【終わり良ければ全て良し!】ヒトの経験の感じ方 ※恋愛にも使える!

エテルナ(旧おむすびころりん丸)

【終わり良ければ全て良し!】ヒトの経験の感じ方 ※恋愛にも使える!

1:1分間の苦痛を味わう

2:1分30秒間の苦痛を味わう


どちらか選ばなければならないとしたら、さあ、あなたはどっちを選ぶ!?


……考えるまでもないですよね?

マゾヒズムでない限り、恐らく皆さん1番を選ぶかと思います。

理性で考えれば当然の結果です。わざわざ30秒多く、苦痛を味わう必要などないですから。


しかし、とある実験をした際に、多くの人間が2番の方がマシだと考えました。


・①14°の水温(手に痛みを感じるか感じないかの境目)の水に1分間手を浸す

・②14°の水に1分30秒手を浸すが、1分目で被験者に気付かれぬよう温水を足し、残りの30秒は15°の水に手を浸している。

・①・②のケースを順不同で被験者に試す。

・再びもう一度、どちらか一方を試すように尋ねる。

・およそ8割の被験者が②を選んだ。


①も②も、14°の水に1分間手を入れることに変わりはありません。

②は僅かに温度は上がったものの、それほど大差ない苦しみを余計に30秒味わわなければなりません。

全体の苦しみでいえば②の方が大きいはずなのに、なぜ被験者は再チャレンジの際に②を選んだのでしょうか?


答えはとても単純で、②の方が辛い経験ではなかったからです。

最後の30秒の苦しみが、前の1分間よりマシだということを覚えていたからです。

もう少し分かり易く説明しましょう。


14°の水に手を入れる苦しみが10とします。①はずっと14°ですので、苦しみは終始10を維持します。

一方②も、はじめ1分間は14°ですので、苦しみの最大値は10です。

しかし後半30秒、僅かに水温が上げられます。この時の苦しみを8としましょう。被験者の感じる苦しみは、①については当然10です。

しかし②については、10と8の中間、9となってしまうのです。つまり――


(MAXの苦しみ+最後の苦しみ)÷2=苦しみの経験


ということになるのです。

驚くことに、この苦しみの経験に、体験時間は考慮されません。

長かろうが短かろうが、最大の苦しみと最後の苦しみだけが、経験として脳に認識されるのです。ゆえに被験者は、経験上苦しみの少ない②を選んでしまったのです。


他の例を挙げてみましょう。二本の虫歯治療を行う際、治療に強い痛み(苦しみ度50)を伴う方を先に治療し、その後に弱い痛み(苦しみ度30)を伴う方を治療します。

(MAXの苦しみ+最後の苦しみ)÷2=苦しみの経験なので――

(50+30)÷2=40苦しみ度です。


順序を逆にした場合。

(50+50)÷2=50苦しみ度です。MAXの苦しみと最後の苦しみが同じなので、弱い痛みの30が式に現れません。


本来はどちらも、50の痛みと30の痛みを経験したはずなのに、経験としての苦しみには差が出てしまうのです。

更に、この治療の最後に頑張った賞として、ご褒美(苦しみ度-10)を与えます。するとご褒美を貰えるまでが治療の経験として記憶され――

{50+(-10)}÷2=20苦しみ度です。


なんと、経験上はそれほど苦しくないことになってしまいました。50の苦しみと30の苦しみを味わったにも関わらず!


実はこの仕組み、私たちの生活にも強く根付いているもので、例えば子供を産むことは、妊娠から出産までに大きな苦痛を伴います。

特に出産時の苦しみは、人生で感じ得る痛みランキングの中でも指折りの激痛に位置します。

しかし産後はホルモンの影響により痛みが和らぎ、更には多幸感をも与えてくれます。また、我が子に出会えた喜びも一入で、おまけに皆が出産を祝福してくれます。


妊娠から出産の苦しみを100としましょう。しかし、後の幸福は200に至ります。つまり――


{100+(-200)}÷2=-50


という式となり、幸福が苦しみを勝り、出産は良い経験だと認識します。

確かに出産は大変だった、しかしそれに勝る喜びがあり、ゆえにまた子を産みたい! そう思うようになるのです。


――と、実はここまでは、ユヴァル・ノア・ハラリ著のホモデウスの受け売りです。

上記の内容に疑いのある方もいるでしょうが、諸々の根拠もあるのでご安心ください。

その上で、この仕組みはかなり応用が利くだろうと思った次第なので、以下に内容を綴っていきます。


【恋愛での応用】


実は恋愛において、似た内容の心理効果があります。

ゲインロス効果というもので、相手を褒めた後に貶すより、貶した後に褒めた方が良い印象を持つという効果です。

ご存知の方は既に、日常会話やデートなどで使われていることでしょう。

しかしこれを局所でなく、全体の経験として置き換えてください。デート中の会話の一部としてだけではなく、デートという経験そのもので、最大の幸せをクライマックスに配置するのです。


最高の夜景を見るのも良いでしょう。プレゼントを最後に取っておくのも良いでしょう。

しかし気を付けるべきことは、別れ際までに一通りのイベントを終えてしまい、最後がグダグダになってしまうことです。

前項で紹介した式、(MAXの苦しみ+最後の苦しみ)÷2=苦しみの経験

これの苦しみを幸せと置き換えて、MAXの幸せと最後の幸せを、出来得る限り近似値を取るようにするのです。


どのような幸せを最後に持って来るかはおまかせしますが、以下に注意するべき点を書いていきます。


・帰りたがっているのに呼び留める。

 →デート中の最大の幸福を、最後の苦しみがマイナスしてしまいます。デートの途中に起きるマイナスと違い、最後のマイナスはデート全体の評価の下落に繋がります。

一緒にいたい気持ちは分かりますが、最後の印象を悪くすることは控えた方が良いでしょう。


・性行為で最期を締めくくる。

 →女性の場合。男性は行為後に、いわゆる賢者タイムに入ります。女性と異なりピロートークを嫌う男性も多いです。しかし彼女の手前、彼氏は嫌な顔を露骨に見せたりはしません。気にせずそのままお流れとなると、性の快感という幸福の締め括りではなく、ピロートークの面倒臭さが『最後の苦しみ』に当たります。

性行為後に即解散、というのは無しにしろ、その後の別れ際までに、何かしら男性のモチベーションを上げる策を用意すると良いでしょう。

 →男性の場合。上記の通り、女性はピロートークを好みます。ここを疎かにして態度に出ると、性の快感という幸福の締め括りではなく、ピロートークの乱雑さが『最後の苦しみ』に当たります。

ここをしっかりこなすか否かで、彼女のデートの評価は天にも地にもなりえます。


そんなの当たり前じゃん、そう思うかもしれませんが、注意してください。

大事なのは筆者が挙げた例でなく、何が何でも最後を良くしろ! ということです。

ピロートークをうまくこなしたからといって、その後に何か下手をこいたら全てが台無しだということです。


【仕事での応用】


仕事の場合も恋愛のケースとほぼ同様です。違いはデートと違い、仕事は基本的に苦しみの側にあることです。

仕事でのミス、上司の説教、客のクレームなど、仕事の苦しみは多岐に渡ります。

しかし上記の例は、ミスの常習でない限りはイレギュラーであり、およそ基本的な仕事の苦しみはというと、それは時間を経るごとに伴う疲れです。

つまり仕事の最大の苦しみは、必ず最後に訪れるということです。


仕事を辛く感じるのは、強制力だったり世間のステレオタイプだったり、様々な要因がありますが、この『苦しみが毎度最後に訪れる』という点も見逃せません。


ゲインロス効果を使い、部下を叱咤し褒めるのも良いでしょう。課題を与え、やりがいを与えるのも良いでしょう。

しかし必ず忘れてはならない点、それが一日の最後、疲れた部下をめいっぱい労うということです。

「お疲れさーん」程度で済ますのではなく、その日の最大の賛辞を最後に一言贈りましょう。


そうすることで、(MAXの苦しみ+最後の苦しみ)÷2=苦しみの経験、という式の、最後の苦しみの部分を緩和し、その日一日の仕事の経験を良いもの、若しくはマシなものだと脳に認識させることができます。

まったく同じことを途中に言うか最後に言うかで、部下の印象はまるっと変わってしまうのです。

つまり最後にお叱りを持っていくと……分かりますね? 一日の全てが台無しですから厳禁です。


いかがでしたか?

人間の経験は思いのほか単純で、終わり良ければ全て良し、ということです。

いかに練られた作品も、ラストがひどいと駄作の烙印を押されます。

逆に途中が多少グダっても、終わりが良ければ良作の認定をもらえます。

世の中は、というより人間は、そういう風にできているのです。


細かなテクニックを随所随所で使うのも良いですが、経験自体を俯瞰的に、一つの塊として見ることで、また違ったアプローチができるようになるでしょう。

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