第5話 またここから

 次の日、私はまた愛心の体にハーネスをつける。青色のハーネスはベランダで揺られているため、緑色だ。この色も愛心が好きだと言う色だ。

「いっくぞー!」

 元気に外に出る愛心を追いかける。しっかり手は握っている。

 外はやはり暑い。愛心の水分を入れたかばんを肩にかけなおす。

 今日も今日とて愛心の好奇心のままに寄り道をしながら歩いていると、前方から犬を連れた男性が歩いてきた。

「あっ! ヌルちゃん!」

 愛心は走りだし、ヌルちゃんというポメラニアンの前にしゃがむ。ポメラニアンも愛心の姿を見るとしっぽを全力で振り、興奮したように前後左右に跳ねだした。時々散歩の時間が被ると、こうして愛心の相手をしてもらっている。

 普段の光景のはずなのに、首輪から伸びるリードと、ハーネスから伸びる紐が重なってしまう。

「いつも思っていたんだけどさ」

 愛心とポメラニアンがじゃれあっているのを眺めながら、飼い主の男性が話しかけてくる。

「ハーネス珍しいね」

 悪意も敵意も感じられない声だった。しかし私の心には重く響く。

「そ……うですよね。あの」

「愛されてるんだなって、見ていてほっこりするよ」

 私が続けようとした言葉は、男性によって遮られた。耳に入ったその声に、目を見張る。

「ありがとうございます」

 自然と礼が口からこぼれ落ちた。まだ驚きが覚めない表情をしているのだろう。それでも礼だけは飛び出した私を見て、男性は何もかも知っているような顔をした。

「しっかり守ってあげなね」

 そう言い残すと散歩に戻っていく。

「ばいばーい!」

 愛心が楽しそうに手を振る。

 他人は他人。誰がどこを見て、どう思うかなど、誰にもわからない。強制もできない。

 だから割り切れず、悩んで、方法を模索する。それはハーネスをつけるか否かの問題だけじゃない。常に愛心のためを思って考えているなら、私のように堂々巡りするのも悪くないのかもしれない。もちろん必要な対話を怠らないうえで。

「ヌルちゃん、かわいいねぇ」

「うん。本当に、そうだね」

 妙に熱が入ってしまったが、愛心は気づいたろうか。気づいていたら少し恥ずかしいような気もしたが、私の胸の内は温かなもので満たされていた。今はそれで十分だ。

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ヒトとドウブツ 燦々東里 @iriacvc64

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