第6話 初恋つむぎ
美優と壮太が再開した翌日から、二人は学校のビオトープのベンチで毎日一緒にお昼を食べるようになり、お互いの他愛もない日常の話などをして過ごした。何しろ壮太は中学3年生で、あと半年もすれば卒業なのだから、美優にとっては、毎日会っても時間が足りなく思える。ランチタイムは壮太にとっても楽しみな時間だった。
「壮太くん、次のサッカー部の試合は3年生の引退試合よね? もし、迷惑でなければ応援に行ってもいいかな」
「もちろんだよ。美優が見に来てくれるなら、俺、張り切ってゴールするよ」
「あ――、うぅ…………っ、でも……壮太君のファンに恨まれそうだね」
「俺にファンなんていないって」
「噓つき、いつも女子から黄色い声援沢山もらっているの、美優知ってるんだから」
美優はふっくら頬っぺを膨らました。
壮太はその様子を見てくつくつと喉の奥で笑う。
「俺は美優の声援だけあれば、他には何もいらないよ」
「私だって、壮太君さえいれば、他には何もいらないんだから!!」
壮太が目を丸くしているから、美優は慌てて自分が何を口走ったかを思い出して、ピタリと動きを制止した。みるみる赤面していく美優に、壮太が声を出して笑った。
「ちょっと、壮太君! 笑わないでくれる。でも、本当にいつもそう思ってるの」
「美優、有難うな。俺も美優には一番に優しくしたいし、美優に困ったことがあれば絶対に助けるよ。そうだ、俺に何かしてもらいたいことある?」
美優は考えるように顎に人差し指を当てるとポツリと呟いた。
「あのお花畑に行ってみたいの……」
次の日曜日。美優の願いどおりに出かけた二人は、思い出の場所に立ち尽くした。
「――っ、もうお花畑はないのね」
「そうだな、区画整理されて住宅地になっていたか。俺の家があった場所も跡形もなくアパートになっているし……」
二人はその周辺を少し散策してみることにした。壮太が差し出す手を自然に握る美優。やはりこの辺は辛い思い出が勝ってしまうのか、壮太は知らず知らずのうちに握る手に力が入ってしまう。
「壮太君?」
美優が心配そうに壮太を見上げた。
「ああ、大丈夫だ」
「大丈夫じゃない! そんな青い顔をして。美優が一緒なんだよ、楽しかったことを思い出して!!」
「美優、有難う。美優に出会えたことで、俺の一生の運を使い切ったと思う」
「運じゃなくて、運命だって。あの時、私は初恋だったし、こうしてまた出会えて、私が胸の中でつむいでいた恋心は無駄じゃなかったって思えるの。それに、子供の頃の壮太君はボロを着ていても髪が長くても、私には初めての大切なお友達だったんだからね。壮太君はどんなになったって壮太君なんだから」
美優は無邪気な笑顔で、少し弱気になった壮太の手を強く引っ張った。
美優の肯定的な言葉が、壮太の凍てつく心を溶かしていく。
「壮太君、あそこに公園があるよ。行ってみようよ」
少し先に見える公園へ美優が駆け出した。
公園の芝生にはシロツメクサが咲いており、昔遊んだ花畑よりもずっと小さいが、かの場所を彷彿させる。
シロツメクサで花冠を作りながら「おーい」と壮太に笑顔を向ける美優。小さい頃と変わらないお日様のような笑顔。
「俺はずっとヘタレのままだ」
壮太は自分に負い目を感じ、色々な場面で自分の気持ちを素直に伝えることが苦手だった。特に美優に対しては、過去の経緯もあり慎重になってしまう。
「――だけど、美優を大切に想う気持ちがいっぱいで溢れそうだよ」
壮太は踏み出せなかった一歩を、今一度踏み出してみようかと決意する。
すーっと空気をゆっくり吸い込み、前を向いた壮太の顔にもう迷いはない。
逸る気持ちを抑えながら美優の元へと走り出した。
初恋つむぎ【改訂版】 仙ユキスケ @yukisuke1000
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