24 急行
「え、朝まで電車がない?まだ十時なのに!」
ラルマーニの駅でセトカが叫んだ。
「そういわれましても、当ラインはクリーンな働き方改革を実施中でして。この時間まで残っているのも結構残業してるほうなんですよ。それに僕、今日は妻の誕生日なので早く家に戻らないとどやされます」
「友達が危篤で早く中央に戻らないといけないんです」
「そ、それは気の毒ですね。ええと、レンタサイクルなら夜でも利用可能ですよ」
「何キロあると思ってんですか!」
「やめよう、埒が明かない。とりあえず作戦を立てよう」
今にも胸倉につかみかかりそうなセトカを駅員から引きはがしてイオは言った。セトカから解放された駅員はすぐさま駅員の制帽を脱ぐとそそくさと帰っていった。
二人も駅舎から出ると、すぐに駅の電気が消えた。
くそ、こんなときにレンタカーがあればな、とイオは心の中で思った。
レンタサイクルの貸し出し場に行ってみたが、当然のように観光用の普通の自転車しかない。
そのとき、
「すみませーん、イオ様と、セトカ様ですか?」
向こうからなにやら黄緑色のおよそ自然光でない色に光る二輪の乗り物に乗った人物がこちらに近づいてきた。
「数学の塔の事務員のお姉さん……?」
まぶしさに目を細める二人の前で、お姉さんは乗り物から颯爽と降り立った。
「はい、申し遅れました。ただいま、数学の塔の事務員をやらせていただいている、ハイパー・事務のお姉さんと申します。お困りだと推察いたしましたので、お手伝いに参りました!」
「は、ハイパー」
「はい。縮めて事務のお姉さん、でかまいません」
「その乗り物は?」
「数学の塔で、明日処分される予定のサイクロイド製造マシンこと、サイクロイド・バイクです。本当はこれは発明品なので公道を走るのは犯罪なのですが、ご安心を。タイヤに極微反重力コーティングが施されているため、地面から一ミリ浮いています。なんなら波のない水面も問題なく走りますよ」
ドラ〇もんかよ。
「早く中央に戻りたいんですよね。こちらのバイクを差し上げます。これで中央にお戻りください」
「な、なんで私たちが乗り物が必要って……」
セトカが聞くが、お姉さんはにこっと上品に笑うと、二人をバイクにまたがらせる。
「私が、ただの事務のお姉さんではなく、ハイパー・事務のお姉さんだからですよ」
なんだかよくわからないが、とにかく渡りに船だ。
「ありがとうございます!」
イオはエンジンをふかす。見た目は電動自転車とそう変わらないが、真円のタイヤの一部に光源がついていて、走っている姿を傍から見ると、光の通った軌跡がサイクロイドに見えるという装置だ。
「よし、これで、バイク一台分の処分費が節約できましたね」
サイクロイドを眺めながらお姉さんはそうつぶやいた。
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