第3話 佐々木の爺さんの過去
俺と佐々木の爺さん、そんなに付き合いは無い。
ウチの祖父とは付き合いがあったようだが、父や母との付き合いは薄い。
俺と佐々木の爺さんが接したのも小学生の時に一度だけ。
離岸流の近くで泳いで遊んでいる所を「危ないぞ」と注意された時だけだ。
正直、佐々木の爺さんをよく知らない。
素潜りの名人で、海河童らしい。
俺の知る佐々木の爺さんはそれだけだ。
だが、密漁紛いの事をしているらしい裏の部分があるらしい。
それを俺は探って真相を探ろうとは思わなかった。
亡くなった佐々木の爺さんは、俺は佐々木の爺さんを恨んでいる訳でもない。探る理由はない。
「S町の人ですよね?」
明日、東京へ戻るという日だった。
千葉県から来たKと言う男から話しかけられた。
「私は戦時中のある特攻隊について調べていまして」
Kは歴史の研究をしていて、特に太平洋戦争について調べていると言う。
「海人<カイジン>特攻隊を調べてまして、当時を知る人を知らないですか?」
Kの求めに応じて、俺は祖父ちゃんにKを紹介する。
「何処でそれを聞いた?」
祖父ちゃんはKへまずそう尋ねた。その目は険しい。
「千葉県に住むAさん、東京都内に住むGさんです」
KからAとGの名前を聞くと「大佐のGか?」と祖父ちゃんは問いかける。
「そうです。軍令部のG大佐です」
Kがそう答えると祖父ちゃんは険しい目から、何かを諦めたような目になる。
「Kさんと話すから、ちょっと外してくれ」
俺は祖父ちゃんに言われ、部屋を出た。
二時間ほどしてKさんが出てきた。
「ありがとうございます。お陰で良いお話が聞けました」
そう感謝を言ってKは去って行った。
対して祖父ちゃんの方は重い雰囲気になっていた。
そっとしてあげた方が良いかと思い、去ろうとした時だった。
「佐々木の爺さんな、河童になったのは戦争のせいなんだ」
呟くように祖父ちゃんは言う。
「海を潜る特攻隊になる為に河童になった。戦友達は訓練の時に適応しきれずに死んだ。この海でな」
いきなり語る祖父ちゃん。俺は黙って聞く。
「佐々木はワシに言ったよ、海で戦友が呼んでいると。だから漁以外で潜るんだと」
Yが見た夜中に海に居た佐々木の爺さんの姿は、密漁をしている訳では無かった。戦友に呼ばれたのだ。
そしてとうとう、佐々木の爺さんは戦友達の所から戻らなかったのだ。
海河童の爺さん 葛城マサカズ @tmkm
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