第2話 海河童を見た友人
「とうとう海河童が死んだな」
小学校からの友人Nと久しぶりに会う。ここでも佐々木の爺さんが話題になる。
俺達の間では、佐々木の爺さんは海河童と呼んでいた。
これは当時の子供の間で流行っていた「海河童」の伝説と重ねているからだ。
誰が呼んだか海河童、トイレの花子さんや動く人体模型と並んで恐れられた存在だった。
「夜中に海から上がってくるヒトみたいな奴、そいつに捕まると海へ引っ張られる」
海河童の伝説はこうであった。
海に住む河童であるとか、半魚人とかその正体を好奇心旺盛な子供達は語り合った。
その正体として、佐々木の爺さんも候補に挙がった。
「あんなに潜れるのは海河童だからだ」
根拠無くそう言っていた。
「九十六歳も長生きしてたんだ。本当に妖怪だったのかもな」
Nはガキの頃から変わらずそう言っている。
「おいおい、そんなに言っていたら化けて出るぞ」
俺は柔らかく、友人のおふざけを注意する。
「実はな、佐々木の爺さんを海河童と言ったのは俺なんだ」
友人Yは呑みの席で言った。
「そうだったんか、まあ子供の言った事じゃ、時効だって」
同席するNが子供の悪戯みたいなものだと、Yを安心させようとする。
「冗談で言ったんじゃない。俺は見たんだ夜の海から上がって来た佐々木の爺さんを」
Yは真剣に言った。
Yは冗談で人を貶めるような事を言う正確じゃない。
本当に見た事を言ったのが海河童の伝説と繋がってしまったのだ。
「佐々木の爺さんは何してたんだ?夜中に潜ってさ」
俺は疑問をNとYにぶつける。
「そりゃ、密漁だろう。夜中に潜るのはそれしかない」
漁師をやっているNはそう答える。
漁師の密漁は決められた漁獲量を越えたり、禁止された海域での漁をするなどである。
それを夜中にコッソリと行うのが常だった。
「やはりそうなのかな?」
Yはどこか納得していない様子だった。
「あの夜に見た時は手ぶらだったような」
「その夜は何も取れなかっただけじゃないか?」
Yの記憶にNは断定する。
佐々木の爺さんの悪い部分を知ったような気持ちになる。
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