*3話(ヒロウミSide)


始業式が始まる前の移動時間。


「ヒロ、こっちだよー」


栗毛のチビが大きくてを振って呼んでいる。


「悪い。裏門から入ったら迷子になった」


ハハっと笑って話すと、隣で「初日から裏門を使ったバカはもう一人いる」とヒョロヒョロ体型のタレ目がバカにした顔で声をかけてきた。


「な!?俺、裏門使ったけど遅刻してねーじゃん!ヒロと一緒にすんな!」


高校生とは思えないガタイの良い筋肉デブがデカイ声を出して反論。


それには、周りにいた生徒たちが迷惑そうな顔をしてこちらを見てきた。


「イナモリ、声大きすぎ!もう少し静かにしてよ」


栗毛のチビは、ガタイの良い筋肉デブの伊奈カツモリ(通称イナモリ)に対して、手に持っていた体育館シューズの入った袋でイナモリのケツをぶん殴った。


「そんなに荒ぶったら女の子ドン引きするよアヤト」


栗毛のチビで顔が女の子のように可愛らしい高橋アヤト(通称アヤト)は容姿は可愛いが腹黒く、男には当たりが強い。


「なんでいつもソーイチはそんなに余裕そうなんだよ!」


「そうかな?僕、アヤトみたいに女の子が全てじゃないから余裕があるのかも〜」


ヘラヘラ笑いながらアヤトをおちょくるのは、ヒョロヒョロ体型のタレ目で髪が鎖骨まであるロン毛が特徴の加藤ソウイチ(通称ソーイチ)。


ソーイチとアヤトは身長差が15センチもあるから、はたから見ると小型犬が必死に大型犬に吠えてるように見える。


移動しながら話しているうちに体育館についた。

体育館に入った瞬間、目を疑った。


「ここ、体育館ってよりもコンサートホールみたいだな」


イナモリが体育館に入って最初の一言目がそれで、いつもならそれをバカにして絡むアヤトだったが、さすがに目の前に広がる光景に言葉を失ったぽい。


俺たちが体育館だと思って移動していた先は、大ホールと言って市民ホールのように座席がずらっと並んでおり、目線の先には照明がバッチリ当たったステージが設置してある。


座席の前の方で指示を出している生徒がいて、「1年A組はこちら側へ!」「2年C組は後ろの方でーす」と大きな声で生徒を誘導していた。


「とりあえず、2年F組の方へ行こうか」


ソーイチの一言で呆然と立ち尽くしていたアヤトとイナモリと一緒に移動する。


佐々木学園って金持ちの学校だったのか。それは裏門から入ったら迷路なわけだ。


自分が今まで通っていた私立高校の感覚で登校してきたことが大きな間違いだったと気づいた。


指定された席に座り、始業式が始まった。


「えー。これから、皆さんは〜」


校長先生と理事長の話など退屈でしかない始業式。

開始15分でアヤトとイナモリは爆睡して、イナモリに関してはいびきがすごかった。


イナモリのいびきを止めようと体を動かしたタイミングで、隣に座っていたソーイチが小さな声で話しかけてきた。


「俺らと同じ2年に理事長の孫がいるらしいよ。SNSで回ってきた」


そう言ってスマホの画面を見せてくれたソーイチ。


「・・・だから、なんだよ」


「その女の子はとても頭が良くて、容姿も綺麗なんだって。多分だけど、今年の生徒会長はその子なんじゃないかって。そうなると、少し学校生活が厳しくなるかもって噂が出てる」


「ふーん・・・」


学園の理事長の孫ねぇ。


俺たちが元通っていた高校は、金さえ払えれば受かる私立の高校だった。

だから、校則はあるが無いに等しい状態だったし、変な輩が多いのが特徴。


「まぁ、今の所は髪型や髪色、制服の着こなしについては自由だから厳しい感じはしないけどね。・・・ヒロはこういう情報には興味ないか」


スマホを制服のポケットにしまいながらソーイチは前を向いて座り直した。


校長先生の長い長いお話が終わり、司会者が「続きまして、生徒会、会長のご挨拶です」と進行した。


噂の生徒会長様は、ステージに登壇するなり男たちをざわつかせた。


「すげー美人」


「あれが噂の理事長の孫で、生徒会長様かよ」


「人生、勝ち組じゃねーかよ」


各々思うことが口から出てホールの中が騒がしくなったことに対して、生徒会長様は「静粛に」と一言マイクに向かって放った。


一瞬で静まったホール内を確認した後、生徒会長は挨拶を始める。


「おはようございます。先ほど紹介されました生徒会、会長の佐々木ヒカルと申します。今年から佐々木学園は合併し、さらに大きな学園へと成長しました。今まで違った校則の中で生活してきた者同士が一緒に時間を過ごして行くとなると、ぶつかり合いも起こるでしょう。ですが、お互いの価値観やルールに耳を傾け、寄り添い合い、共に豊かな高校生活を送ることができると信じています。もし、高校生活を乱すものがいれば、厳しく対処してく所存ですので、ご協力よろしくお願いします。」


マイクの前から一歩下がり、一礼して降壇してく生徒会長の姿をみて、ソーイチと俺は


「気が強そうな生徒会長だね」


「多分、芯が強くて頑固でめんどくさいタイプだな」


と、お互いの生徒会長の第一印象を口にした。


今朝、裏門の駐車場から登校した女の姿を思い出し、横顔や雰囲気が生徒会長の横姿と一致したので、生徒会長の権力の強さは、きっと教員たちよりも強力なんだろうな。と、容易に想像できた。

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