第2話 プロローグ side レベッカ
守りたかった、私を大切にしてくれるマスターの全ての望みを叶え、全ての危険から守ってあげたかった。
あの時、私はマスターの望みを叶えられなかった。
私がもう少し速く走っていれば、マスターの意思をもっと素早く感じ取れていれば、あの女性を救った後に看板の直撃など受けずに駆け抜けられていたはずだ。
だから願った、マスターの全ての望みを叶える力を……マスターに仇なす全ての敵を排除する力を……真摯に、ただひたすら真摯に。
『忠義なる者よ、そなたの願いを叶えようぞ』
『ありがとうございます』
真っ白な靄に包まれた空間で、私は巨大な存在から力の一端を受け取った。
それにより、これまで朧げであった意識が明瞭となり、より強くマスターの存在を感じ取れるようになった。
あぁ、私のマスター……毎日私を慈しんで下さったマスター……今度こそお守りいたします。
「レ、レベッカなのか?」
『はい、マスター、ご命令を!』
「おぉぉぉ……レベッカ……レベッカ……」
『はい、マスター、私はここにいます』
「ごめんね、レベッカ、あの時、僕のわがままでお前を壊してしまって」
『いいえ、マスター、謝るのは私の方です。私がもっと速く走れていれば、マスターをお守りできたのです』
「違うよ、レベッカ、あれは僕の判断ミスだ」
『いいえ、マスター、あれは私の力不足です。でも、もうマスターを失望させたりしません。このレベッカがマスターの全ての望みを叶えてみせます』
私は自信を持って宣言しましたが、マスターは黙ってしまいました。
ですが、それは仕方のないことなのでしょう。
これまでの私は、マスターの手によって育てられ、成長を続けてきました。
その私が、マスターの全ての望みを叶えてみせるなんて、おこがましいと言われても仕方がありません。
マスターは、私がどれほどの力を手にしたのかご存じないのですから。
『マスター、ご命令を!』
「あ、あぁ、とりあえず、彼女の後について……あれっ、スティックが?」
これまでマスターが操作を行っていたスティックは、半球状の精神感応デバイスへと置き換わっています。
『マスター、半球状のデバイスに触れてご命令を念じて下さい』
「こ、こうか……?」
『はぅん!』
「レベッカ?」
私としたことが、マスターの心に触れて思わずはしたない声を漏らしてしまいました。
『し、失礼しました。私も新しいデバイスの運用は初めてなので、戸惑ってしまいましたが、もう大丈夫です。マスター、ご命令を』
「分かった、彼女の後に続いて進んでくれ」
『ふぐぅ……了解しました』
マスターの想像するよりも滑らかに車輪を回して、現地人の女の後を追います。
私が動き出した途端、デバイスからマスターの愛情が伝わってきて、思わず昇天してしまいそうでした。
「レベッカは、どうして急に話せるようになったの?」
『ここに来る途中、力ある存在と遭遇いたしました』
私が力を手にした経緯を話すと、デバイスからはマスターが羨む感情が流れ込んできました。
本当に、私ではなくマスターが力を手にされていれば良かったのに……。
でも、マスターが私を羨んでいたのは一瞬で、その後には私と言葉を交わせるようになった喜びがヒシヒシと伝わってきました。
あぁ、もし私に尻尾が生えていたら、千切れるほどに振り回していることでしょう。
「レベッカが手に入れた力って、会話機能の他には何があるの?」
『私の能力は防御魔法と攻撃魔法、それと学習機能です』
「それって、経験を重ねれば重ねるほど高度な処理が可能になるってことだよね」
『おっしゃる通りです、私は私を高めるために、この世界について学ばねばなりません』
「じゃあ、僕とレベッカで冒険をしないといけないのかな?」
あぁ、素晴らしい……デバイスを通して、マスターが冒険に心躍らせる様子が伝わってきます。
不自由になった体を私の性能を上げることで補い、世の荒波を乗り越えようとしていたマスターの夢が叶う時が来たのです。
「あの、勇者様、この先は……」
「あぁ、階段か……エレベーターは無いよな」
「エレ……ベタとは?」
「いいや、こっちの話。悪いけど運んでもらうしか……」
『いいえ、マスター、その必要はございません』
「レベッカ?」
『はい、このレベッカにお任せ下さい。その代り、私と共に階段を駆け上がるイメージを下さい』
前の世界でマスターは、目的地までの私と共に移動できるルートを検索してくれていましたが、これからは私が全ての些事を踏み越えてみせましょう。
「イメージ……このデバイスを通して送ればいいんだね」
マスターが目を閉じて意識を集中すると、私の中に明確なイメージが飛び込んできました。
『シートベルト展開……マスターの身体固定を確認、空間魔法を展開……マスター、ご命令を!』
「ゴー! レベッカ!」
『フライング・パッセージ!』
ギュルルっと空転した車輪がグリップを取り戻し、マスターを乗せて一気に加速し、階段の手前で空間魔法によって構築したスロープに乗って一気に駆け上がる。
「おぉぉぉぉ……すっげぇ!」
スロープを駆け抜けてジャンプした私は、華麗にドリフトを決めて廊下へ着地しました。
全てはマスターが思い描いたイメージ通りのはずです。
『いかがですか、マスター』
「レベッカ……最高の最高の最高だ!」
『ありがとうございます、マスター』
私の名はレベッカ、マスターの忠実なる僕にして守護者。
マスターに降りかかる火の粉は、全て私が排除します。
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