しあわせのかたち

kanaria

しあわせのかたち

 清潔感のある、けど生活感のない部屋。冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、食器棚、ベッド。この部屋にあるのは必要なものだけ無駄がない。そして柔軟剤の香り。たぶん癖になっている。私はとりこまれたんだ淀みがなく綺麗なこの場所に。この部屋の主である彼はいかにもと言った風だった。白い肌に少し目にかかる髪、ダウナーな感じで掴みどころがない。プライベートはまるで想像がつかないし彼女はいないみたいだけど他にも関係がある人がいるかもしれない。そういうところが見えてこない、だから気になってしまう。一緒にいればたぶん碌なことにならない。でも誰かの隣にいたい。私はつくづく救えない。

「はなちゃん。電気消すよ」

「うん、ありがとう」

今日も同じベッドに入る。けど、彼は何もしない。ただ一緒に寝るだけ。何もしない。なんでって思う。正直。私に魅力がないのか他にもそういう人がいるから間に合っているのか。考えればキリがない。だから正直に聞いてみたことがある。どうして何もしないのか。彼の答えは拍子抜けだった。

『俺あんまりそういうの好きじゃないって言うか。うぅ、欲がない訳でもないんだけど。たちはするからしたいなら、お好きにどうぞ』

これじゃあ私がしたいみたいだ。こう言っておいてやるだけやって、そのままだらだらと関係を続けるのが落ちだと思っていた。

『でも、人肌が恋しいのはほんと。たまに誰かと、誰かに縋りたくなる時はあるよ』

その日から私は今まで3ヶ月週に一回彼の家か私の家で夜を共にしている。俗にいうソフレというやつだ。とは言っても私たちも人間だこれまでに2回、体を委ねたことはあるお互いに。初めての月に一回そして次の月に一回。それ以降は同じように眠るだけ。彼は恋人をつくるつもりはないそうだ。私は彼と付き合いたい。公に彼氏彼女として出掛けて幸せを味わいたい。私だけの我儘を存分に味わいたい。そう、それを望んでいるのは私だけだ。


 「抱いてください」

その夜私は、私を好きな人と寝そうになった。私を好きな人が愛情を余さずこちらに向けてくれることを満たされていると感じた。幸せだと感じた。その裏には彼の顔があった。そうなっても良いんだよと笑う顔が脳裏を掠めた。私は逃げ出した。この人に抱かれてもたぶん彼は笑う。笑って私を受け入れる。それが怖くなって逃げ出した。

「、おいで」

何も聞かれなかった。聞いてくれなかった。こういうところが狡い。私たちは3ヶ月目、3度目の夜を過ごした。優しく撫でて私をここに留めてくれた。いつも優しい彼はいつも以上に優しく扱ってくれた。

「なんで理由聞かないの」

「聞く必要ある?それ。言わなくてもいいよ。聞かないから」

「好きです」

何も考えていなかった。ただ純粋に出た言葉。裏も表もない。赤子のように純粋な無垢な気持ち。返される言葉はなんでも良い私のことを考えて出してくれる答えに優劣はつけられない。

「いいよ。付き合おう」

「、、、」

どれだけ続くかは分からない。知りたくない。だからずっと、ずっとこの時間が続けばいいと思う。私はつくづく救えない。

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