終わりを愛する妹と、始まりを望む兄
スカイレイク
第1話
こうして、兄妹は末永く幸せに暮らしました。fin.
「fin.じゃねえよ!? 一行目から終わる物語があってたまるか!」
俺はまだ名前を与えられていない妹にそう怒鳴りつけた。
「小説の大家が一行の小説を作っているんですから初手がエピローグの物語があってもいいと思うのですよ。そもそも私たちに名前が与えられたら話が広がっちゃうじゃないですか。物語はすべからく終わるべきなのですよ」
「とりあえず人のスマホの電源を切って終わらせようとするな!」
俺は真っ白な空間に出現したスマホを妹から取り上げる。なんとかこのスマホから話を広げていく必要があるな。
「あー! お兄ちゃんのせいで完璧に無の空間にスマホが出ちゃったじゃないですか!
俺は話を続けるため、スマホをスリープから復帰させ、幸いにも設定をまだされていなかったパスコード画面をスキップして連絡先を開いた。
『話 続』
俺のプロフィール欄にはそう書かれていた。これは便宜的に『はなし つづく』と読むことにしよう。どんなにいい加減であっても名前は必要だ。古典的な言い方をすればバラをどう呼ぼうとかぐわしいことに変わりは無い、しかしバラが存在しなければどんな高貴な名前で呼ぼうが香りなどないのだ。
とりあえず俺と妹がいることは確定しているので電話帳を開き直す。
『話 結』
その名前が現在俺の隣にいる妹の名前なのだろう。便宜的に名前は『はなし ゆい』だとしておく。名前など些細な問題だがこういった
妹の名前がスマホに登録されていることが確定したことにより、赤いスマホが一つ、妹の手に収まった。
「まーたお兄ちゃんは散らかして……こういうのは片付けないとダメでしょう?」
そう言って結はスマホを俺たちが立っている空間の足元に叩きつけた。スマホはびくともせず地面で弾んだ。驚いた事にスマホが叩きつけられたということにより、叩きつけるための地面が必要になったので俺たちは床の上にいて、そのための床が出現した。
「また実体が増えた……収拾がつかなくなる前に終わらせたいのに……」
「大丈夫だよ、時間は有限なのだから無制限に話が広がったりしないって」
俺のその言葉に反応して床に時計が出現した。
「しょうがないですね……とりあえず私たちが真っ白な棒人間なのをなんとかしましょう。お兄ちゃん、かっこいいですよ、その顔の良さにはさしもの美少女の私も惚れてしまいそうです」
そうして俺たちに顔が出来た。見渡す限り真っ白だった空間に様々な物が出来つつあった。
「なんで二人とも顔を良くする必要があったんだ? まだ見せる相手もいないだろう?」
「そういう問題じゃねーんですよ……こういうのは顔が良くないと
「あんまりメタ的な発言をすると
「何を今さら……お兄ちゃんのがっしりした体にその学ランはナイスバディのブレザーを着た私が抱きつきたくなりますね」
結がそう言うと俺たちの棒人間だった体に実体が出来た。結の方は願望が反映されたのか少々胸が大きすぎるような気もする。とにかく現在スマホと時計がある空間に俺たちはいた。
「さて、次はどうしますか? トラックに突っ込ませて二人で異世界にでも行きますか?」
「異世界転生は専用カテゴリになるからなあ……」
「お兄ちゃんも大概メタっぽいことをいいますね。仕方ない、これを読んでください」
俺は結が懐から撮りだした封筒を受け取った。ラブレターのようだ。文字は日本語で書かれている。そこは
『お兄ちゃんのことが大好きです、もちろん男の人としてですよ? 勘違いしないでくださいね、これはれっきとした愛の告白なのですから』
「えっと……急展開過ぎて頭がついていかないんですがね?」
「お兄ちゃん、
「ああ、そうだったな。ええと……愛してるぞ、結」
「よっしゃああああああああああああああ、これにて完結! ハッピーエンドです」
「え? こんな思いつきの草稿を残すつもりなのか!?」
「安心してください、
断言する結……だったものは再び真っ白に染まっていった。目があるうちに俺の体も確認すると消えつつあった。そして空から巨大な何かが降ってきた。
『完』それが降ってきたと同時に俺の意識は……
終わりを愛する妹と、始まりを望む兄 スカイレイク @Clarkdale
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