アオハル・アイラブ
そーつんと初めて会った時は、地味な子だなって思った。
だって一言目で噛んじゃうし、ナヨってしてるし、たまに敬語使われるし。なんで同い年で同じクラスなのに敬語? ちょっと悲しかったもん。
でも、ガルバ知ってる子はあんまりいなかった。その頃はガルバも出始めたばかりで、知ってる子はそんなにいないし、ネットでもあんまり人気なかった。
「ねねっ、それガルバのウサンちゃん?」
あの時、後先考えずに話しかけたのは良かったって思う。友達からはよく、付き合う相手考えなよって言われるけど。
それでも、こんなに素敵な男の子に出会えたから。
「そーつん、好き」
口から出た言葉。特段、深い意味も思いものせていなかった。
でも、思わず出てしまった。それくらい、私は。
そーつんは、なにも言わなかった。困ったように笑って、でも耳まで真っ赤にして。
何事もなかったかのように、話を続けた。
だから、ずっと言い続けた。負けず嫌いとかじゃないと思う。ただ、伝わらないのは嫌だった。伝えられないのだけは嫌だった。
『俺も好きだよ』
ようやく言ってくれた。生まれて初めてこんなに嬉しい言葉。
こんなに好きになるなんて思ってなかった。
ガルバの話もそれ以外の話も、言って聞いて、どっちも楽しくて。
なんとも思ってなかった顔が好きになった。癖っ毛一つない髪も好きになった。少し細い腕が好きになった。笑った時の目尻が好きになった。
私、恋をしてたんだ。
「……毎日好きだよって。そういわないと辛くなっちゃうくらい好き。そーつんに好きって言ってもらえて、浮かれちゃうくらい好き」
その言葉が、どれくらいのものか。
隣に座る小さな女の子が、どんなに大きな思いを込めてくれたか。
どんな思いで、過ごしてきたのか。
「好きって言ってもらえたから、オーケーなのかなって思っちゃった。ごめんね、勝手なこと考えて……」
違う。謝る必要もない、なんなら謝らないといけないのは俺のほうだった。
スグの言葉に、たいした思いなんて籠っていない。きっと大袋に入ったアメ玉を、ひとつくれるくらいの軽いものだと。
「手を繋いだりキスとかしてみたいなって思ってた。でも、そーつんはそういうこと、したくないんだと思ってた。だからね、あの時の……間接キスはイチかバチかだったんだ」
きっと、たくさん我慢してきたはずだ。なのに俺を責めるでもなく、煽るように苦しむ顔をするだけでもなく。
ただ、寂しそうな顔をするだけだった。
「アレも嫌がられたら、そーつんは無理に私に付き合ってくれたんだって勘違いするところだった。最初から、勘違いしてたみたいだけど……」
お互いの勘違いで、お互いにすれ違って。
素直に受け止められない俺と、どこまでも真っ直ぐなスグ。
改めて思う、この子と付き合えたのは奇跡なんじゃないかって。
「今は、ちゃんとカレカノになれて嬉しい! ……なれたよね?」
「う、うん……ちゃんと彼女だよ、スグは」
「やったー!」
どさくさに紛れて、スグが抱きついてくる。甘い匂い、制服越しに伝わる柔らかな身体。
ドクンドクンと心臓が音を立てる。汗とか臭いは大丈夫かなんて不安にもなる。
「そーつん、キスして? もう誤解も解けたからいいでしょ?」
「ま、待って。心の準備を……」
「やだよー」
ファーストキスなのに、雰囲気も何もない。でも、そんな雰囲気なんていらないのかもしれない。
耳まで真っ赤にしているこの子がいてくれるなら、なんだっていい。
なんて、そんなことを考えるのはちょっと調子に乗ってるだろうか。
糸目彼女は本気で好きなのに 黒崎 @kitichan
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