個性豊かな5人組

第4話 説明不足と美女か野獣

 衣來いくる菰葉こもはに連れられて、とある工場に来ていた。

 怪物と戦うためのあれこれに関する施設——つまりヒーロー活動の本拠地なのだが、表面上は機械による医療品の大量生産工場になっているのだ。

 

「ねえ、ほんとにここであってるの?」

 

 工場は1階建てだし、休憩スペースは外に有るから、他の部屋や地下に繋がる階段のような場所も見当たらない。

 

「ん。ここだよ」

 

 指し示されたのは、他よりも少し大きな機械。

 だけの、普通の機械だった。

 

「どういうこと……?」

 

 からかわれているのだろうかと思うほど、何の変哲もないただの機械だ。

 一定間隔で光が点滅しているだけで、なんの役に立つ機械なのか、衣來には見当もつかないが。

 

「まぁ、見てろよ」

 

 くすくすと笑いながら、菰葉はカバンに付けているストラップを取り外し、機械の窪みに押し当てた。

 途端、機械は音を立てて変形し、人1人が通れるくらいの入口に変化する。

 中を覗くと、地下に繋がる緩やかな坂道があった。

 

「す……すごい!!」

 

 目を輝かせる衣來。

 工場に居る人達は慣れているのだろう。見向きもせず、自分達の作業をしている。

 

「ほら、行くぞ」

 

「うん!」

 

 通路の中から手を招く菰葉の後を負い、通路に飛び込む衣來。

 

「ストラップ、回収してくれる?」

 

「おっけー」

 

 窪みからストラップを外すと、機械はまた音を立てて形を変え、入口は塞がれた。

 

「これ出れるの?」

 

「出る時用の窪みが有る」

 

「へぇ凄い」

 

 特に意味の無い緩やかな会話をしながら、冗談を疑いたくなるほどに長い坂を降りて行く。

 いくつも角度の様々なカーブがあって、自分達の上に何があるのか、分からなくなる。

 

 10分強歩いてようやく、1つの扉が見えてきた。

 

「ここだよ」


「遠いね……」

 

「上からの襲撃に備えてるんだって」

 

「なるほど」

 

 菰葉が扉を開ける。

 軽い、簡易的な扉だ。音は丸聞こえだろう。

 

「よく来たな、この時に」

 

 艶のない銀髪と、長い前髪に半分近く隠されている生気のないオレンジの目、それから皺だらけの白衣と丸メガネ。見るからに不健康な痩せ型の男が、座り心地の良さそうな椅子に座っている。

 その男は椅子に座ったまま衣來いくる達を振り返り、あまり歓迎はしていなさそうな声で2人を出迎えた。

 

「何言ってるんですか。相砂あいざさんが忙しくない時なんて無いでしょう」

 

 相砂あいざと呼ばれた男は菰葉の言葉に舌打ちをして、元々見ていたモニターの方へ向き直る。

 

 大小様々なモニターが、椅子を囲むように半円形で置いてある。

 扉からそのスペースまでは、ちょっとしたマンションのエントランスくらいの広さと距離があって、モニターの横には階段がある。

 吹き抜けになっている階段の上には生活スペースと思しき空間があり、ベッドや机、ソファ置いてあるのだが、あまり手入れされていないのが見て分かる散らかり具合だ。

 

「だれ?」

 

 衣來がコソッと菰葉にささやくと、聞こえるような声で聞いたつもりは無いのに相砂が応えた。

 

御手洗 相砂みたらい あいざ。ここの責任者とか、司令塔とか、そんな役回りの……」

 

 言いかけて、相砂は言葉を止める。

 何かあったのかと衣來は身構えたが、相砂はぐでんと背もたれに体重を預け、逆さまに顔をこちらに向けた。

 前髪が重力に従って目の上から離れる。誰かに殴られでもしたんじゃないかと思ってしまうくらいの深い隈ができている。

 

「説明すんの? 俺が? 不眠不休で働かされてる俺が?」

 

衣來いくるを連れて来いって言ったのは相砂あいざさんじゃないですか……」

 

 つい、菰葉は大きなため息をついてしまった。

 

「大丈夫……? あの人」

 

「大丈夫じゃないけど、いっつもあんな感じだから」

 

「そっか……」

 

「もうここに居てもできることは無いし、戻ろう」

 

 菰葉が扉を開き、元きた道を歩いていく。

 衣來は相砂と菰葉を交互に見て、菰葉を追いかけた。

 

「変身アイテムとか、能力についてとか、色々説明しないとだから、帰ったら——」

 

「菰葉あぁあ! 色々忘れてたからちょっと戻ってこい! 衣來は帰れ!」

 

 相砂の大声が通路を渡って聞こえてくる。

 

「……ごめん、行ってくる。……から通してくれる、かな?」

 

「良いけど、どうしよう?」

 

 人1人が歩くのでギリギリの広さの通路だ。

 譲り合っても、すれ違うのは難しい。

 

 2人は、お互いに困った顔でしばし見つめあった。

 

 ——————————

 

「そういえば、相砂さんなんで俺の名前知ってたんだろ」

 

 なんとか工夫してすれ違った後、衣來は1人で長い通路を戻っていた。

 しばらく1人で歩いていると、通路の向かいから見覚えのない女が歩いてくるのが見えた。

 

「あっ……」

 

 声が重なる。

 道を譲るために衣來が壁に徹しようとした時、その女は衣來に駆け寄り、手を掴んだ。

 

衣來いくるさん、ですよね……!」

 

 衣來が最初に抱いた印象は、だ。

 下手なアイドルよりも……いや、テレビで見るどんな芸能人よりも可愛い。

 肌荒れひとつ無い白い肌と真っ赤な大きな目、まつ毛は長く、二重のラインもぱっちりと綺麗な幅を描いている。

 青いつやつやの髪を1本の三つ編みにまとめていて、毛先にかけてグラデーションにピンク色が入っている。

 

 その他、細部まで作り物よりも可愛らしい顔の女——少女と呼ぶべきだろうか——をしっかりと観察し、絶対に知り合いでは無いと確信した衣來いくるは口を開く。

 

「だれ……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月13日 12:02
2024年12月14日 12:02
2024年12月15日 12:02

正義のヒーロー始めました! 武器になるのは靴だけですが、親友と世界を救うために、変身して戦います! 空花 星潔-そらはな せいけつ- @soutomesizuku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画