*2話(ヒロウミSide)


 高校2年の春、新学級初日の朝。


PPPP

ケータイのアラームが朝の6時だと教えてくれる。


「うるさい・・・」


布団の中から手だけを出して、頭の上あたりにあるケータイを探して、アラームを止める。

ベッドの上に起き上がると少し肌寒くて身震い。


「あー、さっむ。半袖はまだ早かったか・・・」


4月の初めだというのに半袖で寝た自分に後悔しながら、床に落ちていたパーカーを拾い着替えて自室を出て、長く続いている縁側のような廊下を歩いていく。


俺の住んでいる家は古風な家で、平屋作りとなっていて、母屋があって別棟が廊下で繋がっている。


薄暗い屋根裏や敷地を囲うように塀があり、築何百年と経ってるのがわかる建物。


塀には大きな門があり、『浅野組』と書かれた表札みたいなものがかかってる。


自分の部屋からしばらく歩くと大きな和室の広間についた。

何畳あるのか分からないくらいの広間は、昔は人が座れなくなるぐらいの大人数で飯を食べていたんだとか。


「今日の朝ごはんは、卵焼きとサバの塩焼き、味噌汁でいいか」


大きな広間を超えて奥へと入って行くと台所があり、そこで朝ごはんの準備を始める。


俺は、浅田組にお世話になってる長谷ヒロウミ。

料理や洗濯、掃除は完璧にこなせる。


朝ごはんを用意していると、浅田組の幹部サエキさんがランニングから帰ってきた。


「今日はサバか。うまそうだな」


サエキさんは今年で42歳なんだけど、運動や栄養バランスをちゃんと考えた食事を心がけているからか、肌や髪の毛は綺麗で若々しい。素敵なおじさんだ。


コップに水を入れて渡すと「サンキュ」と言って広間の方へ出て行った。


作り終わった卵焼きとサバ、味噌汁をおぼんに乗せて広間へ行くと、中央にある一枚の木でできている大机の所に組長が定位置に座って新聞を読んでいた。


「組長、おはようございます」


「ヒロか。おはよう。今日の朝飯はなんだ?」


「今日は、卵焼きとサバ、味噌汁です」


組長は、器の大きな人で声を荒げたり、威圧的な態度は全くしない、優しくて頼りになる方だ。


おぼんで運んだ4人分の食事を大机の上に配膳していると、廊下からスーツを着た長谷ユウジさんが入ってきた。


「おはようございます。今日も美味しそうな朝ごはんをありがとう、ヒロ」


ユウジさんは組のお金の管理や組長の身の回りの世話をしている人で、いつも社長に付きっきり。


俺とユウジさんの苗字が同じ理由は、兄弟ではなくてユウジさんが育ての親だからだ。


毎日作っている朝ごはんに毎回感謝してくれる、そんな素敵な人に出会えて本当によかったと思う。


台所からご飯と飲み物、お箸を持ってきて配膳が終わると4人で大机を囲み座る。


「今日も感謝を込めて、いただきます」


「「「いただきます」」」


全員で手をあわせて組長に続き、食べ物に挨拶して食事が始まる。


はじめはこのルールが嫌で寝坊したり、ご飯いらない。とか言ってた時期があったな。今では普通になったけど。


「ヒロ、今日から学校だったか。通っていた高校は、佐々木学園と合併するのか?」


組長が箸を止めて聞いてきた。


「はい。今日から佐々木学園の生徒になるらしいっす。あいつらも一緒に」


ははは。と苦笑いしながら答えると組長は「そうか。楽しくやりなさい」と言って味噌汁の茶碗を口に近づけた。


その後は静かに朝食を済ませて、学校の支度をした。


「それじゃあ、行ってきまーす!」


ガレージにあった単車を門の外まで押し出してからエンジンをかけて学校へと向かった。



新しい学校の裏門。


生徒の人影もなく、先生たちの通勤車だけが置かれた駐車場。


校舎で死角になるところに単車を止めていると、一台の車が入ってきた。


誰だ?こんな裏門に車で登校してくるやつ。


校舎の影から降りてくる人物を見ていると、制服を着た、長い黒髪の女が出てきてすぐに校舎の中へと入って行った。


金持ちの娘かな。


なんてことを考えていたらチャイムが鳴り、慌てて自分も校舎の方へ走った。

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