*4話(ヒカルSide)


始業式の翌日。

今朝も車で裏門から登校すると、職員室が騒がしかった。


「なんの騒ぎですか?」


職員室の出入り口付近にいた教員たちに話を聞くと、


「あ、佐々木さん!今、学生たちが教室内で暴れていまして・・・」


「誰が止めにいくべきか話あっていたのです」


「佐々木学園に長いこと勤めてきましたが、こんな暴力的なのは初めてです」


自分たちの身を守ることしか考えていない発言が飛び出てきた。


合併した学園の教師はほとんどが佐々木学園の教員たち。合併先の教員は、ほとんどがクビとなった。


「わかりました。私が行きます。先生たちはいつも通り授業の準備をしててください」


私がそう口にすると、教員たちは分かりやすく安堵の表情を見せた。


自分の身を犠牲にしてまで生徒を守る気もない教員は、いつか解雇した方が良さそう。


職員室を出て、騒ぎとなっている教室に向かう。


2年F組の教室まで来ると、そこにはたくさんのギャラリーたちが心配そうに教室の中を見ていた。


ギャラリーたちの間を「ごめんなさい。少し通してくれる」と言いながら教室へ入っていくと、男子生徒3人が一人の男子生徒を恐喝しているようだった。


「おい、お前金持ってんだろ」


「俺ら、財布を忘れてきちゃってよー。困ってるんだわ」


「気が短いからよ、早くしてくんないかな!」


恐喝している側の男子生徒が一人、教室内の机を蹴り飛ばして複数の机と椅子を巻き込みながら倒れていく音が教室に響く。


周りにいた生徒たちが皆、恐怖で動けなくなる。


「あなた達、何しているの」


さすがにこれ以上彼らに好き勝手されたら、窓ガラスが割れたり、被害者が出るかもしれない。それだけは避けたい。


人的被害が少ない今のうちに彼らをどうにか始末しないと。


教室の出入り口の扉付近に立って声をかけると、先ほど机を蹴り飛ばした男子生徒がこちらへ寄ってきた。


「お前、生徒会長様じゃん。理事長の孫ってんなら、金、持ってんだよな?あいつの代わりにお前が俺たちに金を恵んでくれよ」


不潔な容姿、品のない話し方、人を自分より上か下かで見ている視線。


こんな人間がよくも高校2年生まで進学できたね、話をするまでもない人間。


近寄ってきた男子生徒を黙って見ていると、彼は自分がバカにされていると思ったのか、

「黙ってんじゃねーよ!」と、暴言を吐きながら私の後ろにあった教室の扉をぶん殴った。


あーあ。痛そう。木でできた扉だとしても、素手で殴ったら自分の拳が痛いでしょうね。


「あなた、この教室の扉を弁償できるだけのお金は当然、持っていますよね?」


私の顔スレスレを殴った男子生徒は、私が怯むことなく立っている姿に驚いたのか、青ざめた表情で数歩下がって行った。


「もう一度、聞きます。あなた方は一体、何をしているのですか」


奥の方で、男子生徒に恐喝していた残り2人は黙って動かない。


何をしていたのか聞くだけ無駄か・・・。


「分かりました。あなた達の名前を」


「何事?邪魔なんだけど」


男子生徒4人の名前を確認しようと声をかけたら、後ろから別の男子生徒の声が

して、私の言葉をさえぎった。


「あ、ひ、ヒロウミさん!おはようございます!」


「「おはようございます!!」」


青ざめて黙っていた男子生徒達は、私の後ろにいる人物に気づいた瞬間に頭を下げた。


「何、これ。スッゲー人がいるんだけど。お前達のせい?」


後ろから現れた男子生徒は私の横を通って教室の中へ。


「あー!教室の中、スッゲー荒れてんじゃん!新品の机と椅子が傷ついちまう!」


「イナモリー、僕の机と椅子、直してー」


「あ、俺の席は無事みたい。よかった」


私の声をさえぎった人の後に続くように、3人が次々と教室の中へと入ってきた。


なに、この3人。緊張感とかそういうの感じないタイプなの?


3人の自由奔放なやり取りに呆気を取られていると、


「そうっす!俺ら、舐められたらいけねぇと思って、見せしめしてました!」


「俺ら、ヒロウミさん達の邪魔をするつもりはなくって、」


恐喝していた男子生徒達がヒロウミに対して説明をしている最中に、ヒロウミは近くにいた男子生徒1人のみぞおちに一発、膝蹴りを食らわせる。


痛みと苦しさで呼吸ができなくなった男子生徒は床でうずくまった。


「見せしめってなんだよ。お前みたいなバカがいるから、俺らの肩身が狭くなるんだよ。くだらねー事件を起こすんじゃねーよ、クソが」


ヒロウミの言葉で怯んだ男子生徒達は、走って教室から出て行った。


その姿を見た3人は、なんとも思っていないような態度で自由に過ごしていた。


「あらら。ヒロ、あれはやりすぎじゃない?」


黒板の近くの席に座ってスマホを見ている、アヤト。


「ちょっとかわいそうな気はするけど、これでしばらくは静かになるよ。きっと」


窓際の席に座って少し楽しそうに微笑んでいる、ソーイチ。


「あいつら、机と椅子ぐらい直していけよなー」


男子生徒が机を蹴り飛ばした際に、倒れた椅子や机を元に戻していく、カツモリ。


「・・・喧嘩しか自分の強さを見せられない奴には口より殴る方が効果的」


さっきまで鬼のような怖さで話していたヒロウミは一番後ろの席に座り、机に顔を伏せた。


廊下から教室内を見ていたギャラリー達と私は、彼らの自由奔放な態度に戸惑いを隠せない。


彼らから目線を逸らすと、教室の隅でうずくまっている生徒を見つけて彼の元へ駆け寄る。


さっき、恐喝されていた生徒だ。精神的に大丈夫かな・・・。


「大丈夫?立てる?」


男子生徒に手を差し伸べると、「ありがとうございます」と涙ながらに答えてくれた。


彼が立ち上がると、廊下にいた友達が駆け寄ってきて、「ごめんな」「大丈夫だったか?」と心配そうに彼に声をかけたので、


「お友達も一緒に保健室に行って休んできてください。先生方には私が事情を話しておきます」


そう伝えて、彼が少しでも安心できるように配慮して教室から送り出す。


さて、恐喝された本人も保健室に行ったことだし、この場をどうしよう。


合併した学校の権力者みたいな人物達か。本人達は、そんなこと意識してなさそうだけど。


机に顔を伏せているヒロウミの近くへ行き、「さっきはありがとうございました」と声をかける。


「ん?何が?」


ヒロウミは、伏せていた顔を上げて不思議そうな顔でこちらを見る。


「恐喝されていた男子生徒を助けてくれたことです。どういう形であれ、この場を最小限に抑えていただいたので。」


「・・・別に助けたつもりはないよ。ただ、バカが騒動を起こして他の生徒の肩身が狭くなったら困るから見せしめでやっただけ」


「見せしめで・・・」


「うん。見せしめで」


爽やかな笑顔でそう答えたヒロウミに、恐喝していた男子生徒達とほとんど思考が同じことに引きつり笑いで返すことしかできなかった。


「どういう経緯で学校が合併することになったか分からないけど、うちの学校の生徒は頭がおかしい奴が多いから、頑張ってね。生徒会長さん」


ヒロウミはそう言うと、また机に顔を伏せて寝始めた。


なんて言うか、ヒロウミの態度に拍子抜けした私は、心の中で少し嬉しくもあり、同時に切なくもなった。



教室の外にいたギャラリー達もヒロウミ達の態度を見て興味が失せたのか各自教室へ戻って行った。

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