*5話(ヒロウミSide)
教室内での恐喝は、はじめから見ていて、途中で生徒会長さんが来たので、どうやって解決するのか興味があって少しの間黙って見ていた。
「ねー、教室入らなくていいの?」
アヤトがつまらなさそうにスマホをいじりながら聞いてくる。
「ちょっとだけ気になる展開になったから、観察」
人と人の間から見える状況にワクワクしながら見ていると、
「ヒロが気になるって珍しいね!どんな展開なの?イナモリ、踏み台になって」
「はぁ!?ゼッテー嫌だ!」
通常通り、アヤトとイナモリが喧嘩を始めた瞬間、ドンッと大きな破壊音が聞こえた。
さすがに女が殴られたら、こっち側の生徒達の立場が無い。
人と人の間からではうまく状況が見えず、背伸びや横に大きく揺れてどうにか見ようと動いていると、ソーイチが
「今はまだ殴られては無いけど、論破するつもりなら生徒会長様が殴られちゃうかもね」
と、冷静に言った。
「それはちょっと、良く無い状況じゃね?」
アホなイナモリでも分かる状況に動かざる得なくなり、生徒会長様の言葉をさえぎって前に出た。
バカな男達は、俺らを見た途端に、強い味方が来た!と喜びの表情を見せて来たので、ムカついて生徒会長さんをぶん殴ろうとした奴にみぞおちに一発かました。
生徒会長さんは結構優しい人みたいで、恐喝されていた子とその友達も一緒に保健室に行かせたのを見ると、精神面のケアも大事にしていようだった。
こんな下品な奴らが多い俺たちの学校は、金持ち学校だった生徒達からすると邪険に扱いたい人間だろうな。
たった数人のせいで、同じ高校のまともな奴まで邪険に扱われるのは許せない。
だから、「見せしめで」と笑顔で言ったら、生徒会長さんにドン引きされた。
なんでだろう。まぁ、別にいいんだけど。
その日の放課後。
「なー今朝のあいつらどこにいるか知ってる?」
教室に、俺とソーイチ、アヤト、イナモリの4人になった時に今朝のことを話題に出した。
「いや、しらねぇ」
椅子に座ってるイナモリは、椅子の後ろの二本脚に重心を乗せてバランスを取っていて、それをアヤトが後ろからグンっと背もたれを引っ張った。
「うわ!やめろよ、アヤト!死ぬかと思ったわ!!」
「あははは!おもしろー」
アヤトはイナモリをいじるのが相当楽しいらしく、いたずら好きな子供のような笑い方をする。
こいつらがいるだけで、緊張感もクソも無いんだよなー。
「あの生徒会長さん、肝が座ってるね。チンピラみたいな男から暴力振るわれそうになってもビクともしてなかった。逆に男の方がビビってたね」
ソーイチは自分の耳たぶを触りながら、ぼーっとどこかを見つめて話だす。
ソーイチもミステリアスと言うか、無気力だからこいつ一緒にいるのもまた気が抜けるんだよなぁ。
「あの生徒会長って何者なんだろう」
気になってボソッと出た心の声は、「私が何者なのか気になりますか?」と本人の耳に聞こえてしまったらしい。
てか、いつの間に教室の中に入ってきたんだ?
「あれ?生徒会長の佐々木ヒカルちゃんだ。何してるの?」
教室に入ってきたヒカルに興味を持った様子のアヤトは近くに寄っていく。
「私はあなた達を探してました。今、少しだけ時間いいですか?」
「うん!いくらでもどうぞ」
ニコニコと笑顔でヒカルに返事をするアヤトは、昔から女の子にはいい顔をする癖がある。
最初はわざとやっているのかと思ったが、無意識にそうなっちゃうらしいから、男女での差があるのは仕方ないってイナモリが言ってたな。
「あなた達、別の高校に行くつもりはないですか?」
「え?」
予想もしていなかった質問にさすがのアヤトも少し険しい表情を見せる。
「今朝の事件の一連の流れ、あなた達のような異端者にはこの学園はふさわしくありません。他の生徒を不安や恐怖心で制圧させようとする行為が危険だとみなしたからです」
ヒロウミたちの意思を無視するように、つらつらと話し出すヒカル。
突然の話で、一体何を言っているのか理解するのに時間がかかった。
「生徒会長さん、あなたが理事長の孫なのは知ってる。でも、あなたにそんな権力があるんですか?人の人生を左右するような特別な権力が」
別の学校へ行けと言う提案に、いつも飄々としているソーイチも怒りをあらわにする。
「そ、そうだよ!そもそも、俺らはこの学園に来たくて来てるわけじゃねーし!学校の偉い人達が決めたことに巻き込まれただけなのに、それは酷くないか!?」
アホなイナモリもさすがに黙っていられないよう。
「頭が悪い、態度が悪い、行いが悪い。そう言うことは散々言われて来たけど、学校を追い出すような言いようは初めてだよ。何様のつもり?」
ニコニコしていたアヤトも、生徒会長を睨みつける始末。
普段は一緒にいて気が抜けるような奴らだけど、さすがに今回は相手に非がある。
ソーイチ達が殺気だっているので、俺は冷静でいられた。
「その提案に俺らが乗らなかったら?」
俺らに拒否権があるのか。まずは確認しなければ、お互いの思うことだけの話し合いで進まない。
「・・・ほとんどない。と、思っていただけると」
少し微笑んで話すヒカリに、違和感を覚える。
なんで何とも言えない表情をするんだ、この女。
悲しいような、嬉しいような、寂しいような、何とも言えない微笑み。
「俺は、この学園を卒業する気はある。だが、特別何か思入れがあるわけでもない」
「はい」
何とも言えない表情を作ったままヒカリは話を聞く。
「他の学校に行けって言うのは、そっちが金銭面、学力、その他諸々をサポートや考慮して手続きしてくれるのか?」
「もちろん。ですが、転入するための面接やテストは受けていただきます」
「じゃあ、入試をまた受けるってことか?」
「そう言うことですね」
「なら、断る。俺らがこの学校を出て行くのに、デメリットが大きすぎる。別に大事を起こさなければ、生徒会長様の面倒にもならないと思うけど」
俺の言葉にヒカルは「そう、ですね」と言って目線が床へと下がった。
3秒ほど黙ってから、ヒカリは
「わかりました。他の3人も同じ意見とみなしていいですか?」
と、問いかけて、3人は無言を貫いた。
「皆さんの気持ちは分かりました。気分を悪くするような提案をして、すみませんでした。失礼します」
あっさりと帰って行ったヒカリを睨みつけるように見ていた3人は、しばらく怒りが収まらなかった。
孤独なお嬢様と4人の異端児 くらやえみ @kuraya83
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