23 ツガル
ツガルは一年と少しの間暮らした学園の寮の自室をぐるりと見渡した。奥の壁の一面にはたくさんの現像した写真が張り付けてある。そのほぼすべてにセトカが写っている。
「結局、取り戻せなかったなあ」
写真を見ながらツガルは一人つぶやいた。
壁から離れ、クローゼットを開ける。クローゼットに詰め込まれていた大量の古いアルバムがあふれ出して床に散らばる。
ツガルが初めてカメラを手にしたのは十年ほど前だった。
アルバムを開く。十年前、空、川、空気、七年前、町、建物、夜、四年前、家、家族、他人、二年前、他人、ヒト、ヒト、現在、ヒト。
稚拙さ、幼さのある、でもきちんと美しい、一冊目のアルバムがツガルのお気に入りだった。昔も、今も、どこかずっとこの写真を私は目標にしている。技巧だけがだらしなくついていき、いつか、自分の写真が好きでなくなってしまっていることに気付いた。
ツガルは糸が切れるかのようにアルバムを足元に落とす。
セトカに興味を持ったのはきっと、自分と同じだと思ったからだ。好きでもないものに生きている。好きじゃないくせに、それしかない。いっそやめてしまいたいが、それもできない。そういう感じを受けたから。
「でも、違った」
胸のポケットの中からマッチ箱を取り出す。
彼女があらわれて、そしていなくなって初めてはっきりとわかる。私は、
私が欲しかったものは、いつの日か、美しい一枚ではなく、同類……仲間に変わっていた。
マッチの先の炎が床に落ちていく。
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