのか、母さんはこういう時は毎回代わりに僕の看病をしてくれる人を頼んでいる。前にあった時は従姉弟いとこのお姉さんが来たり、母さんの職場の上司が来たりする事もあって、すごく気まずい思いをしながら看病を受けていた。


「また今回も代わりの人が来るんだろうな。ほんと、僕が体調崩さないようにしてた根端はこれにあるんだよな……」



 不意にスマホの画面を開くと、今回も母さんから『私の信用できる人に看病頼んでおいたからピンポン鳴ったら鍵空けてあげてね』と通知が来ている。僕はため息をつきながらその通知をタップして既読にし、適当にスタンプを送って画面を閉じる。


「はぁ、こんな事で赤の他人に迷惑かけたくないのに……熱移ったら洒落にならないからな。母さんもそこの所考えてほしいよ、ほんとに」



 横に置いてあるコップ一杯の水を少しずつ飲んでは横になって……それを繰り返して約1時間が経ったその時、家のインターホンが鳴る音が聞こえた。


「げほっ、来たか……さて、今回の母さんの犠牲者は……」


 ゆっくりと布団から起き上がる。高熱と倦怠感けんたいかんで身体が重くてふらふらするが、両手を壁につけながら体勢を維持しつつ歩き、何とかインターホンの前まで辿り着いた。


「はい……遠野、です……」


 苦しげに名乗った瞬間だった――


『あ、えっと……お、お母さんの代わりに……から看病しに来ました……!』

「はい……今開けます、から……」

『い、急がなくても、いいですからね……!』


 ……身体の辛さで全く意識していなかったが、今の声……とてつもなく聞き覚えがある。いや、まさかな。


 途端にぎった既視感を覚えながらゆっくりと玄関まで歩き、ドアの鍵を開ける。その先にいたのは――


「おはよう、突然ごめんね〜。君のお母さんから連絡来てさぁ……突然頼まれたものだから、慌てちゃって……この通り部屋着で来ちゃった」

「ど、どちら様……?」

「あ、私怖い人じゃないですよ! 私はその……君のお母さんの妹の長女、です! 君から見たら……親戚のお姉さんの一人、ですよ!」

「……ど、どうぞ中へ……」

(なっ……何ちゅう人に看病頼んでんだぁあああああ!!!!)


 僕の既視感は不発に終わり、同時に混乱した。現状の体調とあまりに複雑すぎる故に全く理解出来なかった。

 こんなのほぼ赤の他人と変わんないだろ……と、言いたい口を何とか我慢した僕であった。

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氷の僕と太陽の君 Siranui @Tiimo

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